第15話 筋トレと野営
「美味いな!」
「うめぇ!」
「美味しいねー!」
牡丹肉たっぷりの汁物を食べて、ジェニファー、アンドレ、ルミナの歓喜の叫びが響き渡りました。ケータ達の即席パーティーは順調に歩みを進めて、今は夕食を囲んでいます。
途中、ケータが見つけた猪みたいな魔獣を仕留めて捌き、近くの林で採れた野草やキノコを入れて、手持ちの塩と香辛料で味付けをした、ケータ特製牡丹鍋を振舞いました。
使い古した鍋は、ずいぶんと前に宝箱から出た代物です。おそらく魔道具なのでしょう、なぜか汚れが水でサッと落ちる優れものです。
おたまやお椀もいつしか宝物から出た代物で、ケータは、ほかの料理道具などと一緒にポーターバッグに入れて持ち歩いているのです。
ケータが料理をしている間に、ジェニファー達は、ルミナのポーターバッグから出したテントを設営し、すっかり野営の準備を済ませていました。
「しかし、ケータは料理も出来るんだな」
「魔獣を捌くのも手慣れたものだったよな」
「食べられる野草やキノコを見つけるのも凄いよね!」
ジェニファー、アンドレ、ルミナが、それぞれケータを褒めそやしました。
長い間、ずっとダンジョン内でサバイバル生活を送ってきたケータにとって、どれも日常の事なため、ケータは少し戸惑っているように見えます。
対してギプスは、ケータが褒められるのを嬉しそうに眺めながら、ふよふよとケータの周りを漂っていました。
「高い索敵能力があって戦闘もこなす。加えて狩りや採集で食材を現地調達し、美味い料理も振舞える。そんなポーターは初めてだな」
「まさしく、スーパーポーターだな」
ジェニファーが、おかわりの鍋をおたまで掬いながら、ケータの凄いところを総括するように並べ揚げると、アンドレが、うんうんと頷いて、スーパーポーターなどと言い出しました。
コミュ障ケータは、相も変わらず、どんな顔していいのか分からないといった落ち着かない態度で黙って聞いていました。
「同じポーターなのに、ケータはすごいなぁ……。ねぇ、ケータ、どうやったらケータのようなポーターになれるの?」
ルミナは、同じポーター職として思うところがあるようで、少し羨ましそうな顔をしたあと、率直に尋ねてきました。
「えっ? いや、あの……、筋トレ?」
「「「筋トレ!?」」」
面と向かって尋ねられ、ケータが、あたふたしながら答えると、ジェニファー達が驚きの声を重ねました。
「ぷっ、はははははは。確かに筋トレすれば、力がつくだろうな」
「だが、オークを殴り倒すほどのムキムキマッチョには見えないぞ?」
「う~ん、何かほかに秘訣があるんじゃないかな?」
ジェニファー、アンドレ、ルミナが、それぞれにケータの筋トレについて思うがままに話します。
「ハッハー! 筋肉を鍛え上げれば、すべてが解決するですネー!」
ギプスのこの一言で、ジェニファー達は笑い出しました。そして、彼らに釣られるようにケータも自然に笑みを見せるのでした。
食事を終えた頃には、辺りは薄暗くなってきて、みんなで、ちゃちゃっと後片付けを済ませるとギプスが大きく声を上げました。
「さぁ、ケータ! 食後の筋トレ始めるですネー!」
「おう!」
「「「えっ?」」」
ギプスの筋トレ宣言と、それに元気に応じるケータのようすに、ジェニファー達はもう何度目になるのか分かりませんが、驚きの声を重ねました。
「筋トレ宣言は伊達じゃなかったのだな」
「いや、でも、普通、食後に筋トレするか?」
「私も筋トレした方がいいかしら?」
ケータが、ふんふんと筋トレをするようすを見て、ジェニファー、アンドレ、ルミナが、思い思いに話します。ケータは、そんな彼らを特に気にするようすもなく黙々と日課の筋トレをこなします。
「ねぇ、ギプス、私も筋トレしたら、少しはケータに近付けるかなぁ?」
「ハッハー! もちろんですネー! ルミナも一緒に筋トレするですネー!」
ルミナが、辺りをふよふよと漂うように泳いでいたギプスを捕まえて尋ねると、ギプスは陽気に応対します。
「うん、やる!」
「おっ、私も一緒にいいか?」
「ハッハー! いいですネー! ですが、いきなりケータと同じメニューは、ハード過ぎるですネー! まずはストレッチから始めるですネー!」
ルミナと共に、ジェニファーが筋トレに興味を示して、ギプスに教わりストレッチを始めることになりました。魔法使い系のアンドレは、あまり興味がないようで不参加です。
「筋肉を伸ばすストレッチは、しなやかで柔軟な体を作るですネー!」
「うんうん、なるほどな」
「ううー、体がかたいー」
「毎日トレーニングすれば、だんだん柔らかくなるですネー! 継続が大事なのですネー!」
「うんうん、もっともだな」
「くぅ~、辛いよ~」
「柔軟な体は、動きをスムーズにして、怪我も少なくなるですネー!」
「うんうん、戦闘で生きるな」
「ぐむむむむ……」
ギプスの講釈に、ジェニファーが、柔らかな体を適度に伸ばしながら理解を示している横で、ルミナは、硬い体を必死に伸ばそうと奮闘するのでした。
ギプスコーチの一連のストレッチが終わったころには、すっかり暗くなっていて、焚火の明かりの中、ジェニファーは、爽快そうに笑顔を見せて、ルミナは、すっかり疲れ果てていました。
「野営の見張りだが、交代でいいか?」
「ハッハー! 見張りはギプスに任せるですネー! ギプスに睡眠は必要ないですから、みんなゆっくり眠るといいですネー!」
ジェニファーが、見張りの話を持ち出すと、すかさずギプスが自分がやると立候補しました。その理由を聞いて、ジェニファー達がまたもや驚いていました。
「なるほどな。ギプスが夜間の見張りを一手に引き受けているなら、ケータは十分な睡眠を取っているということか」
ジェニファーが、納得するように呟きました。
「ハッハー! 魔物が来たら、問答無用で全員叩き起こすですネー!」
「ふふっ、当然だな。では、見張りはギプスに任せて休ませてもらうとしよう。みんなもそれでいいか?」
ギプスが、魔物が来た時の対処を告げると、ジェニファーが問題ないと判断し、仲間に確認を取るように尋ねました。
「ああ、少人数での夜の見張りはしんどいからな。正直助かるよ」
「ギプスちゃんが天使に見えるわ!」
アンドレ、ルミナは、そう言って、ギプスが見張りを引き受けてくれることを喜んで了承するのでした。
アンドレ達はテントを2つ建てていて、ジェニファーとルミナは早々に同じテントへ入って行きました。男女でテントを分けて使うようです。
「ケータ、テントは使わないのか?」
「あ、いや、その……、使わない……」
アンドレが、自分の使うテントを示して尋ねると、ケータは、相変わらずのコミュ障ムーブで、たどたどしく答えました。
「ハッハー! ケータは、夜中もトレーニングするですネー!」
「はぁ?」
補足とばかりに、ギプスが割って入って発した言葉に、アンドレは呆けた声を上げました。
「魔物が来たら、寝てても気付くようにトレーニングしてるですネー!」
「マジかよ……」
続くギプスの説明に、アンドレは、信じられないとばかりに、呆れ果てたようすで呟くのでした。
【魔物】
この世界では、魔物は、体内に魔石を持つ生物の総称を示すことが多いです。魔物の中には、倒すと魔石を残して体が霧散して消えてしまうものと、倒すと体内に魔石を有した死体が残るものが存在し、前者を魔物とし、後者を魔獣として区別することもあります。ちなみに体内に魔物を持たない動物は、獣とか動物などと称して魔獣と区別することが多いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます