第20話 転職神殿の管理者
ケータは、案内人28号からジョブについて教えてもらいながら適度な筋トレを終えると、鑑定の間へと案内してもらいました。
鑑定の間は、ダンジョン内で得たアイテム類や鉱物、植物などの素材なんかを鑑定出来るという大きな黒い鑑定台が据えられていました。
『鑑定したいアイテムを鑑定台の上に乗せてください。鑑定結果はあちらの壁のボードに表示されます』
「えっと、これを……」
案内人28号の案内を聞いて、ケータは、腰の後ろに着けているナイフを鞘ごと外して真っ黒な鑑定台の上に置きました。
『それでは鑑定します』
ブン……
案内人28号が鑑定を告げると、壁のボードから謎の音がして、ボードの上に白い文字が浮かび上がりました。
<風切りナイフ>
風魔法が付与されたナイフ。風魔法により切れ味が向上し、汚れが付きにくい。
「おおっ! 文字が現れた!」
「ハッハー! 予想どおり、魔法が付与されてたですネー!」
「本当だ。切れ味が向上するって書いてある。確かに、ほかのナイフよりもスパスパと肉が切れたし、汚れも付きにくかった」
「ケータのお気に入りですネー!」
ケータとギプスは、鑑定結果に大喜びです。気を良くしたケータは、ポーターバッグから次々とアイテムを出して鑑定してゆきます。
「おおっ! この鍋、汚れが付きにくいと思っていたら、魔法が付与されてたよ」
「ハッハー! お椀もですネー! さすがダンジョン産ですネー!」
しばらくの間、ケータとギプスはテンション高くアイテム鑑定を続けたのでした。
鑑定の間でアイテム鑑定を終え、再び筋トレをしていたケータでしたが、ふと起き上がり、ギプスと一緒に入口扉を見つめました。
「誰か来たですネー!」
「あれ? たしか、ここでは誰とも会わないようになってるんじゃなかったっけ?」
ケータが疑問に思うのも無理はありません。確かに、案内人28が、そのようなことを言っていたのです。
扉を開けて入って来たのは、ずんぐりむっくりで2足立ちしたヤギでした。
「やぁ、レアなジョブを授かったんだってね」
3頭身で、大きな杖を持ち、黒ぶち眼鏡を掛けたヤギは、鑑定の間へと入るなり、のんびりした口調で言いました。
「えっと、どちらさまですか?」
「おや? 若いのに、私を見ても驚かないんだねぇ。普通の人は、私の姿を見るなりヤギがしゃべった!? とか、魔物が出た!? とか騒ぎ出すのだけれどもね」
ケータが、取りあえずといった感じで尋ねると、ヤギは、意外な反応だなと、ちょっと嬉しそうでした。
「ヤギがしゃべると、驚くんですか?」
「はっはっは、人間達は、驚くんだけどねぇ」
「そうですか? 魚がしゃべるんだし、ヤギがしゃべっても不思議はないですよ?」
「うん? 魚がしゃべる?」
「ハッハー! 見た目は魚、頭脳は大人、その名はギプスですネー!」
「うひゃー!? 金魚がしゃべったー!!!」
ケータの背中から、ひょっこり出て来たギプスが挨拶すると、ヤギは、飛び上がるほどにビックリし、腰を抜かしてしまいました。
「えっと、驚かせてごめんなさい。俺はケータ。こっちは相棒のギプスです」
「ハッハー! そんなに驚くとは思わなかったですネー!」
「あはは、いつも驚かれる方なので慣れてなくてね。私は、メルメ・ルメイエ、この神殿の管理をしている者だよ」
ケータが、腰を抜かしたヤギを引き起こしながら、自身とギプスの名を告げると、ヤギは、ずり落ちた眼鏡を掛け直しながら転職神殿の管理者だと名乗りました。
「メルメルメーさん?」
「ハッハー! 楽しい名前ですネー!」
「あはは、メルメルメーじゃなくて、メルメ・ルメイエだよ。まぁ、メルメと呼んでおくれ」
ケータが、お約束のように間違えた名前を呼ぶので、メルメは、一応間違えを正しましたが、ファーストネームで呼ぶように言い、なぜか、ケータの手を握りしめ、ぶぶんと握手を交わしました。
「ハッハー! それで、メルメは何しに来たですかー?」
「おっと、そうだったね。28号からレアなジョブを授かった者がいると聞いて見に来たんだよ。なんでも、筋トレポーターとかいうジョブらしいねぇ」
ギプスが尋ねると、メルメは思い出したように、ここへ来た理由を話してくれました。
「うん、筋トレポーターというジョブだったよ」
「やはり、聞いたことのないレアジョブだね! ケータくん、是非ともジョブ特性について教えて貰えないだろうか」
ケータが素直に認めると、メルメは目を見開いて、ケータの手をぎゅっと握り、鼻息荒くジョブ特性について尋ねてきました。
「えっと……」
「ハッハー! ケータは、話していいのか困ってるですネー! 知らない人にはジョブの話は黙っているのが普通ですネー!」
ケータが、どうしていいのか困って言い淀んでいると、ギプスが、ケータの意図を代弁しました。
実は、ケータは、ジェニファーから、ジョブについては、なるべく話さない方が良いと聞いていたのです。
ジョブが分かれば、その人の強さがどの程度で、どんな攻撃が得意かなど推測され易くなり、敵対する場合は不利になってしまうというのが理由でした。
もっとも、パーティーを組んでいたりすると、だんだんどのようなジョブなのか見当がついて来るようですが、手札は容易にさらさないということです。
「おっと、そうだったね。いきなりですまなかった。改めて、君達から聞いたことは誰にも話さないと約束しよう。そう、この神殿の管理者としてね」
賢明なメルメは、一度ケータに謝罪をすると、改めて誰にも口外しないと約束しました。
「ハッハー! こういう時は、一応聞いておくですネー! メルメは、どうしてケータのジョブについて知りたいのですかー?」
続いて、ギプスが発した問いに、ケータはうんうんと頷きます。
「あはは、単なる興味本位なんだよね。私は、ここで長いこと管理者をやっているものだからね、ここで得られるほとんどのジョブを知っているつもりだったんだよ。だけどね、今まで聞いたことのないジョブが出たというじゃないか。そりゃぁ興味が湧くというものだよ」
メルメは、単なる興味本位だということですが、身振り手振りを交えて、その気持ちを熱く?語りました。なんだか、オタクじみた匂いがします。
しかし、ケータとギプスがジーっとメルメを見つめていると、彼は、このままではダメだとでも思ったのでしょう、顎に手を当て少し考える仕草をしたあと、1つ提案をしてきました。
「そうだ、ケータくんが得た筋トレポーターというジョブの特性を教えてくれた後、少し検証に付き合って貰えたなら、ケータくんには、いい物をあげようじゃないか」
「検証?」
「ハッハー! いい物とは、なんですかー?」
メルメの提案に、ケータは、検証のところで首を傾げ、ギプスは、報酬の物について問いました。どちらも気になるところです。
「うむ、検証とは、ジョブ特性の検証だね。ジョブ特性を聞いたうえで、どのような検証を行うか考えるよ。それから、いい物というのは、これの事だよ」
メルメは、そう答えると、モフモフなお腹の毛の中から革製のキーホルダーのような物を取り出してみせました。
「ん? なんだこれ?」
「ヒャッハー! お宝アイテムですネー!!」
ハテナを浮かべるケータに対して、ギプスは、お宝だと言ってケータの頭の上を飛び回り、興奮気味にはしゃぐのでした。
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