第24話 旅立ち

「じゃあ、いままで本当にお世話になりました。」


 自分はリエルと並んで、見送りに来てくれているみんなに頭を下げる。




 

 自分たちの親代わりになってくれたヴィダルおじさん。


 ギルドマスターという多忙な職務に就きながらも、時間を作って自分たちのためにいろいろ便宜を図ってくれた。





 ギルドの受付嬢でもあり、隣人でもあるカルロッテ姉ちゃん。そして、カル姉の父であるヨーセフさんと母であるロネラさんのご夫婦。


 うちの両親が帰ってこなくなってからは自分たち兄妹を気にかけてくれ、毎日のようにお食事のお誘いをしてくれたものだ。ご馳走になったことも数知れない。


 



 教会のシスターであり、孤児院の管理もしていたナタリー姉ちゃん。

 リエルの面倒を見てくれていた人でもある。




 シスター見習としてナタリー姉からいろいろ教えてもらったおかげで、リエルは【祝福の儀】で回復系スキルの取得に繋がったのだと思う。


 そして、ナタリー姉の父であり、教会の神父でもあるアマデウスさんにもお世話になった。



 ほかにも、自分のあとにギルド酒場で働くことになった孤児院出身のテッドとロイ、酒場のマスターのバーリスさんや、【梯子ポーター】のラーシュさんも見送りに来てくれていた。




 ほんとうにありがたい。


 この人たちがいたから


 この人たちに優しくしてもらったから


 自分とリエルの兄妹は、両親がいなくなってからも生きていくことが出来た。


 


◇ ◇ ◇ ◇



 あの後、約1年ほどしてリエルの【祝福の儀】が行われ、なんとリエルは【魔法(回復)LV2】と、【信心(状態回復)LV2】【魔法(水)LV1】のトリプルスキルを授かったのだ。


 回復系の魔法はナタリー姉ちゃんのおかげだろうし、攻撃属性の魔法は母さんの遺伝かな。


 魔法を授かったリエルを伴い、再度ネサナルダンジョンを攻略し、リエルの左手首には自分と同じく【攻略者の証】の腕輪が装着されている。




 この【攻略者の証】。


 自分も手に入れてから教えてもらったのだが、これを持っているだけで各町の入場税が免除されたり各町のギルドで便宜を図ってもらったりと、いろいろな特典があるのだそうだ。


 それならば、一緒に旅をするリエルも持っていた方がいいという事になり、旅立ちの出発を後らせてまでリエルのレベル上げをしながらのダンジョン攻略を行っていたのだ。


 ちなみに、この【攻略者の証】は腕輪の形をしており、装着した本人の意思なしでは外すことが出来ないという謎の機能も付いており、たとえば、他者がその手首を切断して手に入れようとしても決して持ち主の身体からは外れないんだとか。

 でも、水浴びするときとか、着替えの邪魔になったりするなあと思えばすんなり外れたりする。

 ちなみに、リエルが外した腕輪を自分がつけてみようとやってみたけど何か不思議な力が働いてどう頑張っても出来なかった。



 で、そんな腕輪だが。


 なぜか、自分とリエルのほかにもう一人、それを身に着けている奴がいる。






「で、なんでお前も旅の支度をしているんだ? ジーダ?」


「……一蓮托生」



 あいかわらず会話が下手で意味不明なやつだ。


 こいつ、役人の娘であるジーダ・セーゲスは、ベングト達のパーティー、「集う鋭閃えいせん」が解散した後、なぜか自分の後をついて回ってきた。


 決して仲が良いわけではなかったが、今にして思えば、こいつは言葉が短く辛辣ではあるが、悪意を持っていたのかと言えばそうでもなかったのかもしれないと思い直すようになった。


 まあ、それでもベングト達と一緒のパーティーにいたし、自分のことをかばったりもしなかったのも事実だが。


 それが元で降格された役人のお父さんも気の毒というかなんというか。



 で、こいつジーダは自分がダンジョンに潜るときにも後をついてきた。


 冒険者資格をはく奪されてダンジョンには入れないはずなので、なぜ来るのかと聞いたら「……荷物持ち」と答えやがった。


 冒険者じゃなくても、荷物持ちポーターとか梯子ポーターでダンジョンに履いている人は結構いる。


 だが、その場合ちゃんとした手続きをギルド窓口で行う必要があるのだが、そのことを聞いたら「……贖罪」という答えが返ってきたので反省していると思いたい。


 まあ、後から聞いたらやはりジーダは例の件を反省していて、エルランの荷物持ちを無報酬で3か月務めれば冒険者資格を再取得できると言われたそうで、その手続きをヴィダルおじさんが進めていたのだとか。


 おじさん曰く、「金と女は多い方がいい」ってことらしいけど、そのあとでカル姉からジト目を軽蔑のまなざしをくらっていたな。


 で、そのまま冒険者資格を再取得して気が済んだと思いきや、その後も毎回同行してきて、結局自分とリエルのダンジョンボス討伐にまでついてきて【攻略者の証】を手に入れてしまった。

 

 え、それって寄生じゃないのかって?


 だってリエルが「一緒に行きましょう」っていうんだもん……。


 







 そんな経緯もあったのだが、何故にジーダも自分達と一緒に旅に出る事になったのだろうか?


 そんな自分の疑問点は解消されることもないまま。


 自分たちは皆に見送られ、ここネサナルの街を旅立つ。

 



 父と母の足跡を追って。


 まだ見ぬ広大な世界へと。



 エルランとノエルの兄妹、そして一人の少女は旅に出る。



 明るい未来に向かって――。






―――――――― 完 ――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

10万人に一人のユニークスキルは1㎝しか浮かない空中移動スキルでしたが頑張って生きていきます 桐嶋紀 @kirikirisrusu

作家にギフトを贈る

いつも応援ありがとうございます!
カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ