第4話 サバイバルな生活
初めてゴブリンを倒した後も、ケータは、不思議な池の周りでトレーニングを続けました。ギプスからは、ゴブリンとの戦闘も良いトレーニングだとして、しっかりとメニューに取り入れられています。
そして、数日が経ったころ。徐々に少なくなってきていた池の水が、もうほとんどなくなってしまいました。ギプスが言うには、池の水が無くなると、普通に魔物が出るダンジョンの森になるのだそうです。
「そろそろ出発するですネー!」
「そうだね。いけのみずさん、いままでありがとう」
ケータは、今まで生活の拠点としていた池にお礼を言って、出発しました。
行先は、ダンジョンの外です。しかし、ケータが強制労働させられていたときに使っていた出入口ではなく、別の出入口を目指します。
ギプスからの情報で、ダンジョンの出入口は1ヶ所ではなく、いくつもの出入口があることが分かっています。ただし、ダンジョンの階層をいくつか渡っていく必要があるそうです。
イメージ的には、一度、とある入口から地下への階段を降りて行き、下の方のとある階層で別の階段を上って行くと全く違う出口から出るという感じです。
見方を換えれば、各地に点在するダンジョンが、どこかでつながっているということになります。
わざわざダンジョンを渡って別の出口を目指すなんてことをするのは、ケータが再び強制労働をさせられることを避けるためです。ケータを知っている人間に見つかることなく、別の土地へと向かうのです。
これまでギプスとトレーニングをしてきた日々の中で、ケータは、ギプスと何度も話し合って、そうすることに決めたのです。
しばらく、森の中を進んで行くと、ケータは何だか不安そうな顔で、何度も来た道を振り返るようになりました。そして、ある時、ケータが、不安そうな声でギプスに話し掛けてきました。
「こっちでいいの?」
「さぁ? 分からないですネー!」
「まいごにならないかなぁ……」
「大丈夫ですネー! ギプスはマッピングスキルがあるですネー! 一度、行ったところは分かるですから、迷子にはならないですネー!」
道に迷うことを心配するケータに、ギプスは安心させようと、スキルの話を持ち出しました。
「まっぴんぐすきる?」
「迷子にならないスキルですネー! ケータにも生えて来るかもですネー!」
「はえる? どゆこと?」
「トレーニングを頑張れば、今まで出来なかったことが出来るようになるということですネー!」
「なるほど、がんばる!」
「その意気ですネー!」
迷子の話から、マッピングスキルについて興味を持ったケータは、いつの間にやら顔から不安の色が消えていて、トレーニングを頑張ろうとやる気になるのでした。
ケータとギプスは、毎日、森の中を最大限に警戒しながら、ゆっくりと移動して行きました。ときおり遭遇するゴブリンなどの魔物は、1対1なら倒してしまい、2体以上いるようならば、逃げたり隠れてやり過ごしたりして戦いを避けています。
この辺りで出会った魔物は、ゴブリンを始め、大きな芋虫や大きなカエルでした。芋虫やカエルは、あまり動きが早くありませんので、落ち着いて戦えば、それほど怖い相手ではありませんでした。
魔物以外では、ウサギや小型のシカ、タヌキや小型の豚など、比較的小型の動物たちがいて、狩ればお肉が食べられました。
そして、ときおり人間達を見つけましたが、決して近寄ることはせず、見つからないように、そうっと逃げるようにその場を離れるのでした。
ケータとギプスは、木の実を見つけては、バックパックに詰め込んで、食料品の確保に励み、夜は比較的安全そうな場所を見つけて眠りにつく毎日を送ります。
ギプスの指示で、ケータは、筋トレを始めとした各種トレーニングも毎日欠かさず行っていました。索敵や魔物との戦闘もトレーニングに含まれます。
そんなサバイバルな生活をして、ダンジョンをゆっくり移動していたある日、大きな木の下に、森の中にはそぐわない箱を見つけました。
「なんだろう?」
「ハッハー! 宝箱ですネー! ダンジョンで時々見つかる不思議な箱ですネー!」
「たからばこ? はっ!? おたから!!」
「お宝が入っていると言われますが、当たりハズレがありますネー! そして、罠が仕掛けられているかもですから気を付けるですネー!」
宝箱と聞いて、キラキラと目を輝かせるケータに、ギプスは、罠の話をして気を付けるように促します。
「わな?」
「鍵が掛かってたり、毒矢が出てきたり、いろいろですネー!」
「どく!?」
「魔物が化けていて、突然襲って来ることもあるですネー!」
「まもの!!」
「ハッハー! 今のケータなら、ぱっくりと食べられてしまうですネー!」
毒とか魔物とが聞いて、ケータは、驚きに目を丸くしました。そんなケータを見てギプスは、食べられるぞー、と揶揄うようにおどけてみせます。
「どうしよう……」
「開けてみないですかー?」
少し距離をおいて、悩ましそうに宝箱を見つめるケータに、ギプスは、ふよふよと空中を泳ぎながら問いました。
「あけたいんだけど、わながあったら、たいへんだよ? ギプスぅ、どうすればいいの?」
「ハッハー! まずは、罠があるか確認するですネー!」
「うん、どうやるの?」
「宝箱をジッと見つめるですネー」
「うん、みつめる……」
「そして、全身の筋肉で感じるですネー!」
ケータは、ギプスに教えられるまま、素直に罠の見極めにチャレンジをするのですが、ギプスは、なんかとんでもないことを言い出しました。
「きんにくでかんじる……。……。う~ん、よくわかんない。ギプスはわかるの?」
「もちろんですネー!」
「どんなわな?」
「ハッハー! この宝箱には、罠どころか、鍵も掛かってないですネー!」
「ええっ!? わながあるんじゃないのぉ!?」
「罠が掛かってない宝箱もあるですネー! ケータもたくさんトレーニングすれば、見分けがつくようになるですネー!」
ケータは、罠が無いと聞いて、またもや驚いていました。ギプスは、そんなケータの顔を見ながらトレーニングを勧めるのでした。
「ハッハー! ケータ! 宝箱を開けるですネー! どんな宝物が入っているか楽しみですネー!」
揶揄われたと思ったのか、ぷうっと、口先を尖らせて拗ねるケータに、ギプスは、宝箱を開けるように促します。
ケータは、宝物と聞いて、すぐに気を取り直して、宝箱を開けました。宝箱の中には革の鞘に入ったナイフがありました。
「ナイフ?」
「イエース! ナイフですネー!」
ケータが宝箱から、鞘付きのナイフを取り出すと、宝箱は、ボフンと煙となって消えてしまいました。
「うわっ! きえた!」
「ハッハー、宝を取り出すと、宝箱は消えてしまうものですネー!」
「そうなの? まものみたいだね」
「そうですネー! でも、それがダンジョンの宝箱ですネー!」
宝箱が消えたことに驚くケータに、ギプスは、そういう物だと説明しました。原理などはさっぱりですが、ダンジョンの中では、当たり前の現象です。
ケータの興味は、すぐに手にした鞘付きナイフに移りました。
「ケータが持ってるのよりも頑丈そうですネー!」
「ちょっと、おおきいね」
ケータが、鞘からナイフと抜いてみると、金属の光沢がキラリと光り、しっかりとした厚みがあるサバイバルナイフのような刃が確認できました。幼いケータの手には少し大きいですが、頑丈そうな作りは、長く使えそうです。
「おにくをさばくのにべんり?」
「ハッハー! 使ってみれば分かるですネー!」
ナイフを手にして、ふふん、と嬉しそうな顔をして感想を述べるケータに対して、ギプスは、適当な言葉で答えました。
それもそうかと、ケータは、ポーターバックにお宝ナイフをしまい込むと、ギプスと共に森の中を歩きはじめるのでした。
【宝箱】
ダンジョンのところどころに置いてあるアイテムの入った不思議な箱です。罠が仕掛けられているものも多いです。箱の中には何が入っているか分かりませんが、衣服などの装備品の場合は、不思議なことに開けた人にぴったりと合うサイズのものが入っています。
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