第34話 戦いの果てに

「グハハハハハハ、ニンゲン、ヨワイ、コロシタゾ!!」


 マダラ模様のホブゴブリンは、ケータを踏みつけたまま、大きく笑い声を上げてふんぞり返り、勝ち誇るのでした。


 と、その時、マダラ模様のホブゴブリンの背後の森から小さな影が音もなく忍び寄ると、サッと舞い上がり、手にしたナイフで奴の首裏をブスリと突き刺して、一気に真横に切り裂きました。


「ゴハァッ!?」


 マダラ模様のホブゴブリンは、いきなりの出来事に、何が起きたか分からないまま目を見開いて血反吐を吐くと、がっくりと膝から崩れ落ちてドサッと倒れ伏してしまいました。


 その背後には、ナイフを手に構えたまま、マダラ模様のホブゴブリンをジッと見つめるケータの姿がありました。


 そして、ケータの両手首、両足首の銀のリングがボフッと消えて、代わりにポフっとギプスが現れました。


「ヒャッハー! ケータ! やったですネー!」

「ギプス……。ありがとう」


 いつもの陽気なギプスの声に、ケータは、にっこり微笑んで礼を言いました。



 地に伏したマダラ模様のホブゴブリンは、そのまま動くこともなく、首の後ろの傷口からボロボロと崩れるように灰と化し、徐々に消えてゆきます。


 戦いが終わり、マダラ模様のホブゴブリンが全く動かなくなって静寂が訪れると、離れていたジャガー警部やバルモア、そして、アンドレとルミナに肩を担がれたジェニファーが、ゆっくりと近づいて来ました。


「どうなってんだ? これ?」

「さぁな……」


 バルモアが、マダラ模様のホブゴブリンを見つめながら吐露した言葉に、ジャガー警部が肩を竦めて見せました。


 彼らの常識では、倒された魔物は、ボフっと霧となり魔石を落として消えてしまうのですが、このマダラ模様のホブゴブリンは、少し様相が違っていたのです。


 マダラ模様のホブゴブリンの頭は既に消え去り、胸のあたりまで灰化が進んでいるため、討伐したことは間違いないのでしょうが、ジャガー警部達は、ただ、この不思議な光景をジッと見つめていました。


 やがて、その心臓部から黒いマダラ模様の魔石が現れました。


「魔石……、だよな」

「そうだな……」


 バルモアの言葉に、ジャガー警部が小さく肯定しました。

 それからマダラ模様のホブゴブリンが、全て灰となって消えてゆくまで、しばしの間、誰一人言葉を出さずに、その様子を見つめていたのでした。




 それから、撤退のため離れていたダイヤモンドブレスのメンバーへマダラ模様のホブゴブリンを倒したことを伝えて呼び戻すと、ジャガー警部を中心に周囲を調査しました。


 もちろん、傷ついた人は治療を受け、いつ魔物が襲ってきても対処できるように装備品のチェックなども行いました。


 そんな中、なぜか筋トレをしているケータに、ルミナが話しかけました。


「ねぇ、ケータ」

「ん?」


「あの時……、ケータが魔物に腕を掴まれて、そのまま地面に叩きつけられてから滅多打ちにされて殺されてしまったと思ったの。だけど、ケータは生きていて、あの魔物を倒しちゃったよね。いったい、何がどうなっていたの?」


 ルミナは、どうしても気になって仕方がなかったのでしょう。傍から見ていれば、誰しもがルミナが言ったとおりの光景を見ていたに違いありません。


「えっと……」

「ハッハー! ケータも良く分かってないですネー! そこで、ギプスが説明するですネー!」


 ケータが、筋トレをやめ、鼻の頭を掻きながら言い淀んでいると、ギプスが、代わりに説明を始めました。


 ギプスの説明によると、マダラ模様のホブゴブリンにより、ケータが地面に叩きつけられた瞬間、とあるアクセサリーの効果によって、ケータが瞬間移動し、同時に身代わりの幻影が現れたというのです。


 そして、マダラ模様のホブゴブリンが、幻影のケータをそれと気付かず殴りつけている間に、ケータが、気配を消して背後から忍び寄り、奴が勝ち誇り油断していたこともあって、気付かれないまま首の後ろへナイフを突き刺し、掻き切ったということでした。


 ちなみに、そのアクセサリーというのは、メルメがくれたメルメストラップで、持ち主が致命傷を負った時に3つの効果を同時に発動するというものでした。


 効果の1つ目は、持ち主を瞬間移動させること、2つ目は、持ち主の幻影を作り出して敵を欺くこと、3つ目は、持ち主の怪我を瞬時にある程度まで回復させることでした。


 そして、メルメストラップは、1度効果を発動すると、砕け散ってしまい、2度と使えなくなってしまうというものでした。


「そんな凄いアイテムを持っていたの!? ケータ、凄い、凄すぎるよぉ!」

「あはははは……」


 ルミナの驚きの声に、ケータは、苦笑いです。ケータは、メルメストラップは、お守りだとしか聞いていなかったので、そんな凄いアイテムだとは思ってもみなかったのです。


「ハッハー! ケータのナイフに風の魔法が付与されていたのが、大きかったですネー!」

「えっ!? 魔法が付与された武器って、それも凄い! この前、ジェニファーが手に入れた剣も風の魔法が付与された武器だったけど、ものすごく高かったって言ってたよ」


 ギプスの説明が、魔法が付与された武器の話になって、ルミナが、またまたビックリしていました。


「あの魔物には、ジェニファーの剣がよく効いていたですネー! それは、おそらく魔法が付与された武器だったからですネー! だからケータでも魔物を切り裂くことが出来たですネー!」

「そうだったんだぁ。ギプスは、そこまで分かってたの?」


 調子よく説明したギプスに、ルミナが、素朴な質問をしました。


「ハッハー! みんなの戦いを観察していて、そう推測したですネー! ケータがジェニファーの剣を使って魔物を切り裂いた時に、あの魔物が風の魔法が付与された武器に弱いと確信したですネー!」

「それで、最後にナイフを使えって言ってたのか……」


 ギプスの解説で、ケータが、なるほどと納得顔でした。最後に止めを刺しに向かった時に、ナイフを使ったのは、ギプスのアドバイスだったようです。





 それから、ジャガー警部の判断で、討伐調査を一度打ち切り、彼らはダンジョンを出ることにしました。


 ケータとギプスは、ジャガー警部やジェニファー達に、一緒に行こうと強く誘われて、どうせダンジョンを出るつもりでいたため、同行することにしました。


 ケータとギプスは、いつものように、適度に筋トレをするので、そのたびに、ジャガー警部達から呆れられたり、ジェニファーとルミナが筋トレに参加したりと、それなりに楽しくダンジョンを進むことができました。


 そして、とうとう、ケータとギプスが、ダンジョンを出るときがやって来ました。

 ちょうど、日の出の時間だったようで、朝日が眩しく感じられました。


「ハッハー! ケータ! ダンジョンの外へ辿り着いたですネー!」

「うん、太陽の光が眩しいね」


 もう何年もダンジョンでサバイバル生活を送っていたケータは、地上の朝日をしばらく見つめていました。


 ケータの事情をある程度聞いていたジェニファー達は、そんなケータとギプスのようすを微笑ましく見つめるのでした。







 以上で、筋トレ×ポーターのお話は、おしまいです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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筋トレ×ポーター すずしろ ホワイト ラーディッシュ @radis_blanc

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