第27話 悪の矜恃
「うっうーん、君の悪は美しくないネ」
黒ぶち眼鏡をかけ、銀髪のオールバックに黒服に銀色の顎鬚を蓄え紅色の瞳を携えた美麗の老紳士が月明りの夜の下微笑む。
「誘拐なんてちゃちな真似はよしなさい、恐らくこの女の子達を殺して身代金をもらおうとしたんだろうが、その目論見は失敗する、なんたって私がいるからネ!」
とある街はずれの家屋、黒装束の男達を見ながらクスクスと笑う、怯えている少女達を見ながらウインクをして
「何より本当の悪は仕事を選ぶものサ、未来ある少女達の未来を奪うなんて小悪党の真似なんて無様にすぎないじゃあないカ、まあ君達には声も何もかももう聞こえてないんだtろうけどネ」
そう言いながら目の前に闇を発生させる。
「相変わらずだなあ、モリア教授」
「相変わらず美味な紅茶を淹れてくれるネ、マジロ署長」
とある大陸の中央都市アメニカ国の首都アメリアの中央区、多くの移民を受け入れ多種族国家となったこの国を護る守護の組織、警察。地球から来た大統領という職業の男が、地球に置けるルールと技術を提供した事で成り立った国とも言われる。
独自の最先端技術と魔導技術と農業や畜産、独自の経済や高度な教育によって発展している。そしてこの中央区警察署の署長、黒い髪をオールバックにしたどこか苦笑を浮かべる細身の優し気な男の名前はマジロ=オールディアン、祖先に地球の白人系統の人種を持ち、魔法に適正のある魔女の血筋を持つ筋金入りの魔法使いだ。
対する相対する男、銀髪の老紳士はモリア=ヴィドック、太古の学術形態を解明し、独自の魔術理論や魔法体系を産み出し科学と魔術を融合させた異端たる天才、失われた太古の技術と魔術と独自の戦闘術においては右に出るものはいない。
そして独自のルールを持った[悪]である。
「貴方とは長い付き合いになりますが、いつまで[悪]をなさるおつもりで?今回の事件も解決に導いてくれたし、無法ではありますが極めて善良な方だと思うのですが?」
「これはライフワークだからねえ、やめられないのサ、マジロ署長」
「貴方のライフワークも不思議なものですね」
マジロ署長は肩を竦める。
「ふっふーまあ悪の矜恃というものはいずれも理解されないものサ」
モリア教授は笑う。
「その割には多くの市民が貴方に感謝しておりますが?」
「それは私が狙った事ではないヨ」
紅茶を啜りながら尚も笑う。
「多くの市民を助けて?」
「真の悪というものは巨悪と対峙して正義とも相対するものサ、平穏無事に生きている人間達を巻き込むなんてナンセンス」
マジロ署長はくっくっくと笑う。
「ああ、そうですね、モリア先生、貴方はそういう人でしたよ」
「懐かしい呼び名をするね、バットボーイ?」
「貴方が担任でよかったですよ」
かつてマジロ署長はこの国での魔法学校で主席かつ手に負えない荒くれ者だった、力をもてあまし、多くの学友を屠り、あらゆる暴力的な魔法を扱っていた、それは自らに流れる血、英雄とも呼べる血の期待への反発だったが。
「バットボーイ、それはいけないネ、美しい悪ではく、ただの子供の癇癪サ」
当時、その魔法学校で気まぐれに教鞭をふるっていたモリア教授にコテンパンに打ち負かされ、授業を受けるように諭された。
モリア教授の授業はとても楽しくわかりやすく、自分の不得意な魔法や魔術まで使えるようになった。この時にモリア教授の悪の美学も同時に教わった。
「悪というのはネ、実にスマートに行わないといけないのサ、それこそ日常に溶け込むように、誘拐や恫喝なんてちゃちな真似をする小悪党なんて目標にする必要もないネ」
モリア教授は喜々として笑う。
「そうだネ、人々を脅かすようなちんけな悪なんて及びじゃないのサ、そうだね、世界を襲うような魔神や女神を屠ってその存在になり変わるような圧倒的な悪じゃないと面白くないじゃないカ!そうして馬鹿らしく未来を求める少年少女や母や父に甘える赤子!いずれ死に向かう老人達は私の手のひらで健やかに過ごせばいいのサ!私という悪の手によってネ!」
なんともまあ素晴らしく甘い悪の矜恃を語る人だなあと思った、モリア教授はマジロ署長が卒業した後、あらゆる戦争に出没している。
ドワーフ達が住む火の国に赴きドワーフ達を屠る魔人達を見れば
「んっんー困るネ、君達、彼らは私の将来の顧客だ、善き酒を飲み、私を屠る武具を勇者に与えてもらわないといけないんだからネ」
とそう言うと同時に無尽蔵の魔力で魔人達を滅ぼし
セイレーン達の住まう水の国に行けば
「ふむふむ、君達を密漁するなんてせこい事するネ、いけないなあ、君達には私の物語を歌ってほしいのに、よしならば悪らしく滅ぼしにいこうカ」
そう言うと同時に組織事消し飛ばし、あらゆる善性の者達を屠り、時に巨悪と呼ばれる者達と協力しさらなる巨悪を撃ち滅ぼした。
「悪という物は常に巨大な悪と戦うことで光り輝くものだヨ、そんな私が矮小な存在を無視してまで我儘に生きると思うカネ?」
彼は不敵に笑い、彼に救われた者達は彼の事を「裁定者」と呼んだ。
「裁定者というのは甚だ遺憾ではあるがネ、まあそれが言いたい事ならば仕方ないネ」
「モリア教授、貴方がしたことはそういう事なのですよ」
「はっは、私とて矮小な存在であるからネ、未来ある存在に対して思う事もあるわけサ」
モリア教授は紅茶を飲み切ると立ち上がる。
「おやお帰りで?」
「そうだネ、久々に兄妹達にも顔を出そうと思ってネ、残念ながら種族的に見た目は私が一番年上なんだがネ」
モリア教授は肩を竦めると黒のコートを着て黒のハットをかぶりなおす。
「親父様も私よりも若い見た目だからネエ、それにだ、末の弟クンともはじめて会うのだかワクワクすると同時にお祖父ちゃんなんて言われそうで怖いネ」
「・・・モリア教授、次男でしたっけ」
「そうなのヨ、私も長命種な方なんだけど、どう考えても肉体年齢ははやく年を取るからネ、だって見てよ、末の弟クン、9歳らしいからネ」
そう言うと懐から写真を出しながらマジロ署長に見せる。
「・・・先生いくつでしたっけ?」
「いきなり昔の呼び名で呼ばないでヨ、もー、そうだネ、2000歳は越したかな」
「・・・十分長生きですね」
「そうだネ、こんな年下の弟クンと何を話していいかわからなーい、妹チャンから写真もらったけどサー」
「でも楽しそうですね」
「わかる?まあね、本物の悪は家族を大事にするからサ!悪たるお兄様が悪のなんたるかを教えてあげるのも一興だネ!」
マジロ署長は肩を竦めて
「くれぐれも妹様達に嫌がれないように」
「はっはー、三番目の弟の方が警戒されてるから大丈夫サ!僕は大人なのでネ!ではご機嫌よう!バットボーイ!!」
そう言うと同時にモリア教授は姿を消した。
「はは、相変わらず嵐のような人だ」
自分を悪と名乗りながらも様々な種族を助け続けた教授に憧れる者は多く、マジロ署長もその一人だった。モリア教授は真一の息子達の中でも極めて人族に近く寿命があるとされる種族だ、恐らく真一の家族の中で永遠とは程遠いだろうが、モリア教授は別にそれを悲観はしていないし、自分自身の悪たる美学も気に入っている、仮にミロクが永遠を持つ不死に目覚めても弟として接するだろう。
彼は万人に対して優しく定命の者達の儚さと強さを知っているのだから、母はまだ存命ではあるし、父と同じく不死を得たが、モリア教授は不死となるかどうかは死ぬ直前であっていいと思っている、何故ならば自分が愛した女性も寿命ある種族であるし、子どもこそいないが、関わりのある子らは息子や娘も同然であり、自らの技術の受け渡しは完了している、それを彼ら自身で新たな技術にするかどうかは彼ら自身の力によるもので、モリア教授は今この人生を楽しんでいる。
「人生は楽しんでこそだヨ!永遠もわるかあないが、私は私で楽しんでるサ!」
そう笑いながら末の弟がいる場所へと足を運んだ
少年は異界の世界へと誘われる シンゴペンギン🐧 @ganjisu14
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