第23話 成長したスキル、変わる周囲

 あの日。


 自分がネサナルダンジョンをソロでクリアしたときの事。


 ネサナルの街は、大いににぎわった。



「やっぱ、英雄様のご落胤だ! やることのスケールがちがわあ!」


「それにしても、ユニークスキルってやつはやっぱりすげもんだな! 誰だ? 役立たずのスキルだなんて馬鹿なことを言っていたやつは?」



 街の酒場という酒場では、自分が成し遂げた、初となるダンジョン単独制覇の話題に包まれていた。




 そんな喧騒の中の話題にも出てきた自分のスキル。


 あの日の戦闘中、ユニークスキル【唯一・世界(空中移動)】のレベルが上がった。

 

 まあ、そのおかげで自分はボスを倒すことが出来たわけで、もしあのままレベルが上がらなければ、今頃自分はダンジョンに取り込まれていただろう。


 で、そのレベルが上がったときに自分の頭の中に響いた謎の声。





 『【唯一・世界(空中移動)】のレベルが上がり2になりました。スキル使用回数はリセットされます』


 これについては理解できる。



『平方移動が立方移動にアップグレードされました』


 といったことも、これまでの1cmしか浮かなかったスキルから、文字通り空中に浮けるようになったことから理解はできる。




 けど、


ルートポイント1.000が、キュービックルートポイント100.000に置換されました』


 といった内容については、いまだに言葉の意味がわからない。



 まあ、あの時頭の中に流れ込んできた意味不明なこれまで聞いたことのない言葉を一言一句たがわず覚えていることも不思議なのだけれども。


 特に、√《ルート》とか、∛《キュービックルート》とかいう謎の記号まで頭の中に浮かんでくるのだ。言葉の意味も記号の意味もわからないのだが。


 



 で、わからないままにしておくのもモヤモヤが募るので、自分なりにスキルの検証をしてみた。


 まずは、空中に浮かんでみた。


「一番高いところまで!」って頭に浮かべて浮かんでみたら、建物の天井なんかあっさりと飛び越えてしまって驚いた。


 その時、一番てっぺんまで一瞬で浮かんだ後は、スキルの効果が切れて地面に向かって落ちて行ったのでさらに驚いたよ。

 即座にスキルを再発動できたから助かったけど。


 それに懲りた後は、ゆっくりと移動するように心がけました。はい。



 で、わかったことと言えば。


 真上に最大限浮かぶと、横、水平方向への移動は出来なかった。


 逆に、前と同じように1cmだけ浮かんで水平に移動したら、なんと1回の発動で100mも移動できた。以前の10倍の距離だ。


 で、上に1m、横に1mと斜め上方に浮かんで行ってみると、横に10mほどの地点でスキル範囲上限に至った。


 このことから、水平方向への移動距離と、上方への移動の距離には関連性があり、横に行けば行くほど上方には移動できず、上に浮かべば浮かぶほど横方向には移動できないみたいだ。

 

 両方のバランスをとれたところが水平方向に10mだったから、その時の高さは10mなんだと思う。


 地面の上ならいざ知らず、さすがに浮かんだ高さを図ることはできなかったからね。


 そして、空中にいる状況でスキル発動が切れたとしても、地面に落ちる前にスキルを再発動できるのが助かった。


 以前ならば、1cm浮いて移動した後は地面に一度触れないと再発動できなかったからね。もしそのままであったなら今頃自分は墜落死していただろう。



 期せずして、このスキルの成長には2度も命を助けられることになってしまったのには大いに反省している。





 そうして、スキルを検証しながら、ダンジョンで魔物を狩って蓄えを増やし、旅に行く準備を着々と整えていく。


 あ、そういえば、ベングト達のことだけれども。


 

 自分がネサナルダンジョンを踏破した翌日に、案の定難癖をつけてきたよ。


 曰く、


「俺たちでも6階層にようやく行けたのに、無能のお前が踏破するなんて何かのズルだ。」


「さすがの英雄様の息子様だ。なにかとんでもないアイテムでも貰っていたんだな。でなければ私たちが為せないことを成せるのはおかしいからね」


「いくら私の気を引きたいからって、そんなすぐわかる噓をつかなくてもいいのに」


「疑惑」



 などと言いたい放題だったな。


 だけど、ギルマスのヴィダルおじさんが、


 「エルランがネナサルのダンジョンを制覇したことは、その左腕にはまっている【攻略者の証】が証明している。踏破者の偉業を貶め侮辱するような素行の悪い恥知らずは冒険者資格をはく奪する! このことは中央セントラルへも報告が行くだろう。」


 という鶴の一声で一気に静かになった。

 

 というか、実際に冒険者資格をはく奪されたようだ。



 その醜聞が広まり、街長であるローダムの父親はその職を他者に明け渡し、山脈の向こうにあるという遠くの小さな町の町長として転任していった。


 街長でもそうだったのだ。


 アーダの父である代官も同じく遠くの町に左遷され、ベングトの父は衛兵長の立場を追われ、一兵卒として辺境の町に移動になった。


 唯一左遷されなかった、役人であるジーダの父も、役職を下げられたのだとか。


 取り巻きのマグスは、誰も気づかぬうちに一家そろってネサナルの街から姿を消していたそうだ。



 と、いうことで、パーティー「集う鋭閃えいせん」は、自らの行動により親たちをも巻き込んだ大騒動へと発展してこの地を去り、自然解散の憂き目となるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る