第19話 ウサギ狩り

 やってきました4階層。


 時刻は己の刻から午の刻11時頃になるところで、つまりはお昼前だ。


 この時間になると、階層によっては早朝アタック組から魔物があらかた狩りつくされ、ゆったりとした湧き待ちの時間帯になり、狩りの効率から言えば美味しくない時間に突入しつつある。


 特に、4階層に出る角ウサギは食用の肉をドロップし、その肉はギルドの酒場をはじめとする街の飲食店ではどこでもそれなりの値段で買い取ってくれるし、さらには落とす魔石も一個当たり銅貨3枚とまさに美味しい魔物なので人気が高く、この時間ではほとんど狩りつくされている。


 では、なぜこんな時間にこの階層にわざわざ来たのかというと。


 ここには自分にとって絶好の狩りポイントがあるからである。



◇ ◇ ◇ ◇



 4階層の奥。


 3階層からの階段からも、5階層に向かう階段からも離れた場所。


 込み合う4階層でも、こちらにはあまり人はこない。


 主要なルートから外れていることもあるが、なぜかこの辺は魔物の密度が薄いのである。


 なので、たまに4階層初挑戦のパーティーが安全策兼腕試しでこの辺をうろつくことはあるが、今日はそんなパーティーもいないようだ。


「うん、今日もだれもいないね」



 目の前には、大穴。


 ここネサナルダンジョンにある大穴は、2階と6階だけではない。


 絶対通らなければならない通路に大穴があるのが2階と6階というだけで、保管階層や場所にもそれなりの数の大穴は開いている。


 で、ここ4階層のはじっこのほう。


 曲がり角の向こう側、まさに袋小路とも言うべき様な通路の先にも『大穴』が開いている。


 この大穴の向こうは、なんにもない。


 しいて言えば、少し開けた広場があるくらい。


 だが、その広場が美味しい。



 

 その広場は、大穴の手前からでも全体が見渡せ、そこには本当に何もない。


 3匹ほどの角ウサギ以外は。



 大概の冒険者は、わざわざ梯子ポーターを連れてここまで移動して大穴を渡り、たった3匹の魔物を狩るような行動はまずとらない。


 だが、自分はその行動をとる。


 なぜか?




 まずは、スキルを発動して大穴を渡る。


 そして、スキルの有効範囲が継続しているのでそのまま3連続で角ウサギを倒す。


 すると、あら不思議。



 1分もしないうちに、次の角ウサギが湧いてくるのだ!



 ここは、このダンジョンの中でも特異な『湧き点』なのである。


 通常のフロア内では、一日に2~3回位、時間にして8時間から12時間経過しないと発生しない魔物のリポップが、わずか1分未満で発生する。


 つまり、自分にとってこの場所は梯子いらずで狩り放題!


 おまけに、スキルの一回当たりの稼働距離である10mもあれば、この広場は余裕で一周できる。

 以前のゴブリン狩りなどでは魔物のに出現位置がばらけていた為、一匹を倒すのにスキルを一回消費するため効率は良いとは言えなかった。


 だが、この広場には一度に3体の魔物がせまい範囲に湧き出るため、1回のスキル発動で3匹は狩れるという効率の良さ。


 もし、他の冒険者がここを通りかかったとしても、たまたま目についた3匹を狩っているだけだとごまかすこともできる。


 


 この狩場を見つけてからというもの、自分の身体レベルは急成長を遂げた。


 1年ちょっとスライムを狩って、3までしか上がらなかったのに今やすでに12を超えている。

 

 ギルドや教会の【識別石】で自分を鑑定しても細かい能力までは知ることはできないのだが、どうも自分の場合「力」と「素早さ」が特に成長しているような気がする。

 まあ、いっつも後ろに回り込んで殴るだけの簡単な戦闘しかしてないからだろう。


 いつもこんな戦い方をしているので、多分「守り」や「HP」はそんなに伸びてはいないような気がする。


 あと、待望の戦闘スキルも手に入った。


 【戦闘(打撃)LV1】だ。


 いっつもゴブ棒で叩いているからだろうな。


 できれば身体強化なんかも欲しかったのだが。




 そしてスキルの使用回数限界近くまでウサギを狩り、今日の狩りも終了する。





◇ ◇ ◇ ◇



「エル君! 清算できたよっ! ウサ魔石163個で銀貨4枚に銅貨89枚! ウサ肉は10個! 銅貨40枚っ! 合計で銀貨5枚と銅貨それなり! はいどうぞ!」


 妙にテンションの高いカル姉が銀貨その他を渡してくれる。


 本当は、ウサ肉はもっとドロップしていたのだが、いかんせんヴィダルおじさんからの依頼のほうのゴブ棒10本がかさばって持ってこられなかったのだ。


 いまごろはダンジョンに取り込まれちゃってるんだろうな。ウサ肉。


「そしてこれは俺からだ! ほらよっ!」


 そしてギルマスのヴィダルおじさんからは10本コンプリ―トのボーナスをふくめた銅貨45枚を手渡される。



「で、カル姉? 何でそんなにご機嫌なの?」


「え、わからない? エル君のことだよ?」



「え?」


「今日の報酬で! なんとエル君は累計報酬で銀貨500枚達成だよっ! 金貨にすれば5枚だよっ! わたしゃ、エル君がこんなに立派になるなんて……およよよよ」



 カル姉? こんなキャラだったっけ?




  

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