第6話 悪逆の都クーロン
悪逆の都クーロン。ここでは命は金よりも安く、あらゆる権力が及ばない悪逆の都、無法こそが法であり、強き力の者がのしあがる、国を追われ世界を憎み、またどこにも居場所がなく、冤罪をうけたどり着いたもの、様々な者達がたどり着く、この都のはじまりは一人の転生者からはじまる、力を求め自らの安寧を求め多くの混沌を求めた転生者はあらゆる悪を許容しあらゆる正義を許容するとした、故に奪おうが奪わないが己の力や意志によって選ぶのであればよしとした。その男の名はエイジ=クリュウ、はじまりの転生者にして不死の龍王、またの名を破壊の龍王。友である勇者と共に世界を破滅に導く歴史上はじめて確認された大魔王を滅ぼした英雄にして世界に脅威をもたらす超越的存在。その男は今も尚クーロンの頂点に存在し君臨している。そんな男なのだが。
「ふむ、真一の一番下の息子か、可愛い顔をしている」
黒い髪をオールバックにした精悍な強面の黒いスーツを纏った高身長な男が黒塗りの椅子に座りながら黒い執務机で作業をしながらこちらを見ている。身長は2メートルはありそうで、スーツを着ながらも鍛え抜かれた筋肉がわかるような威圧感。黒い瞳に宿る力強さは見る者を圧倒させる。この男の名はエイジ=クリュウ、この街を統べる者であり、この街全ての人が忠誠を唯一誓う存在。その身に宿る力は計り知れず見る者を圧倒させるが、アキラはそんな存在にも意に介さず。
「そうそう、おっさん、うちの弟は可愛いのよー」
「後にも先にも俺をおっさんと呼ぶのはお前くらいだな、アキラ」
部下達が顔を青くさせながら見る中でエイジは愉快そうに笑う。
「まあ友人の子は俺の息子のようなものだ、好きにしたらいい、だがミロクだったか?その子を預かるにはこの街は物騒だとおもうが?」
「ああ、この子は色々事情があってこの世界に今までいなかった子だからさ、前の世界みたいに安全ではないことを色々知った方がいいから、それにこの子は賢いから大丈夫」
「・・なるほど、地球産まれの真一とトワはしばらく地球に行くとはいったが、その時出来た子か、まあ刺激は強いだろうが、真一達にも思う事があるだろうし、アキラ、お前がいるんだ、滅多なことは起きないか」
エイジはふむと頷く。
「まあ俺の方も気にかけておこう、部下達にも周知しておく」
「あ、あの、よろしくお願いします、あと遅れましたが龍堂ミロクといいます!よろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそよろしく、君のお父さんとお母さん俺の友人でね、気兼ねなく親戚のおじさんくらいの感じで話しかけてきなさい、ちょうど私の新しい曾孫も同い年くらいだから仲良くしてもらえると嬉しい」
「ああ、お転婆なあの嬢ちゃんか」
「そういうな、俺の血族にしてはなかなか常識的な子だぞ」
「龍の力を受け継ぐ奴は大概ぶっとんでるのよ」
「それはお前の兄にもいってることだぞ、まあお前の種族も大概じゃないか」
「ああ、あの兄貴もやばいからなあ」
「もう一人のお兄ちゃん?」
「ああ、ミロク、俺はまだ可愛い方だ、一番上と二番目はすごいぞ、一番上の兄貴なんて、マジでやばい」
「でもアキラお兄ちゃんみたいに優しいんでしょ?」
「・・まあ優しいかもなあ」
「案じないで大丈夫だ、いずれも仲良くなれると思うぞ、ミロク君」
「嬉しいな」
ミロクがにっこり笑うと
「・・・アキラ、お前の兄と姉達が暴走しないようにしろよ」
「善処はするよ、さて挨拶まわりいってくるわ」
「そうか、まあ問題はないだろうが、何かあれば部下達に声をかけてくれ、俺も仕事が終わったら時間をみて遊びにいこう」
「了解、ミロクいくぞ」
「あ、エイジおじちゃんまたね!」
「ああ、またな」
エイジはにこりと笑うとミロクに手をふりアキラとミロクを見送った。
「エイジおじちゃんか、久しく恐れをしらない無垢な瞳を向けられたな」
エイジはふむと頷くと
「燐火はいるか?」
「はっ!ここに」
黒い装束を纏い黒い頭巾をかぶった女性がエイジの後ろに立つと
「アキラには連絡しておく、諜報作業は中断して、ミロク君の面倒をみてやれ、アキラも存外自分の仕事を持っているだろうからな」
「了解しました」
「よろしい、まあ俺の友人の子だ、恐らくこちらの常識も良く知らないだろうから教えてやれ、この街の流儀も多少はな、まあ外の街とはまた違うという事も必要だろう」
エイジはにこやかに言う
「まあ、お前の采配で一緒に仕事する者を選ぶ事も許可する、それに最近仕事もきちんとしてくれてるし、休んではないだろう、休暇とおもって遊びも楽しんでこい」
エイジは金貨が入った袋を渡すと
「こんなに頂けません」
「燐火、お前は俺に仕えて常に全力をもって仕事に応えてくれた、この無法の街であってお前は優しさを失わず他者を助けその身を削ってきた事も知っている、これはよい機会だ、俺の部下は有能な反面、休む事を全くしない、休息することは自らを高めるために必要なことだ、命令だ、受け取り、もし自分で使うのが嫌なればお前の面倒みている子らになにかするがいい」
「・・・わかりました、受け取らせていただきます」
「ああ、それでいい、そして無期限とする、休暇と共にミロク君の面倒をみつつ、楽しい事を探してくるといい、そして楽しい事を報告する事、いいな」
「よくわかりませんが、わかりました」
「よし、いっていい」
「了解しました」
燐火がふっと存在を消すとエイジはため息をつく。
「俺は基本的にホワイト精神なんだがなあ、忠誠はありがたいが、体壊すまで働くのはなしだ、まあ燐火もそろそろ友人というものを作ってもいいとはおもうし、孤児として引き取ったはいいが、さすがにあそこまでだとなあ」
エイジは珈琲を啜りながら一人呟いた。
「で、だ、まあエイジのおっさんから連絡あって燐火っつう女の子が俺の居ない間面倒みてくれるって話だな」
「メイドさん?」
「どうだろうなあーエイジのおっさん、なんでも自分でやっちまうからなあ、メイドも雇ってたとしても完璧超人みたいなのがいそうだなあ」
雑多な街中の屋台の前でラーメンに似た麺を啜りながらアキラはミロクと話す。つけあわせは餃子のような包み焼きでおいしい。
「アキラお兄ちゃんて何の仕事してるの?」
「ああ、俺は、冒険者だったり、傭兵だったり、この街では解決屋か、色んな面倒事が起きやすいからな、この街は」
「要は便利屋さん?」
「それに近いかねえ、まあ色んな道があるからねえ」
アキラはラーメンを啜りながら意味深な笑みを浮かべる
「まあ、当面はミロクのレベル上げだなー、街の外にはモンスターもいるし、手ごろな奴討伐して、一応ここにも冒険者ギルドあるから問題はないが、荒くれ者ばっかだからなあ」
「荒くれ者みてみたい」
「見ても面白いとは思わないが、まあミロクが言うならいくか」
「うん!」
2人で食べ終わり屋台のおじさんに挨拶をするとその場を後にした。
悪逆の都冒険者ギルド
「お兄さん達かっこいいねえ」
「はは!がきんちょはわかってんなあ!!」
アキラの危惧してた事件らしきものは起きず、むしろ自分の弟がこの強面のお兄さん達と仲良くなるんて想定外であった。悪逆の都と呼ばれるなりに寧ろ威圧やら面倒な事を基本的にする粗雑な奴が多いわけだが、絡まれる寸前、ミロクがこのお兄さん達かっこいいと邪心もなく無垢な表情で言った瞬間、強面のお兄さん達は手を下げ照れ臭そうにモジモジとしだした。
「うちの弟、純粋にもほどがあるだろ」
基本的にこの悪逆の都の冒険者ギルドは力こそ全てと考える脳筋達が数多く、個人で依頼を受ける事が多い、それに連携もあったもんでもなく、お互い喧嘩する事が多いのだが・・・。
「え、お兄さん、回復魔法使えるなら剣士のお兄さん達と組んで回復魔法のレベルあげたらいいのに、回復魔法とかよくわからないけど、傷痛くなくなるだけで動ける回数増えるんじゃないの?」
「それもそうだなあ、よし、やってみっか!」
「おうよ!!」
「盾のお兄さんは護る事に特化したらHPだっけそれもあがりそう」
「それもそうだなあ、防御系スキルあげてみるか」
「うちの弟が的確な意見をいっておとなしく聞いてる件」
アキラは驚きながらその状況を見ていると
「なんね、あの可愛い坊やはアキラの弟か」
「んだー、ババア、相変わらずだな、背後にいきなり立つなよ」
「ひっひっ、ランクオーバーにそんな風に言われるとは光栄だねえ」
白髪の髪を後ろに束ねて黒い服を身に纏いどこか怪し気な雰囲気を纏う老婆、悪逆の都冒険者ギルドを束ねるギルドマスター、シシリーが笑いながらいた。
「しかしあの荒くれ者達の話をきいてあんなに懐くと良い子だねえ」
「ババア、なんか変な事考えてるんじゃねえだろうなあ」
「まさか、変な事は考えてないよ、そうさね、お願いするくらいさね」
そう言うとミロクの方に足を運んで行った。
「龍堂ミロク、9歳です!!」
「挨拶できて偉いねえ!!飴ちゃんたべるかい!!」
「うっわ、キャラ変すげえ」
「おだまり!アキラ」
ギルドマスター室に通されにこにこと笑うシシリーにアキラは微妙な顔をしながら、飴をもらってうれしそうに食べるミロクを見る。
「まあ、この子の先ほどのコミュニケーション能力の高さなら予想はつくがな」
「察しがいいのはありがたいねえ」
シシリーはにやあと笑う。
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