第22話 凱旋
スキルの残り回数がゼロになったとき。
エルランの身体が虹色に輝いた。
その時、エルランの脳裏に電流のように情報が流れ込んできた。
「!」
『【唯一・世界(空中移動)】のレベルが上がり2になりました。スキル使用回数はリセットされます』
『平方移動が立方移動にアップグレードされました』
『
「え! なにこれ!」
情報の奔流が頭蓋の中を駆け巡る。
その情報の意味するところを理解できずにいたが、どうにか把握できたのは【空中移動】のレベルが上がったらしいことと、使用回数がリセットされたこと。
ほかのことはスキルに関する事だろうなとは思うが、その詳細は何一つ理解できない。
正直気になるところだが、今は戦闘中で、自分の命は風前の灯なのだ。
「スキルは――、よし! 使える!」
スキルの使用回数がリセットされたらしいことは理解できたので、ケンタウロスの突進をスキルの発動で回避する。
「!?」
……なんだ?
いつも通りにスキルを使ったはずなのに、何かの違和感。
続いて、大槍の薙ぎ払いも避ける。
「やっぱり!?」
違和感の正体がわかった。
浮いている
薙ぎ払いを避けるとき、従来の【空中移動】ならば、宙に浮けない分後退するしかなかった。
だが、今は足元を払われた槍を空中に浮いて躱している。
単なるジャンプの動きではない。
その証拠に、立て続けに振るわれた下からの振り上げを、地面に着地することなく空中を後退して避けている。
そうか。
自分は。
浮けるんだ!
そう確信したエルランは、片足を地面についてスキルを再発動。
ケンタウロスの後頭部の頭上に移動する。
「いよっし! 狙い通り!」
スパパパパパパパパーーーーーン
その攻撃は、見事ケンタウロスの無防備な急所をとらえ、クリティカルヒットが繰り出される!
ケンタウロスを相手に、初めての有効打を与えたエルラン。
だが、この敵がいかにクリティカルといえ、一撃で沈むことは考えられない。
距離を置き、相手の反撃に備えて身構える。
「あれっ?」
ケンタウロスは、いまだその場に屹立している。
だが、何か様子が変だ。
……動かない?
なぜにケンタウロスがそうなったのかは全くわからないが、いかにも硬直しているといった風に小刻みに震えていて、直ぐに動き出すようなそぶりはなかった。
「ちゃんす?」
何かの罠かもしれないと警戒しながらも、再度スキルを発動させてケンタウロスの頭上から後頭部に攻撃を加える!
スパパパパパパパパーーーーーン
スパパパパパパパパーーーーーン
スパパパパパパパパーーーーーン
相手が動かないことをいいことにそのまま三連撃!
すると
「あれ?」
ケンタウロスは、光の霧へとその姿を変えていく。
「はえ? 倒しちゃった?」
あとから知ったことなのだが。
背後から急所を攻撃したときには『クリティカルヒット』が発動するが。
背後、かつ頭上からの急所攻撃は『超・クリティカル』が発動するのだ。
その威力は、クリティカルの3倍ほど。
大概の魔物ならば、ボスでもない限りは一撃で倒せる威力である。
しかも、一定確率で相手に状態異常【スタン】を発生させる。
思えばこの時のケンタウロスも【スタン】状態になっていたのだろう。
ジリ貧のピンチな状態から一転、あっさりとケンタウロスを倒してしまったエルランはその場に立ち尽くす。
父や母の偉業を越えた実感がまだわいてこない。
そこで自問が始まる。
この勝利は、実力じゃない。
何だか知らないけれど、レベルアップしたスキル【空中移動】のおかげなのだ。
だから、驕ってはいけない。
謙虚に。慎ましく。
だが、目の前に現れた、ケンタウロスのドロップアイテムである巨大な槍と、強力な魔道具の原材料になるというその尻尾を見た時、
そして、ネサナルダンジョンを攻略したことを表す【攻略者の証】の腕輪が自分の左腕に現れた時、
喜びの感情があふれてきた。
やった、やった、やったー!!!!!
スキル頼りとはいえ、一人でネサナルダンジョンをクリアしたんだ!
クズだと思っていたこの【ユニークスキル】も、成長して文字通り空中に浮けるようになったんだ!
エルランの脳裏には、あの日あの時の屈辱や、さんざん馬鹿にされ続けてきたこれまでの感情が沸き上がり。
そして、快感と感激に打ち震えた。
もはや、あのようなくだらない連中に煩わされるようなこともないだろうと。
だけど
それよりも
胸に押し寄せる喜びと感慨。
これで
これでようやく
胸を張って!
父と母を探す旅に出ることが出来る!
◇ ◇ ◇ ◇
「おおい! エル坊! まさか、その腕にはまっている腕輪は!」
「うん! ヴィダルおじさんたちのお陰様でね!」
「エル君?! まさか、本当にクリアしちゃったの? ひとりで?」
「自分がパーティー組めるわけないじゃん! どうせ自分はぼっちですよーだ」
優しい人たちが
自分を迎えてくれる。
まずは驚き
そして
「「「おめでとう!」」
誉め称えてくれた。
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