第14話 驚きのポーター
ケータ達が2体のオークを倒すと、岩陰に隠れていたルミナとギプスが、一緒に駆けてきました。ジェニファーとアンドレもケータの下へと歩いてきます。
「驚いたぞ、ケータ。まさか、ポーター職のケータがオークを倒すとはな」
「未だに信じられんな……」
「ケータって凄いのね!」
ジェニファー、アンドレ、ルミナが、それぞに言葉を掛けて来て、コミュ障ケータは、どうしていいのか分からない感じであわあわしています。
「だいたい、ポーターってのは、荷物を運ぶのが仕事で、普通、戦闘なんかしないだろ? それが単独でオークを倒すだなんて、そんな話、聞いたことがないぞ」
「ゴブリン相手なら分かるが、オークだからな」
アンドレが少し興奮気味に言い、続いてジェニファーが、腕を組んで言うと、ルミナがうんうんと頷きます。
3人の口ぶりから、ポーターが強い魔物と戦うことなど、常識外もいいところだいうことが分かります。しかし、ケータは、そんなことなど知らないので、何で? という顔でした。
「しかし、ケータの驚異的な索敵能力と、オークを単独で倒せるパワーがあるなら、ギプスと2人だけで、この階層を探索することも可能なわけだな」
「ふむ、気配を消すことにも長けているようだし、不利な魔物とは戦わないように避けて通り、倒せる魔物だけ相手にするということか」
ジェニファーとアンドレが、ケータが見せた能力を上げて、それが、ギプスと2人だけでダンジョン内を渡り歩いているという、ちょっとあり得ないような現実を可能にしているのだろうと考察していました。
「ケータとギプスの2人だけでダンジョン探索するなんてすごいよね。この辺りの階層へ来るなら、8人でパーティー組むのが普通なのに。しかもケータはポーターだもん。ほんと、すごいよ!」
最後は、ルミナが、瞳をキラキラ輝かせ、少し興奮気味に言いました。そんなルミナの勢いに押されたのか、ケータはちょっと困惑気味でオロオロしています。
「ハッハー! そういうルミナたちは3人でダンジョンを冒険してるですかー?」
「えっ? ……」
ギプスが尋ねると、ルミナは、はっとした顔をして一瞬目を見開いた後、一転、悲しそうな顔になって俯き、黙り込んでしましました。
「いや、8人でパーティーを組んでいたんだがな、——」
ルミナの代わりに、ジェニファーが、彼らの事情を話してくれました。
ジェニファー達は、ほかの5人と8人でパーティーを組んでダンジョンに入り、この階層まで危なげもなく順調に歩みを進めていたのだといいます。
しかし、今日、この階層に出るはずのないゴブリンが、たった1体だけで現れて、余裕で勝てると軽い気持ちで戦闘に入ったのですが、思わぬ苦戦を強いられてしまったというのです。
そのゴブリンは、武器も持たず、ゴブリンとは思えない素早い動きとパワーで仲間達を翻弄し、途中からは醜悪な笑みを浮かべて、じわじわといたぶるように仲間に傷を負わせていったそうです。ゴブリンとは思えないような鋭い爪も厄介だったといいます。
やがて、リーダーを務めていた剣士の男が傷を負い、後ろへ下がってポーションを飲んで回復した後、彼は勝てないと判断したのでしょう、撤退を指示しました。
そして、卑劣にも、リーダーの男は、ポーターのルミナを囮としてゴブリンへ向けて投げ飛ばし、その隙に逃げたというのです。
ゴブリンが、投げ飛ばされてきたルミナを見逃すはずもなく、強烈な一撃を浴びせたため、ルミナは背中に大きな傷を負ってしまったといいます。
リーダーを筆頭に、パーティーメンバーが逃げ出す中、ジェニファーはルミナを見捨てることなど出来ずにゴブリンと対峙し、アンドレも残ってルミナの治療に当たったそうです。
既に魔法を撃ち切っていたアンドレは戦力にならず、正直、ジェニファーだけでは勝てると思えなかったといいますが、ジェニファーには不思議と後悔は無かったといいます。
ジェニファーは、敵わずとも最後まで戦い抜くと、気持ちを奮い立たせて対峙していたところ、ゴブリンは、ジェニファー達を一瞥すると、逃げたパーティーメンバー達を追いかけて行ったのだそうです。
その後、ポーションを使ってルミナを回復し、3人でゴブリンの向かった方とは反対方向へと歩みを進めましたが、オーク4体と遭遇してしまったそうです。
そして、苦戦しながらも何とかオークを倒したのですが、再びルミナが負傷してしまい、ポーションも尽きてしまって、なすすべがなくなったところにケータとギプスが救世主のように現れたということでした。
「なるほどですネー! 3人とも酷い目にあったですネー!」
「まぁな。あの黒いマダラ模様のゴブリンに遭遇しなければ、こんなことにはならなかったのだがな」
ギプスが、持ち前の陽気さで言葉を掛けると、ジェニファーが、自嘲気味に肩を竦めてみせました。
「マダラ模様って……」
「そう言えば、そんなゴブリン見たですネー!」
マダラ模様と小さく呟くケータに視線を向けられて、ギプスが、思い出したように言いました。
「えっ? 奴を見たのか?」
「いつだ?」
ジェニファーとアンドレが驚きつつも尋ねてきました。
「ジェニファー達に、出会う少し前に見たですネー! 5人の人間達を追いかけていたですネー!」
ギプスの答えに、ジェニファー達が顔を見合わせました。
「おそらく、あのゴブリンだろうな」
「ああ、追いかけられてた5人は、リーダー達だな」
ジェニファーとアンドレが、厳しい顔でそう言うと、ルミナは悲しそうな顔で俯いてしまいました。みんな黙ってしまい、奇妙な間が出来てしまいましたが、そんな微妙な空気をギプスがぶち破りました。
「ハッハー! それで、ジェニファー達は、どこ行くですかー?」
ギプスの問いに、ジェニファーとアンドレが顔を見合わせると、ジェニファーが1つ頷いて、口を開きました。
「それなんだがな、私達はこの階層にある転職神殿へ向かうつもりなんだ」
「ヒャッハー! 転職神殿ですネー!」
ジェニファーの答えを聞いて、ギプスが転職神殿に食いつきました。いつも陽気なギプスですが、さらにテンション高めです。
「あ、ああ、この階層にあるぞ。それでだな、出来ればケータとギプスに一緒に行ってもらいたいんだが、どうだろうか?」
「OKですネー! 張り切って転職神殿へ行くですネー!」
ジェニファーが、少し緊張しながら同行を打診すると、ギプスはノリノリで即決回答しました。
「そうか、ありがたい。正直、私達3人だけだと、この階層は厳しいんだ。ケータの索敵能力があれば、なるべく敵と戦わずに進むことができる」
「ハッハー! ケータに任せておけば大丈夫ですネー!」
ジェニファーが、ほっとしたようすで正直なところを吐露すると、ギプスが、ケータならばと安請け合いするのでした。
さっそく、一行は、転職神殿へ向けて歩き出しました。即席とはいえ、パーティーを組む形となったケータ達は、歩きながら各自の役割を話し合いました。
ケータが索敵を担当して、ルミナの道案内で転職神殿を目指します。
魔物との戦闘となれば、ジェニファーとアンドレが連携して戦います。さすがに練習無しにケータと連携を取るのは難しいとの判断で、ケータは魔物の一部を引き付けて無理せず戦うということになりました。
ルミナとギプスは、戦闘には参加せず、安全な場所に隠れて待機です。ケータが持っていたポーションの一部はルミナに預けて、万が一の場合はルミナとギプスが回復役を担当します。
そんな感じの役割分担をして、ケータ達の即席パーティーは一路転職神殿へと向かうのでした。
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