第13話 呪いたる王をも無垢たる子は虜にする。
「相変わらずここにいる魔物達は毛色が違うなあって思って気をはっていたんだがな」
マードックは目の前の状況に困惑する。
「人を呪うのより、その呪いで楽しい事をしたほうが面白いよ」
ミロクはにこにこしながら異形の怪物達に声をかけながら遊んでいる。
「呪いが懐くなんてことあるのか?」
マードックは首を傾げながら呟く。
この森は呪王の森といわれ悪逆の都から歩いて数分の所ではあるが、遥か昔、人身御供で数多の呪いを受け生贄となった女性がその呪いに適応しあらゆる呪いを自らの糧にし、世の中を壊そうとした中でとある聖女がその力を無効化し、この場所へ封じたとされる。呪王の影響でこの森は変質し、その生き物ですらその穢れの影響で呪いという付加を得、浄化の術がなければ入れないという特級領域なのであはあるが、本来、呪いというものは、大小あれど、精神や命を脅かし、あらゆる災いを産み出すものであるのだが、ミロクに至ってはなにも起こらず、寧ろ異形の怪物達が動物のように懐いていると思われる。
「坊主、何喋ってるのかわかるのか?」
「なんとなく?とりあえず皆従魔になりたいっていったから従魔にした」
「・・・呪い持ちの異形を従魔にするなんてはじめてきいたぞ」
「本当になあー、何故か空気が変わったときてみたら珍しい事象が起きているえ」
「お姉さんだれ?」
「お姉さんか、いいねえ、そんな風に言われるのは女の人は喜ぶからいいことさ、なかなか無意識としては女心がわかる、坊やじゃないか」
「おいおい、なんで今呪王が出てきてるんだよ」
「ああ、あんときの小僧か、デカくなったねえ、相対したのは30年前くらいか」
目の前に現われた紅い着物の美しい美少女にも美女にも見える長身の美しい女性は妖艶に微笑みながらキセルをふかす。
「まさか、あんたが出て来るなんてな、坊主、後ろに」
「なんで?」
「いや、危険だから」
「このお姉さん、別に変な気配してないよ、寧ろ騒がしかったからおうちから出てきただけでしょ?」
「坊主・・・。」
「・・・くっはっは!!!面白い坊やだねえ、私の事を伝聞でも聞いていたら誰もが警戒するだろうけど」
「?なんか強い気配するけど、別に綺麗なお姉さんだけど?」
「・・・ははは!!坊や、いいねえ、気に入ったよ、名前は?」
「ミロク、龍堂ミロク」
その名前を聞いてふむと頷くと
「なるほど、あの女の血筋の子か、通りで懐かしい気配がすると思ったよ、坊や、お父さんの名前は?」
「龍堂真一」
「なるほど、あの女がたまに足を運んでた時、息子が世界を救ったとかいってたけど、なるほどねえ、坊や、お父さんのお母さん、つまりおばあちゃんは会った事あるかい?
」
「そういえばお父さんの方は会った事ないなあ」
「くくく、確定だねえ、あんたのお祖母ちゃんは創造神の加護を得たはじまりの不死の聖女だよ、色んな名前があるから今の時代の名前は知らないけどね、わたしをこの森に封印した女さ」
「お祖母ちゃんがなんで?」
「当時、バカな奴らが私を触媒にこの世界の呪いを消し去ろうとしたのさ、私は元々魔を祓う巫女の家系だったんがね、神を超える逸材とか言われて私は嫌だったんだが、まあ寝込み襲われて呪いをかけられたってわけさ、まあそんな中呪い適応というスキルを得て呪法という新しい魔法を産み出し、あんときは若かったからねえ、私を犠牲にした奴らを滅ぼして、そのあと戦場に出る度に呪詛を取り込みその都度世界に呪いを産み出したわけだが、その時に坊やのお祖母ちゃんに出くわしてね」
「・・・はじまりの聖女・・・まさか「夜明けの聖女」か?」
マードックは唖然として声を出す。
「そう、夜を操り星を操り、生死を操る闇にして光の最奥を極めた異端の聖女。はじまりの聖女の一人「夜明けの聖女」、あの女の呼び名はこの世界の創世記にすら記されている。不死にして不老を人間としてはじめて顕現させた女、あらゆる呪いを消し、呪いという属性を反転させ、死者を慈しみ生者に活力を与えた、私が陰の器ならあの女は陽の器、呪いという呪詛を我が身に宿す私とは違い、慈愛という感情の基礎たる祝福をその身に宿す。呪いを無効化し、呪いすらも癒すあの女は紛れもなく天敵だったわね」
呪王と呼ばれた女性はキセルをふかす。
「でもお祖母ちゃんには敵意はないんでしょ?」
「まあね、あんだけ能力を無効化され綺麗に負けたら怒る気にもならないし、神社という社を建てて封印されたのも、あの女の勘に従っただけ」
「勘?」
「つまらないのよ、人を呪うというのは、人を呪わば穴二つ、呪いそのものである私にはただ力が増すだけだけど、負の感情は元々どろりとして美味しくないのよね、人間としての味覚でいうなれば苦みと酸味が混ざり合って得体の知れない味になるような感じ」
「想像したくないなあ」
ミロクは自分の膝で寝ている猫のような異形をなでながら眉間に皺をよせる
「まあ当時は色々思う事もあったし、やんちゃはしてたけど、別に今はそこまでじゃないわ、森も適当に遊びながらいじってたし」
「遊びの結果、この領域か」
「まあ、貴方達からしてみたらやばいレベルなっちゃったかもね」
呪王は肩を竦める
「というと、今の時代暴れるつもりはないのか?」
「呪いも未だ発展途上ではあるけど、基本的に扱うものがいいものではないからね、別に呪いは無効化できるけど、この子達キモ可愛くなっちゃったし、消すのもね」
「確かに可愛い」
「坊主の感性がよくわからん」
「それに、そろそろ私もこの森から出れそうだしねえ」
そう言った瞬間、森の中が思い切り光った!!
「あらあら、孫ちゃんとははじめましてかしら」
途端に現れたのは白いローブを身に纏いにこにこと笑う、白銀の髪に銀黒色の瞳を持つ、小柄な美女、そのわりには女性的な魅力を持ち、誰かに安心感を与えるような母性、巨大な胸に魅力的な妖艶さも持つ人形のような女性。
「来ると思った、「夜明けの聖女」」
「久しいわねえ、呪夢ちゃん、なんだかんだ、この森でおとなしくしてくれたの、嬉しいわ」
「…夜明けの聖女、マジかよ、創世記におけるはじまりの人族の始祖にして創造神の加護、創造神の血肉を与えられ創造されたはじまりの人、俺達の祖先」
「あらあら、私はただのお祖母ちゃんよ、大分昔のお祖母ちゃんかしらねえ、私は旦那様しか契ってないから、あれだけど、他の姉様の血は大体の子には入っているかしらね、それよりはじめましてね」
「お祖母ちゃん?」
「そうよ、お祖母ちゃんよ、真一君から連絡は来ていたけど、なかなかタイミングがつかめなくてね、ちょっと不死とか不老とかあるから若く見えちゃうけど、一応年齢はあなたよりもうんと年上ねえ、お祖母ちゃんは気にしないけど、女の子に年齢はきいちゃだめよ」
「うんわかった!」
「良い子ね、あなたは真一君とトワちゃん2人にそっくりねえ、どう?今はアキラ君のとこにいるみたいだけど、お兄ちゃんは暴れてないかしら?」
「そんなことないよ、アキラお兄ちゃん、いつも美味しいご飯作ってくれるし、ローティアお姉ちゃんもミリアリアお姉ちゃんも街の人達もよくしてくれてるよ」
「あら、大体のお兄ちゃんとお姉ちゃんには会ってるのね、後は長男と次男と四女かしら、癖が強い子達がのこったわねえ」
夜明けの聖女は孫であるミロクをなでながらふふと笑う。
「お祖母ちゃん、お祖父ちゃんは?」
「お祖父ちゃんも元気にしているわよ、そうね、貴方がこちらにきたと連絡が来た瞬間、はじめて会う末孫に贈り物をするんだといってちょっとお出かけしてるわね」
「嬉しいな、贈り物なんてなくても会えたら嬉しいのに」
「あらあら、良い子ねえ、でもね、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも孫には健やかに生きてほしいから、祈りを込めてお渡しするのよ、だからミロクちゃんも元気に楽しく過ごしなさいね」
「ありがとう、お祖母ちゃん!そういえばお祖母ちゃんの名前は?こっちのお姉さんの名前は呪夢ってわかったけど」
「そうねえ、お祖母ちゃん、色々な名前があるからね、この時代の名前はルナティックと呼ばれてるわねえ、なんならお祖母ちゃんも今暇つぶしに冒険者してみてるからねえ」
「お祖母ちゃんも冒険者なの!?」
ミロクが嬉しそうに言うと
「「月の守護者」ルナティック、正体不明のランクオーバーの修道女が「夜明けの聖女」攻防一体の杖術にソロでも活動できる実力者、正体がマジか」
マードックは唖然としながら話を聞いている。
「となると、坊主は、父母に勇者と英雄を持ち、兄と姉は危険人物かつ高レベル冒険者、国の近衛騎士に空賊に魔王、祖母は人族の始祖、本人は呪いすら懐かせる潜在能力未知数の少年、とんでもねえな」
「それにこの子は異界で育ちましたからね、こちらの常識を学ぶにしてもあちらの知識と感覚も合わせてからこちらでも柔軟に動けるのでしょう」
ルナティックは微笑みながらミロクの頭を撫で
「それで呪いの王たる呪夢ちゃんはこの子を見てどう思いました?」
「そうだねえ、可愛いね、呪いに関してもどうやら別の使い方を思いついているようだし、退屈はしなさそうだ」
「あらあら、ならいいわね、ミロク君、呪夢ちゃんともお友達になってくれないかしら?」
「いいよー、呪夢お姉ちゃんも退屈なら楽しい事一緒にやれたらいいんだよ」
「ああ、なんだこれ、この胸がときゅんとするの、やばいわー可愛いわー」
「本当に話通りねえ、真一君の息子なのにこんなピュアなんてすごいわねえ」
「息子にひどいいいようだね」
「真一君も良い子だけど、ほら、あの子なんだかんだ女の子に甘いし、調子のりなのよ、今でこそ落ち着いているけど、若い頃は、おっとミロク君に聞かせる話じゃないわね」
「まあそうだろうなあ」
呪夢はキセルを消すと
「それで、ここからどうすればいいんだ?」
「あら、どうもしないわよ、呪夢ちゃんの封印を解いてミロク君と街にいってもらうかんじかしら、呪いは無効化できるでしょ?」
「ああ、なんだかんだ研鑚の時間はあったからね」
「なんだかんだ真面目よね、魔祓いの血筋でもあるから呪いを祝福に反転もできるようになったかな?」
「まあ長い時間あったからね、それになんだかんだ封印期間は人を殺してはないし」
「あら、貴方は基本的に悪人と判断される人しか手にかけてないじゃない、恐怖で真実を見なかった愚者が歪曲した情報を後世に伝えただけよ、ただの罪人ならば加護は与えられないから、加護はついているでしょう?」
ルナティックはにこやかに微笑む。
「ああ、呪いと祝福の神の加護と断罪の神の加護が」
「呪いは言うなれば想い、誰かを想う反面、憎しみに偏れば呪いとなり、愛に偏れば祝福なる、反転するというのは魔法だけではなく、想いの形でも存在は反転する。貴女は若かりし頃、憎しみをもって呪いの極地にたどり着き私と相対した。けれど戦いの中で呪いの無為さも知った、故に貴女は立ち止まる孤独を受け入れた」
「・・・」
「罪の清算はどうするかなんて当人次第だけれど断罪の神の加護がついたならば、貴女の判断が神に認められたということ、呪いと祝福を兼ね備えた呪いの王というのも珍しいし、ミロク君も特殊な資質を秘めているようだし、いいじゃない、退屈をなくす遊び相手に」
「それもそうだな」
「戦場がある世はいつの世も乱れ呪いがうまれ、呪いによって整えられるのもまた一つの結果よ」
ルナティックはにこにこと笑う。
「さてマードックさんかしら?」
「は!はい!」
「ミロク君の先生だとおもうのだけれど、冒険者でもあるわよね、多分、冒険者の方を呼んでいると想うのだけど、説明して頂ける?」
「了解しました」
マードックは肩の力を抜いて、封印を解かれた呪いの王とはじまりの聖女とミロクと共にその場を後にした。
「・・・どう中央に報告しろってんだい」
冒険者ギルドに現れた白いローブの美女と赤い着物の美女、やつれた顔のマードックに、いつも通り笑顔のミロク。
とりあえず冒険者ギルドマスター室に招きため息をついた。基本的にこの冒険者ギルドは24時間空いていて、ギルド員は交代しながら勤務している。ギルドマスターであるシシリーは人族ではあるが、純粋な人族ではなく寝溜めというスキルと精神増強、肉体増強というスキルを持ち、時間が空いている時に寝るだけで一か月は寝ずに過ごせるスキルを持つのだが。
目の前いるのは人族の始祖にして不死であり不老である「夜明けの巫女」、そして呪王の森に封印されていた呪いの王、そんな2人を前にしても普段と変わらないミロクに、やつれているマードック。
「大丈夫ですよ、そちらのグランドマスターは義理の娘なので報告すれば問題はないですから」
にこにこと笑うルナティックに
「正体がわからないというのはグランドマスターが絡んでたからってことかい、それにミロクちゃんのお祖母様としたら確かにここだけの話にしなければいけませんね」
「ええ、私を信仰してくれるのはいいけども、どうにも私を信仰している月神教は少しずつ俗世にまみれているようですからね、信仰は自由ですし、放っておいたのですが、どうも私を騙る者も出てきているようですから、そろそろお叱りをしないと」
「貴女様が動いたら消滅してしまいますね」
「あら、信仰は自由にしても、世界を脅かす脅威になるのであれば滅ぼすという選択もありますわね、私の名を騙るにしてももう少し穏やかな方法もあったでしょう」
「お祖母ちゃん怒ってるの?」
「怒ってないわよ、ミロク君、お祖母ちゃんの名を使って悪い事した人達をどうしようかなあって話してたとこですよ」
「宗教は頭がいいと勘違いしている奴からしてみたら良い金になるからなあ」
マードックはため息をつく
「求心にお布施、ネームバリューがあればあるほど、稼げるからねえ」
シシリーはため息をつく。
「私の時代も似たようなのあったね、散々神の名を騙って最終的に神の怒りに触れ更地にされたけど」
「うーん、お祖母ちゃんが困って、よくわからないひと達がお金を払ってるなら、ちゃんといってだめだよって言ったらいいんじゃないかな」
ミロクの言葉にマードックは苦笑しながら
「それはそうなんだが、坊主、月神教ってのはな、この大陸の三分の一が国教としている国で大陸バランスを考えるとだな、難しいな、どう説明したらいいんだ?」
「大丈夫、大丈夫、ちゃんと息の根止めれば」
突然入ってきた軽薄な声に振り向くと青いグラサンをかけたいつものアキラがいた。
「あら、アキラ君、元気そうね」
「ばあさんも相変わらずお綺麗な事、なんだか冒険者の奴らが騒がしかったから、何かと思って来てみたわけだが、こういうわけね、で、話聞いてたけど、ばあさん、やっていいの?」
「そうね、信徒さんたちはこちらで受け持つから、おバカな人達は懲らしめちゃって」
ルナティックに言われてにっこりと笑うと
「OK、まあエイジのおっさんも部下を貸してくれるというし、なんだかんだこの街の顔役は皆協力しくれるらしいし、まあ正直うざかったからな」
「そうねえ、最初お願いされた時はそれなりに普通の組織だったんだけどね」
「長い時間があれば人間は腐りもするし、よほどの性根が正しくなければ権力で狂うだろうからなあ」
「きちんとした精神を育むための教典でも作りますかね」
「そうだなあ、インパクトがあることがあれば尚更いいな」
アキラはにっこりとミロクの顔を見ると
「ミロク、ちょっとばあちゃんを助けると思って兄ちゃんに協力してくれるか?」
「いいよー?」
「それと呪いの王がここにいるってことは祖母ちゃんの封印は解けてるってことだよな」
「そうだね」
「祖母ちゃん、祖父ちゃんは?」
「そろそろ、現れるんじゃないかしら、アキラ君達にも会えるの楽しみにしてたしね」
「いいねえ、じゃあ派手にやりますか」
アキラはにやあと笑った
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