第9話 便利屋 黒の住処
「まあ尾行系とかの認知は苦手なんだが、交渉事とかその他諸々は優秀なんだよな」
アキラは欠伸をしながら珈琲を飲み、相棒でルーファウストの事を語りながら朝食をつくる。あの後、ローティアとルーファウストは見事に両想いとなり、お祝いの夕食を作り、その後、アキラの気遣いでまた一週間ほど休暇を渡し2人でデートでもするように言った。
今の所、自分一人でこなせる仕事ばかりというのもあるからだ。
「リナちゃんは夕飯食べたらエイジのおっさんが迎えきたしな」
あの後、リナの迎えにわざわざエイジがきて軽く酒を共に飲んだ後、ぐずるリナをなだめ帰宅する。仮にも不死の龍であって滅多に酒には酔わない、人化状態ではただの強面の親父だが、龍化状態の場合の酒量はざるだ。
「燐火ちゃん、せっかくだから仕事手伝ってくれる?」
「いいですよ」
メイド服を着た無表情の赤と黒が混じったような不思議なコントラストの長い髪を後ろに束ねた少女に声をかける。エイジのおっさんから派遣された諜報部隊の頭目。若いながらも実力は確かで本来ならば顔を隠して動くのだが、メイドの派遣という名目でミロクの面倒をみてもらっている。家事に関しても完璧で、あらゆる料理もできる。自分の素人より毛の生えたほどの料理では太刀打ちできない。
「まあ今日はミロクは燐火ちゃんの部下達と買い物行くとかいってたな」
燐火と燐火が連れてきた2人の部下もミロクは懐き、ミロク自身もありあまる自衛の力を持っている事からある程度自由に活動させている。
少なくとも弟の純粋さや無垢な性格はこの街の者達にも受け入れられ一種の清涼剤のようなものになっている。無法の街に生まれた新たな連帯感、協力しあうような空気、少なくとも悪逆の都はミロクを中心に変わっていった。
便利屋、黒の住処という名はなんとなく黒の似合う街だなあとおもいつけた名前だが、血生臭い依頼もあるが、それ以上にミロクを気遣う声も多かった。この街は危険だの、いくら強くてもあの子は危機感が足りないだの、冒険するには俺もいくだの。
「本当にうちの弟は愛されてるねえ」
「ミロク君は優しいですからね」
「そうだな、まあ仲良くして問題ないならいいわ、さて仕事いくかな」
「お付き合いします」
「それはありがたい」
アキラはにこやかに微笑んだ。
「おばあちゃーーーん!!」
「なんだい、ミロクちゃん」
冒険者ギルドに入るとミロクがメイド服を着た無表情の美少女、青い髪と赤い髪の整った顔立ちの子達を伴いシシリーに会いにきた。
「今日薬学の事を教えてくれる約束でしょ」
「そうだねえ、今日はその日だ、今日は可愛い女の子連れてるんだね」
シシリーはにこにこと笑いながらミロクの頭をなでる。
「うん、アイスさんとフレアさん、燐火姉ちゃんと一緒に来てくれた人」
「あら、あの子がかい、エイジもまたミロクちゃんの事気にかけてんだねえ」
シシリーはにこにこと笑うとミロクがわからない言語で2人に声をかけた。
「(水の悪魔と火の悪魔かい、またミロクちゃんの護衛にはすごい戦力だね、あんたら上級悪魔だろ)」
「(主人であるエイジ様と上司である燐火様の依頼です、それにミロク様は可愛いですし)」
「(我等悪魔にも居心地のよい空気を纏っております)」
「(悪魔にも好かれるか、この子の存在は良くも悪くも注目されるねえ、悪魔は本来誘惑するものだろ?)」
「(我等はこの人の世に現界して数百年います、情も沸きますし、何よりミロク様はあのお方の御子息、手は出しませんわ)」
「(偉大なる神であり魔を統べ聖を統べ神に至り、すべての悪魔の存在意義を変えたお方)」
「(この世界を救った勇者の一人の息子、まあ真一の息子ならばそうも思うか)」
「(ええ、悪魔は愚者には無慈悲に牙をむきますが、恩ある方には忠誠を誓います)」
「(真一様もエイジ様同様、忠誠を誓うべき方なので)」
「おばあちゃん、何話してるの?」
「ああ、この子等の母国語で話してたのさ、この子等は別の国の子らだからね」
シシリーはにこやかに笑う
「へー!色んな人いるんだね!!アイスさんとフレアさんの母国にもいってみたいなあ」
アイスとフレアはその言葉ににっこりと笑うと
「お望みなればお兄様の許可が出ればお連れしますよ」
「まあ刺激が強いから、もう少したってからかねえ」
「刺激が強い?」
シシリーは肩を竦めて
「まあそのうちわかるさね、じゃあ薬学の手ほどきをしようかね、リリティア、お茶をいれておくれ」
「ふふ、シシリーさんはミロク君が来るようになってお仕事が大分捗ってますね」
ギルドの白い制服を身に纏った穏やかな金髪のかわいらしい女性がにこやかに言うと
「まあねえ、私は孫とか子供とかいないからねえ、可愛くてたまんないよ、年老いて話すには良い相手だ」
「僕、おばあちゃんと話すの楽しいけどな」
「ありがとうよ、ほんとにいい子だねえ、あのぼんくら兄も見習えばいいのになあ」
「アキラお兄ちゃん優しいよ?」
「ほんといい子だねえ」
シシリーはそう言うとまた微笑んだ。
「しかしおめえんとこの弟はいい子だなあ」
煙草を吸いながら雑多な商品を並べる薬草店の店主兼錬金術師、大賢者と呼ばれる名無しの老人はカラカラと笑う。遥か昔に錬金術の深奥に触れ賢者の石を創り出したとされる男だが、これもまた国単位での戦乱に巻き込まれ面倒になり名を捨て名無しとなり、この街へときた。研究肌の男で、常に新しい術式や魔法を覚えている。
「そらそうだろ、あんな無垢な子なんてこんなとこになかなかいねえだろ」
「そりゃそうだ、ここにいるガキなんつったらなんかしら理由があるガキだし、そもそもガキ自体あんまいねえからな、ここじゃ子供でも作ったらなにされるかわかったもんじゃねえ」
「まあ子供を作るのはこの街で強い奴らばっかだからなあ、俺も基本面倒だから避妊ちゃんとしてるし」
「お前さん、普通に特定の彼女作らず遊びまくってるからな」
「ミロクが来た時点で控えてるよ、なんだかんだ煙草もやめたしな」
「天変地異が起きそうだなあ、なら薬草煙草でも吸うか?これは別に体に害のある成分は入ってないし、吸い心地もすっきりだぞ、まあ好き好きはあるが、煙草は体に害があるからなあ」
「害のあるとはいっても嗜好品は吸っちまうからなあ、まあ口寂しいし薬草煙草をもらうよ、あとこの薬の納品でよかったよな」
「ああ、ありがとう、血清の丸薬は貴重だからな、助かるよ、それと燐火ちゃんだったか?黙ってないで会話参加しないか?」
「お気になさらず、商品見るだけで楽しいので」
「・・・変わっているの」
「まあ本人がいいなら大丈夫だろ」
とある暗い世界の森。
巨大な魔力が交わる豪奢な灰色の城。
王の間と呼べるような玉座に妖艶な紫髪の美しい整った女性が座っていた。
赤い口紅をつけ、実り大きい胸、すっと整った体に長いまつ毛、モデルのようなその姿に皆が振り向く。
「アキラ兄さんもアロンド姉さんもローティア姉さんもひどいわー、ミロク君がこちらの世界に来るの教えてくれないんだもん」
憂いを帯びた瞳でため息をつく。
「お嬢様どういたします?」
隣にいる灰色の髪の穏やかな表情の美麗な執事が問いかけると
「セバス、勿論会いにいくわ、お父さん達は恐らくアロンド姉さんの国で色々話してるだろうし、私だって末の弟に会いたいわ、それにエイジおじさまの街にいるんでしょ、あそこなら私がいっても問題ないわ」
「仰せのままに情欲の魔王、ミリアリア=リリス様」
セバスと呼ばれた執事は頭を下げた。
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