第12話 『梯子ポーター』
今日も今日とて【渡し屋】は大盛況。
たとえスライムの倒し過ぎで腕がプルプルになったって、重量ゼロになるから決してお客様を落とすことはないし。
【渡し屋】の料金とスライムの魔石でウハウハだ。
スライムはたまに薬草も落としてくれるしね。
盛況の理由は、何といっても料金のお手ごろさだろう。
この【渡し屋】を思いついてすぐ、思い当たることがあった。
それは、いつもギルドの酒場でお呼びがかかるのを待っている『梯子ポーター』の皆さんの事。
『梯子ポーター』とは。
『ネサナルダンジョン』の地下2階に入ってすぐのところにぽっかりと空いている、幅5mほどの『大穴』。
最初にこのダンジョンを発見した人たちは、この穴をどうにかして渡ろうと試行錯誤したらしい。
で、この大穴に橋を架けて渡ってみたのだが、ダンジョンの特性で翌日にはダンジョンに飲み込まれてしまったらしく、渡るためには一時的に梯子を橋のようにかけて渡るしかなくなったのだとか。
で、この梯子だが、当然5mを超す長さの梯子なんてダンジョンの中に持ちこめるようなものじゃない。
そのため、5m超の梯子を3分割して、ダンジョンの中で繋げる『連梯子』が作成された。
この連梯子は、一つの長さがおよそ1.8mであり、それを3つ束ねて運ぶのはかなりの重労働であり、何より戦いの邪魔になる。
何しろ、人ひとりの重量のほかにも重装備の戦士などはかなりの重量になるから梯子の材質も頑丈な鉄が用いられてとても重いのだがら。
なので、正式なパーティーに付随する形で、梯子運びを主な役割とする『梯子ポーター』というこのネサナルダンジョン独自の職業が誕生したのである。
その料金は、ドロップ品を運ぶ通常の『ポーター』とほぼ同じで、一日あたり銀貨1枚と大銅貨5枚(大銅貨1枚=銅貨10枚)が相場。半日の時間拘束でも大銅貨8枚になっている。
で、自分が【大穴の渡し屋】をするに当たっての懸念が、自分がこの商売をすることで、『梯子ポーター』さんたちの仕事を奪ってしまわないかということだった。
それで、ギルドの酒場で給仕をしている時に仲良くなった『梯子ポーター』のベテラン、ラーシュさんに聞いてみたところ、
「いいんじゃね? 2階にいてくれるんなら俺らも大歓迎だ」
とのお返事だった。
というのも。
『大穴』は2階入り口だけではなく、6階の入り口付近にもある。
6階層より下を探索するベテランパーティーの場合ならば、最低でも丸1日、長ければ泊りがけで数日間の依頼となり、そちらは十分稼げるんだとか。
でも、6階層まで行けない、初心者や実力の足りてないパーティーの場合、2階の大穴を渡るためだけに半日指定の依頼が多くなる。
そもそも、5階層より上の浅層を探索する場合、当然深層に比べて実入りが少ないため梯子ポーターさんを丸1日雇うと収入よりも支出の方が多くなるらしい。
というのも、浅層ではモンスターのリポップ時間が長く、半日で倒せるモンスターの数と1日いっぱい粘って倒せるモンスターの数にそれほど大きな違いがないらしいのだ。
なので半日の依頼をしてくるパーティーも多く、それを受けたその日はほかの依頼も受けられず、実質1日拘束されるのに実入りは半分となってしまうので、2階に限って渡し屋をやってくれることは逆に大歓迎になるらしい。
ここまで聞いた時、自分の中である疑問が生じた。
「あれ、じゃあ、自分がやろうとしてるように、大穴の前で梯子を持ってその場で渡しの商売をする人はいないんですか?」
「そんな奴はいねえよ。この梯子、一体いくらすると思ってんだ? 一人でダンジョンの中にこんな高価なもん持ってうろついてたらすぐに狙われらあ。だから、きちんとギルドで受付登録してからじゃねえと怖くてやってられねえわ」
そうか。梯子は鉄でできているから素材そのものもそれなりの値段になるし、3連になっているつなぎ目のギミックも、大きな重量を支えるために熟練の鍛冶師の技が使われているらしく、合わせると結構な元手が掛かっているらしい。
いくらかさばるものとはいえ、マジックバック持ちなんかがいれば楽々持ち帰られてしまう。悪徳の鍛冶師なんかが仲間にいればあっという間に鋳つぶされてしまうのだろう。
そんな話をラーシュさんから教えてもらい、熟考と相談の結果、【渡し】は一人片道『銅貨3枚』に設定した。
ラーシュさんは「5枚もらっても十分安い」とのことだったが、多く稼げばその分反感も得やすくなってしまうことを考慮した結果だ。
スキルの発動は1日100回で固定なので最大で銅貨300枚稼げる計算になるが、そうそううまくないかないもので、5人パーティーを入り口側から奥に運ぶとすると、一人運ぶごとに反対側に戻らなければならず1回分無駄打ちとなるからだ。
最大効率で4.5往復だが、またほかのお客が来れば結局入り口側に戻らなければならないので最初から5往復と数えておいた方が良いだろう。
帰りにも同様の回数が発生するとして、1パーティーあたり10往復、つまり1日5パーティーが最大客数となり、その場合の収入は銅貨150枚。
まあ、この半分程度でもスライムの魔石と合わせればこれまでの日給平均を上回ることが確実なので、ちょうど良いだろう。
ということで、冒険者のお財布にも優しいリーズナブルな価格設定となったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます