第18話 ギルマスの依頼
「じゃあリエル、行ってくるよ!」
「お兄、無理しないでね! 夕食までには帰ってくるのよ!」
「へいへい」
自分は今日もダンジョンに向かう。
といっても、【渡し屋】の仕事のためにではない。
言葉通り、ダンジョンの探索に向かうのだ!
まあ、探索と言っても近場のネサナルダンジョンは、うちの両親が初めて攻略してからいろんな冒険者に探索されつくしているから、もう未知の場所はない。
なので、純粋に魔物を倒しての金策と経験値稼ぎといった方がいいだろう。
今は
渡し屋をやっていた時よりも遅い時間だ。
その理由は単純で、もはやお客さんより先にダンジョンに入って待ち構えている必要はないからである。
しかも、ある理由から、魔物が狩りつくされる前にほかのパーティーに先んじて狩りに行く必要もほとんどない。
なので、本当はもっと遅く、なんなら昼過ぎに家を出ても構わないと言えば構わないのだが、そんな目立つ行動をすれば、間違いなく「なんかズルしてるんじゃねえのか」などと言いがかりをつけてくる輩が必ず出てくるだろう。
というか、間違いなく
◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョンに向かう前、必ず寄るところがある。
冒険者ギルドである。
ここにより、なにか良い依頼書はないのかを確認がてら、受付のカル姉やギルマスのヴィダルおじさんに顔を見せていくのが必須のルーティンになっている。
「うん、やっぱりこの時間は美味しい依頼はないもんだねー」
「まあね。いい依頼は朝一でギルドの開庁に合わせてこないとすぐになくなっちゃうんだね!」
「うん、知ってた」
「うん、知ってることを知ってたんだね!」
カル姉と軽口を交わす。
カウンターのさらに奥では、ヴィダルおじさんがそんな二人を眺めている。
「おーい、エル坊。依頼がないなら俺からの依頼だ。ゴブリンのこん棒10本、取ってきてくれや」
「えー、あれ、かさばるし、臭いし、持ってくるのめんどいんだよなー。で、ヴィダルおじさん、報酬は?」
「一本当たり銅貨3枚でどうだ?」
「えー、安すぎるよー。もう二声は欲しいなー」
「ちっ。じゃあ1本銅貨4枚。10本揃ったらボーナスで銅貨5枚追加でどうだ?」
「んー、まだ安いと思うけど、仕方がない。傍若無人なギルマスにこき使われてきますね」
「おー。気張ってこいや。」
「じゃあ、いってきますねー!」
ヴィダルおじさんは、たまにこうやって依頼をくれるときがある。
今日の依頼は、2階層にいるゴブリンのドロップ品。
おじさんは言わないけれど、こういう時は何か理由があるのだ。
自分を2階層に行かせる理由。
多分だけど、今日はベングト達が潜っているとかだろうか。
あいつら、パーティー組んでもう3年近くなるのにまだ6階層突破してないんだよな。
さんざん自分のことを馬鹿にしておいて、ソロの自分に越されているなんて知ったら怒るだろうなー。
ヴィダルおじさんもそう思っているから、自分とあいつらが顔を合わせないようにしてくれたのだろう。
ならば、その気持ちにこたえて、いくら報酬が安かろうとその提案に乗るしかない。
おそらく、その依頼料はヴィダルおじさんの決して多くはないお小遣いから出してくれているのであろうから。
◇ ◇ ◇ ◇
スパーーーーーン!
ダンジョン2階層に来た自分は、【空中移動】を発動させ、ゴブリンの背後からクリティカルヒットを繰り返す。
「お、また落とした。」
今日のヴィダルおじさんからの依頼、ゴブリンのこん棒10本を早々とコンプリートしてしまった。
この依頼、実はけっこう難易度が高い。
本来、魔物がアイテムをドロップする確率は1割に満たないのだ。
なので、この依頼は『ゴブリン100匹討伐』と同意儀なのである。本来ならば。
だが、クリティカルで倒した場合はドロップ率が跳ね上がる。
体感だと3割以上。調子が良い時は5割に届くこともある。
で、今日はまだ26匹しか倒していないのだが、すでに10本揃ってしまった。
ちなみに、今自分が使っているのもゴブリンのこん棒である。
たいていのゴブ棒はとっても臭いのだが、まれに新品同様なものが落ちるときがある。
それでも少しは臭いので、刃物で表面を削ってゴブの汗が染みたところを取り除き、使用に耐えるようにしたものを使っている。
たかがゴブ棒。されどゴブ棒。
そこらの山で拾った『よさげな枝』とは攻撃力は段違いだ。武器と呼ばれるだけの物であるだけのことはあるな。うん。
さて、どうしようか。
スキルの使用回数はまだ70回位は残っているし。
このまま帰ってしまっては、今日の稼ぎがいささかしょぼいことになる。
多分、ベングト達は5階層にいると思われる。
だったら、これから4階層の例の場所に行ってみるか!
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