第13話 エルランの1日

 エルランの朝は早い。


 早朝からダンジョンアタックを行うパーティーよりも先に、ダンジョン2階層に到着していなくてはならないからだ。


 寅の刻朝4時頃には起き出し軽い朝食をリエルと摂って、一人そのままダンジョンへ。


 リオンは家の洗濯や掃除をした後教会に向かう予定だ。



 街からダンジョンへの道中は走って10分ほどで到着。


 ダンジョンに着いたら1階層のスライムを狩りながら、早朝アタックのパーティーお客さんを待ち構え、卯の刻頃朝6時頃には【渡し屋】の営業開始。


 行きの【渡し】のお客様にはおおよその戻りの時間を聞いて、帰りの【渡し】の予約も取っておく。


 帰りの予定が不確かなパーティーには、未の刻を過ぎると営業終了となることや、渡しの最大人数1日50往復を越えたら帰りは自己責任であることを説明するのが面倒ではあるが、どうにかご理解は頂いている。


 その日によって違いはあるものの、およそ辰の刻朝8時頃には行きの【渡し】は終了だ。



 お客さんの数は、1日にだいたい1~4パーティー。


 まったくお客さんがいない日もあるけれど、そんなときはスライム祭りだ。


 幸い、今までのところ最大キャパ1日50往復を越える数のお客さんは現れていない。


 浅層だけ探索のパーティーって数がそれほど多くないんだね。


 だからほとんどのお客さんとは顔見知りになっちゃった。


 たまにベングトたちが来るのが厄介だけど。




 それにしても、ベングトたち。


 あいつらみんなそれなりの金持ちの家なんだから、こんな格安の渡し屋よりも梯子ポーターさんを雇えと言いたい。


 そんなことをラーシュさんにこぼしたら、「面倒くさいガキどもの相手は嫌いだからお前に任せる」なんて言ってたな。


 まあ、聞こえてきた話だと親の援助をもらわずに、自分たちの稼ぎだけでやって行こうとしてるのだとか。だったらケチ臭いのも理解できる。


 でも、あいつら装備は親から買ってもらったんだよな。


 取り巻きのマグスでさえそれなりの装備をそろえてやがる。


 どうせ、ローダムあたりが買ってやったんだろうさ。


 まあ、あんな奴らはどうでもいい。


 どうでもいいから、来るたびに自分に悪態つくのはやめてくれ。めんどくさいから。



 浅層のパーティーたちは、初心者に近いこともあって結構礼儀の正しい人たちが多い。


 もちろん、ベングト達は除く。





 深層に向かうパーティーたちも、当然この大穴を渡っていく。


 そっちは確実に『梯子ポーター』の人を雇っているから自分の出番はない。


 そんなベテランパーティーの人たちとも段々顔見知りになっていく。


 やっぱ強い人たちってのは余裕があるのか愛想がいい人が多いよね。


 どっかのボンボン共に爪の垢を飲ませてやって欲しいものだ。


 


 予約のパーティーが戻ってくるのを待つ間は1階に戻ってスライム狩りに勤しみ、簡単な弁当を食べる。


 未の刻頃には大体のパーティーが狩りを終えて戻ってくるので、予約分の帰りの【渡し】を終えれば営業終了だ。


 予約なしでまだ戻ってこないパーティーはどうするのかって? まあ、どうにか梯子ポーター付きのベテランパーティーでも見つけて交渉するか、明日まで待つとかしてほしい。


 いくらサービス業とはいえ、そこまで営業時間外面倒は見られないのだ。




 帰り道では1階層のスライムはほとんどリポップしていないので、ほぼ一直線で街に戻って冒険者ギルドへ。


 魔石を換金し、夜の酒場の営業に備えての掃除をテッドとロイと共に行い、そのあと教会に行って今日の分の喜捨をする。


 なんたって、リエルがお世話になっているからね。


 せめてリエルのお昼ご飯代くらいは寄付しないと。



 神父さんやシスターとお話ししたり、孤児院の子供らと少し遊んでリエルと共に自宅に帰る。


 帰る途中では市場に寄ったり屋台をのぞいたり。


 この時間になると売れ残りそうなものを安くしてくれたりするのでとってもお得だ。



 家ではリエルと一緒に夕ご飯。


 どれだけ忙しくても、この時間だけは大切にしている。




 いつもいつも、毎日思う。


 今、こうしている瞬間にでも玄関を開けて両親が帰ってくるのではないかと。


 明るい笑顔と大きな声で、扉を大きく開け放ちながら。


 きっと、父は自分とリエルの頭をわしゃわしゃ撫でてくれるだろう。


 きっと、母は自分とリエルを力いっぱい抱きしめてくれるだろう。


 そして、父からはお土産をもらって。


 母からは異国の地での冒険の話を聞くのだ。


 そのうちリエルは眠くなって。


 父に抱きかかえられて寝室に行って。


 そのあと自分はこれまでのリエルとの日々を両親に話して聞かせるのだ。




 でも、扉は動かない。


 リエルも扉を気にしている。


 でも、扉は動かない。


 それでも、自分とリエルは嘆かない。



 だって、自分達には明日があるのだから。


 明日にはきっと。


 そう信じながら、リエルと一緒に明日の朝食とお弁当の準備をする。



 そして戌の刻夜21時頃を過ぎ、


 自分とリエルは眠りにつく。




 明日に備えて。


 明日を夢見て。

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る