第5話 兄姉弟三人
「あんらまー、可愛いこだねえ」
猫の顔をした恰幅のいいエプロンをつけた大きな女性、猫獣人と思わしき女性がにこにこと笑いながら食堂のカウンターから顔を出した。
「ミルティアさん、私の弟のミロクです、今日こちらにきたんです」
アロンドはにこやかに返すとミルティアと呼ばれた猫獣人の女性はにこにこと笑う。
「そうかい!よろしくね!ミロク、アロンドの弟っていうことはそこにいるバカアキラの弟でもあるってことだね!あたしはアロンドもいってたけど、ミルティアっていうのよ!そのバカ兄貴が冒険者しはじめた時の相棒ってとこかね!」
アキラは肩を竦めて
「おいおい、弟になんてことを吹き込むんだ、泣いちゃうぞ」
「あんたがそんなたまかい!それより自分の生活態度改めな、こんな小さい男の子に悪影響与える存在になりたいのかい」
「ひでえな、さすがに自重するわ」
アキラはからからと笑う。
「ミルティアさんは、アキラお兄ちゃんと仲良し?」
ミロクの問いににこにことミルティアは返す。
「まあ、腐れ縁だからねえ、あたしは旦那がこの国の騎士だから冒険者は引退して食堂の調理人に収まったけど、まだまだこいつは現役だからねえ、こんなでもランクオーバーっていう特級戦力の一人だから、こいつ一人で大陸滅ぼせるくらいだからねえ」
「よくわかんないけど、アキラお兄ちゃんがすごいってことはわかった」
「そうだぞ、兄ちゃんはすごいんだぞーー!!」
「デレデレしちゃって、まあ実力は保証できるし、自衛の力が必要なら色々と学ぶには良い先生にはなるだろうねえ、というと親父さん達もきてるのか」
ミルティアの言葉にアロンドは頷き
「ええ、お父さんもトワ母さんとスピリオネお爺さんもきてますね」
「おや、おじい様まで同行かい、揃うのは珍しいね」
「ええ、おじい様はあまり世間には来ませんからね、ミロクがこちらに来るから同行したんでしょう」
「魔法団の人も旅に出ている宮廷魔導士のあの人も戻ってくるかね、女王陛下と共に師事したのだから」
ミルティアが言うと同時に白銀のローブを纏った顔を隠した男が現れた。
「・・もう帰ってきてる、お師さんの気配がしたからね」
「お帰り、ディーン、宮廷魔導士なんだから、なるべく城にいなよ、いくら陛下が許してくれるとはいえ」
「・・・大丈夫、弟子達は常に研鑚を怠ることはない、真面目な子達だし問題ないよ」
ディーンと呼ばれた男はミロクに目線を合わせると
「ミロク君だね、こんにちは、僕はディーン、君のお爺さんの弟子で、君のそこにいるお姉さんの友人で、そこにいるバカお兄さんの悪友でもある」
「ディーン!!お前、弟に何吹き込んでんだ!!」
「事実だが?」
アキラの言葉にディーンはしれっと声を返す
「そしてアキラとあたしとディーンは昔の冒険者メンバーってとこかね、さてお昼だから、そろそろ注文いいかね」
ミルティアの言葉に後ろを振り向くと気まずそうに待っている騎士達と魔導士達がいるのを見てすぐ注文をすることにした。
「こっちの食事も僕がいた所とそんな大差ないね」
「ああ、陛下が転生者がよく転生している場所に住んでいた事もあって、失伝している調理法とか技術とかを保存してこの民に教えているみたいだからね、無償ではないが技術提供も同盟国や近隣諸国には提供しているみたいだし」
アキラの言葉にミロクは頷く。
「まあ異世界の技術とこちらの世界の技術を重ね合わせてるのもあるから、ある意味高度な技術になっているとも言われているけどね、現存している長命な転生者から言わせると」
ディーンはステーキを食べながら話す。
「巫女の神託では転生術式を悪用していた邪神の使徒とそれを推奨していた神達の討伐をお父さん達が請け負い、完全ではないけれど、意図的な転生は防ぐ事には成功したと報告はきてますね」
「まあ高度な技術や度が過ぎた加護は世界を乱す要因になるからなあ、力を持つ者には覚悟が必要だからな」
「稀に真面目な事をいいますね」
「ひでえな、妹ちゃん」
アキラはかつ丼を食べながら肩を竦める。
「ご飯美味しい」
「ああ、ミルティアの飯はマジうまいからなあ、旅ですごく助かったぜ」
「まあ僕達も料理はできるが最低限だからな」
ディーンとアキラは頷きながら語る。
ちなみにアロンドはナポリタン、ミロクはアキラにおすすめのビーフシチューを渡されていた。
「あー喰ったー」
アキラは背を伸ばすと同時にアイスコーヒーを飲む。
「さてと、ちょっとミロク預かるわ」
「いきなり?」
「最初の説明がいつも足らないな」
「ああ、ミロクもこっちにきたわけだし、親父達から戦う術やら生活する術を教えてやってくれと言われてんだ、そんで俺の稼業も親父は知っているからなー、冒険者や傭兵にも伝手があるし、まあ色々なんとかなんべ」
「魔法使えたり、冒険者になれるの?」
ミロクは嬉しそうにアキラの顔を見る。
「ああ、まあミロクの住んでた場所は魔物も魔法とかもないようなとこだからな、楽しみにはなるか」
「お父さん達が言ってるなら問題ないけど、変な事教えないでよね」
「9歳に大人の遊びははえーわ、俺だってそんくらい考えるわ」
「まあ真一さん達がいるならしばらくこの国で話す事もあるだろうからな」
ディーンの言葉に
「まあ俺ですよ、一応許可もらって鑑定したが、才能ありありで鍛えがいあるわ、それにどんな種族に変わるか見えないのもはじめてだからな」
「アキラ兄さんが言うのなら相当ね」
「超越者にもなりうるという事か」
「超越者?」
「なあに、自分を鍛えていくうちにわかるさ、ミロク、お前は賢いだろうから」
アキラの意味深な言葉にミロクは首を傾げる。
「さて、お金は払ったよな」
「うん、もう払ってるよ」
「もういくのか」
アキラは頷くと
「さて、ミロク、これから転移で俺の住んでる街にいく、まあ特殊な街ではあるが、気のいい奴らばっかだ、俺の仲間達にも紹介するから気楽にしとけ」
「うん、よくわかんないけどわかった、転移って?」
「ほんと、お前はかわいいなあ、ああ、すぐわかる、じゃあまたな、アロンド、ディーン」
「兄さん、悪影響になる事はくれぐれもね」
「まあさすがにないとは思うが」
「お前らなあ」
「日頃の行いだ」
「ちゃんと先生してやるから覚えとけよ」
アキラはそう言うと同時にミロクの手を取り姿を消した。
「まあアキラ兄さんがいるから心配はしてないけど」
「行く場所が悪逆の都クーロンだからなあ」
「そこに居を構えるアキラ兄さんも兄さんだけど、アキラ兄さんに頼んだお父さん達もお父さん達で何かあるのかしら」
「少なくともあの方達が無意味な事をするとは思えないけどな」
「それに悪逆の都なら間違いなくあの姉さんが来るわね」
「ああ、空賊の頭の妹さん」
「私以上に可愛い者に眼がないから、アキラ兄さんとローティアが組んだらすごいわ、心配になってきた、休暇はとれないし」
「まあアキラの腹心には彼がいるからね」
「ああ、なら大丈夫かしら、なんであんな常識的な人がアキラ兄さんの右腕に収まってるのかしら」
「少なくとも彼には彼の理由があるんだろうね、でなければ何者にも属さず国にも属さない無法の楽園にいるとは思えない」
ディーンは肩を竦める。
「そんな無法の街に無垢な少年を連れていくというのもなんらかの変化の兆しかもね」
ディーンの言葉にアロンドはきょとんとした。
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