第8話 次女ローティア
「ローティア、本業はどうしたんだ」
「ああ、あらかた悪党を捕縛して引き渡してきたよ」
「悪党捕縛専門の空賊なんてまた珍しいのしてんな、部下達は?」
「休暇出して適当にぶらつかせてるよ、この街のごろつきになんて負けないからね」
冒険者ギルドを後にしてアキラの家に2人を連れ帰ってきた。アキラの家は二階建ての鉄筋コンクリートに似た材質の家で、地球でいうところのデザイナーズマンションというような形だ、このような材質の持ち家を複数所持しており、家賃収入も得ている。この家は事務所兼自宅としても活用していて、12畳ほどの部屋が四つに、8畳ほどの部屋が二つ、7畳の客間が二つに一階と二階に風呂場と水洗トイレとキッチンと家電と称される魔道具がある。電気はなく魔力で動くエアコンや冷蔵庫があると考えてくれればいいだろう。
悪逆の都クーロンは雑多な街ではあるが、流れ着いた技術者は王宮に務める技術者顔負けの技術を持つ者が多く、研鑚を楽しみにする者達が多いのでこの世界において最先端の技術を持っているといっても過言ではない。
そういった側面と面倒がないことからアキラはこの街をそれなりに気に入って拠点としている。
今2人がいるのは客間として使っている、一室で革張りのソファーに座りながらアキラとローティアは真向いにミロクはローティアの横に座っている。
「本当にお前可愛いもん好きだよな」
「兄さん!!待ちにまった末の弟だよ!!可愛いじゃん!!」
「それは同意するがな、それよりお前なんでミロクがここにいるってわかったの?」
「お姉ちゃんパワー?」
「お前の野性の勘がやばいのはよくわかった」
アキラは自分で用意した珈琲を啜りながらため息をつく。
「まあいい、久々に来たんだ、しばらく泊ってくだろ、ミロクも遊びたいだろうし」
「うん、ローティアお姉ちゃんと遊びたい」
「ミロクは可愛いなああ!!!」
「ミロクの懐にうさぎいるから加減しろよ」
「お、フォーチュンラビットじゃん、飼ってるの?」
「うん、仲良くなった、名前はラッキーにしたよ」
「可愛い名前ねえ」
ローティアはにこにこ笑いながらミロクの顔を見る
「まあ弟は可愛いからなあ」
アキラがそう呟くとノックが響きアキラは返事をする。
「アキラ、客人がいるというのにすまない、この書類の事を聞きたいんだが」
「ああ、かまわない、確かワルツさんとこの医院の奴だよな、薬草とかは揃ってるし、後はきちんと納品できることを確認するだけだ」
「了解した、ああ、ローティアさんか、久々だね、ミロク君に会いにきたのかな」
部屋に入ってきたのは長身痩躯の美しい毛並みの灰色の狼獣人、人間であれば誰もが振り返るような美男と見られるような美しい造形の狼の顔を持った男、この男こそ、アキラがこの街で営む便利屋の相棒、ルーファウスト、アキラの相棒でありながらも常識を持ちあらゆる意味でのストッパーになるような男で、穏やかで理知的な口調で、ミロクとはじめて会った時も丁寧な口調で話しかけてくれ、この街における良心と呼ばれる男、そんな感じであるから。
「は、はい、会いにきました」
「そうか、初めての弟だから嬉しいな、悪い、アキラ、助かった、このまま納品してくる、燐火ちゃんたちも連れてくがいいか?彼女らも折角なんだ外にいったほうがいいだろう」
「そうだなあ、頼むわ、こっちは兄弟水入らずで話してるから」
「ああ、たまにはそれもいいだろう、いってくる」
「おう、夜飯は?」
「ああ、今日は俺が作ろう、ローティアさんもしばらく泊まるんだろ?」
「は、はひ!」
「はは、いつまでも照れなくてもいいのに、アキラの妹なら俺の妹のようなものだ、気兼ねなく話してくれ」
そう言うとルーファウストは部屋を出た。
「・・・お前ほんとに、惚れた男には弱いな」
「言わないでくれよ、こんなガサツな女にあの人は合わなってー」
「兄としては別に当人同士の問題だから言う分には問題ないとおもうがな、あ、ミロク、オレンジジュースおかわりいるか」
「いるー」
先ほど出していたオレンジジュースのおかわりを注ぐとミロクは飲み干しながら
「うーん、ローティアお姉ちゃんはルーファウストさんが好きってこと?」
「端的にいえばそういうことだな」
「よくわかんないけど、それってデートすればいんじゃない、話さないとわからないじゃん」
「え!?」
「まあそらそうだなあ、お前どうせ仕事入れてないんだろ?ルーファウストの仕事調整してやるから、デートしちまえよ、会うたびにルーファウストのいいとこやら好きなとこ聞かされても、告白すればぐれえしかいえねえもん」
「そうだよ、デートしちゃえ!!」
「え!え!????」
アキラとミロクの言葉に促されてローティアは結局。
「うん、ローティアさん、今日素敵なお召し物だね」
「ル、ルーファウストさんこそ!」
アキラに仕事を調整され一週間後、ルーファウストにローティアと買い物をしてくれという名目でこの街でも比較的治安のいい商店街で2人きりという事になった。
ルーファウストにはそれとなく自分の気に入っていてかっこいい服装でと伝え、ローディアにいたってはアキラやローティアの部下達、果ては大娼館のマダムに協力を仰ぎコーディネートをされた。結果。
ルーファウストは無地の白いシャツに黒い長袖の薄手のジャケット、黒い革のズボンに合皮のブーツ。戦闘もできるように通気性の高い黒い手袋とダメージ軽減の黒い十字架。
ローティアは筋肉を目立たせないような黒いライダースジャケットに銀色のカフス。胸元
を少し開いた白のシャツに黒いジーンズに白いブーツ。下手したらペアルックにも見えなくはない恰好ではあるが、ローティアはルーファウストを意識するだけで気が気でなかった。
「相変わらず鈍いな、ルーファウスト」
黒いグラサンと目立たなくするような隠蔽効果がある、黒いスーツを身に纏ったアキラが缶コーヒーを啜りながら呟く。
「尾行していいの?」
ミロクも似たような恰好をしながらアキラに声をかける
「ミロク、お義兄さんは妹が心配なのよ、察してあげて」
「リナちゃん、まだお義兄さんははやいよー、ミロクもまだ恋人とかわからないから」
「あら!大丈夫ですわ!私が教えますから!」
「エイジのおっさんの血族は押しが強い・・・」
そうつぶやくとミロクの側にいるミロクと同じ身長の気の強そうな黒髪に金色の瞳の整った顔立ちの女の子が嬉しそうに微笑でいた。
この美少女はリナ=クリュウ、この街の大ボス、エイジ=クリュウの曾孫だ、年は11歳で身体能力や魔法にかけても天才的、何のタイミングか知らないが魔物の大群に襲われていた時にミロクが助け出し、それ以来ミロクに一目ぼれして猛アタック、ミロクに至っては恋に関してはピンとこず友達としてしか見ておらず、リナの猛攻に首をかしげながら一緒にいる。ミロク自身が自覚してその想いを受け取るのならいいが、よくわからないままであるうちはそっとしとこうとはしてるが、エイジのおっさんはまんざらでもなく、事あるごとにこの2人をくっつけようとしている。
「・・・リナちゃん、ミロクが自覚してからね、意外と鈍いから」
「それもミロクの魅力ですわ!!」
「鈍いって?」
「大丈夫、大丈夫、ミロクは賢いからすぐにわかるさ、それよりローティアを追うぞ」
そんなアキラ達の姿を影ながら見る者達もいた。
「尊い」
どこか気品の溢れる紫色の着物を来た穏やかな色気のある茶色の髪の美女、見る人が見たら振り返るこの街の顔役、大娼館胡蝶の夢の支配人、レディマダム。
「緊急のお願いいうから来てみればお前さんの趣味か」
隣でビールを飲みながらじとめでみる、低身長ではあるが筋肉質のガタイのいい髭を蓄えた強面の男がはあとため息をつく。この男はこの街のドワーフの鍛冶組合の大親方、ジグ=スミス、かつて聖剣を創りあげた名工であり、権力争いに飽きてこの街に来た男だ。
「ミロク坊達を尾行するなんて全くどうしたんじゃ」
「あら、いいじゃない、可愛い子達が恋や友情に右往左往する純情を見るのなんてこの街じゃなかなかないわー、殺伐とした街の清涼剤、恋する乙女の嬉恥ずかし純情パワー」
「なにいってんのかわからんわ」
「もう無粋ね、私の創作した恋愛漫画の感想も適当だし」
「150年きてる爺に何を求めてるんじゃ」
「青春をもう一度?」
「そういうのは若い女子と話しとけ、なんじゃ最近同人誌ちうのも流行っとるんじゃろ?」
「そうね、腐女子の文化には私煌めきましたわ、でも砂を吐くほどではございませんの、私が描くのはそう純愛」
「もう、何がなんじゃかわからんわ、砂を吐く?呪文かなにかか?」
「砂糖のような甘いものですわ」
「よくわからんが、異界からの知識か、だが少しばかり知識古いような気がするぞ」
「あらいやだ、腐姫様(PN)にまた知識を与えてもらわねば!」
「また濃い付き合いじゃのう、それよりミロク坊達を追わないでいいんかい」
「そうですわ、隠蔽魔法をしていきますわよ!」
「…大賢者並みの魔法を使えるのがなんともまあ」
ジグはため息をつきながらマダムについていくことにした。
「しかし、意外とこの街も知らない所があるんですね」
ルーファウストはにこにこしながら買い物袋を持ちつつ何気なくローティアの手を繋ぎながら歩いている。
「(ルーファウストさん!!ルーファウストさあああん!!)」
ローティアはなんだかんだ筋肉質で強い人間であるし、なんだかんだ強いスキルや魔法と身体能力を持ってはいるが・・・。
「なんだかんだ乙女なんだよなー、ローティアは」
アキラはため息をつく。
「なんだかんだ、俺達の事を大事にしてるから、生来の気質もあるし、護りたい気持ちが強くて自分を常に鍛えあげて生半可な男じゃ太刀打ちできないんだが」
アキラは缶珈琲を啜りながら
「護ってくれる存在に出あっちまったからなあ」
5年前、とある国で起きた魔物のスタンビートにたまたま居合わせたローティアは部下達を避難させ、ただ一人で国と人々を護るために戦っていた、右目を損傷し、体を壊し、立ち上がるのも無理になるほどになった時助けたのが
「ルーファウストさん?」
「そうだなあ、あいつあんな細身だが単身で殲滅戦もいけるし、回復魔法や攻撃魔法もレベル高いし、状態異常耐性もたけえ、ぶっちゃけ継続戦闘力は俺より上、俺が万能型なら、あいつは継続型かな、ローティアは物理特攻型か、まあそんなこんなで今より弱かったローティアはハートを奪われちゃったわけだ」
「素敵―」
リナは嬉しそうに笑うとアキラはふむと頷くと。
「まあぶっちゃけ結末はわかってんだけどな」
そう言いながら指先を向ける。
「あ、あの、ルーファウストさん、その」
「ん?手を繋ぐの嫌?」
「そ、そうではなく、あのですね」
「俺のこと好きだとおもってたし、俺も君の事好きなんだが」
「!?」
ルーファウストはにこやかに微笑むと
「返事聞かせてくれないか、結構勇気を持って言ったんだが」
「あ、え、よろしくお願いします」
ローティアは顔を赤らめながら頷いた。
「決める事決める男はやることがちがうねえ」
アキラは肩を竦めて缶珈琲を飲み干すと
「ミロク、リナちゃん、今日はお祝いだ、好きなもん作るぞ、リナちゃんはうちで飯くってくだろ?」
「はい!ひいおじいさまにはもういってあります」
「準備がいいことだ、多分今日は来客が来るだろうから、多めに材料を買ってくか」
そう言うとアキラはミロクとリナを連れてその場を後にした。
「と、尊い!!次回の創作マーケットのネタが出来たわ!!」
「またお前さんは意味わからんことを」
レディマダムを見ながらジグはため息をついた。
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