第23話 ギルドマスター

悪逆の都クーロンのギルドマスターから報告は聞いていたが、実に穏やかな少年であると感じた。ダンジョンマスターであるマリアベルの創りあげたこの国でギルドマスターを務めているストレングス=アーリーマン。彼もまたマリアベルが冒険者時代に知り合い仲間として苦楽を共にした男である。


彼もまた転生者の一人で人でありながらもとある呪いを受け不死人となった男である、呪いといってもストレングスが依頼中に知り合った不死の女魔族に見初められ恋仲となり、種族を書き換える呪いを自ら望んで受け取ったわけなので呪いというよりかは祝福というものではあるのだが、そういう理由もありその女魔族を妻に迎えてマリアベルが国を作る際、流れでギルドマスターの地位を任されたのである。


そもそも転生前は自由業を営んでいたので経営や数字に強いという側面もあり、冒険者時代にもギルドの経営や冒険者達のアドバイザー的な役割もしていた。


彼自身も後衛と思われがちだが前衛もできるバランスのいい能力をもっていて、魔法と武技を扱う事にかけては一流であり、パーティ支援もできる万能職としても便りにされていた。マリアベルをリーダーとした冒険者チーム[自由の翼]の中心を担っていた一人は間違いなく彼であろう。


不死になったのは妻となった不死の女魔族と共に晩年の年齢と取り決めをし、見た目こそ70代とも呼べるような姿をしているが、歴戦の戦士との経験と威圧感は見る者を圧倒させる。


何よりも若い世代には優しく老戦士はいつまでも背中を見せるだけの雄姿を維持しなければならないという感覚を持っているので常に鍛錬は怠らない。


滅多に怒る事はないが、ギルドマスターとして仲間を護るという矜恃を彼は持っているので、家族と仲間を安易に傷つけた場合、単騎で国を滅ぼすほどの力は持っている。冒険者時代のランクはランクオーバー、二つ名は「戦塵」彼が戦場にたてばあらゆる敵対者は塵となる。


そんな曰く付きの男ではあるが、娘と息子を一人ずつ持ち、今でも妻と仲睦まじく結婚記念日や誕生日も忘れず良い旦那さんをしている。


愛妻弁当をいつも携え、現場にも定期的に入り現役の冒険者達にも交じりながら食事やお酒等を楽しんでいる。


そんな彼を冒険者達は父のように祖父のように慕うし、彼の背中を守るためならば誰もが力を貸すだろう。そしてこの国では彼こそが偉大な冒険者だと誰もが言うであろう。


勿論国主であるマリアベルも含めマリアベルが仲間とした家臣である冒険者達もまた敬愛の念を持っている。


そんななかでマリアベルの末弟であるミロクが現れた事は冒険者達も含め非常に注目されるものとなった。


まずはじめに驚いたのがストレングスに会う際に連れていた男二人と女子一人。

白いローブの青年は内在している力が判別しきれないほどの強大な力を見受けられたし、柄の悪い黒い着物の男は獰猛さを持ちながらも相反する不器用な優しさを内包していた。

紅い和装の無表情な少女は静か周りに溶け込み、存在を希薄をしている。



ストレングスは思考の中で様々な思惑を考えたが、少なくともこの国で問題を起こすような事はしまいと感じ、彼らの冒険者登録を受け入れた。


何かあればマリアベルからも連絡は来るだろうし、何よりあの悪逆の都のギルドマスターがにこにこしながら話す少年の仲間が少年の悲しむような事はきっとしないだろうなあという認識もあった。


実際に彼らはすぐさまランクをあげ、ミロクに至っては仕事まで一緒にしてくれる始末、さすがに申し訳ないからお小遣い等をあげたりはしたが。


「真に祝福された者というのはあの少年のような事を言うんだろうなあ」


そうストレングスは呟いた。


無垢なる感情を持ち、差別なく自らの疑問を持ち様々な力や能力を解明し自分を成長させていく、彼はそのままの無垢な状態できっと育つだろう。


無垢なる者、それは英雄になるか、勇者になるか、はたまた災厄になるか。


「まあ今の彼の世界は広がったばかり見守ることにしようか」


ストレングスはにっこり笑う。



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