第9話 大人たちの憂慮
「で、ベングト。登録は終わったのか? せっかく僕たちが集まったんだ。時間を無駄にしたくない。」
街長の息子、ローダムがベングトに語り掛ける。
「……迅速。」
役人の娘、ジーダもそれに続く。
「そうよ! 私たちってばなかなか揃うことないんだから。早く登録済ませてダンジョンに行くんでしょ!」
そして代官の娘、アーダ。
「おいらはいつでもおともしまっせ!」
そして取り巻きのマグス。
どうやらこの5人はパーティーとして活動することを決めたらしい。
ようやく体を起こした自分に向かって、ローダムが話しかけてくる。
「エルラン君、大丈夫かい? うちのパーティーメンバーが失礼をしたね? ああ、そう、僕たちはパーティーを組むことにしたんだよ。本当は、ユニーク持ちの君にも声を掛けようかと思ったんだけど、なんせあれではね。ああ、悪い! いや、あれだ! 僕たちみたいなダブルの半端ものなんかと、英雄様の子供である君では釣り合わないかと思ってだね。それじゃ、そういうことで」
「……登録。」
「おお、そうだ! 早いとこ登録しなくちゃ! いくぞ! アーダ、マグス!」
「あら、私とベングトはもう終わったわよ? あとはローダム、あんたたちだけよ?」
「そうか、じゃあ行ってくるか」
ナタリー姉ちゃんたちの案内から戻ってきたカル姉が仏頂面でローダムらの受付を済ませると、彼らはエルランに一顧だにせずギルドを出ていた。
そこに。ナタリーらとの話し合いを終えたギルドマスター、ヴィダル・アーステッドが奥の部屋からナタリーらとともに現れる。
「おー。エル坊、派手にやられたなー。大丈夫かー?」
「もう、ほんとにあの人たちは。増長していい気になっているのはあの人達自身の事じゃないの! それに気持ち悪い顔で話しかけんなってのよ! ほんとにもう!」
おお。ナタリー姉ちゃんが辛辣だ。
普段は清楚なシスターさんなのに、素の姿はお転婆さんなんだよな。
「エルラン君? なにか失礼じゃないかな?」
「イヤイヤ、ジブンハナニモイッテマセン」
そして、プンスコ怒っているカル姉も。
「仕事とはいえあんな奴らの登録なんてしたくなかったな~。ギルマス、素行不良で即日資格はく奪とかできないんですか~?」
「はは、残念ながらあれくらいのいざこざは
「うん、それは自分も考えてるよ。ある程度はソロで実力付けて、出来る依頼受けて行こうかなって。」
「ボクたちがあと3年すればエル兄とぱーてぃー組めるのにー。」
「ああ、そのときにはテッドやロイにいろいろ教えられるようになっていたいからな。自分は頑張るからな? お前らも、酒場の給仕やギルドのお掃除頑張るんだぞ? って、ところでカル姉!」
「どうした? エル君?」
「きょうはあいつらがダンジョン行っちゃったから、レベル上げは明日からにして街の依頼受けるよ! あ、これなんていいかも!」
「って、これ、街の下水道掃除じゃないの。これじゃあ登録前とやってること変わんないでしょうに」
「へっへ~ん、依頼受けたほうが、ただのお手伝いより銅貨1枚報酬が多いんだもんね~。じゃあ、行ってくるね~!」
「あ、待って! ちゃんと依頼受け付けしないとダメなんだからね!」
◇ ◇ ◇ ◇
「あーエル坊の奴、なにかもっと稼げる依頼があればいいんだがなー」
「そうなんですよ~。ギルマス? 何かありませんかね~?」
「討伐系はまだまだ難しいしなー。しかもソロだし。採取系も割のいいのは魔物が出る森の奥までいかなきゃなんないからなー。」
「やっぱりコツコツレベル上げですかね~」
「だがそうなると、金を稼ぐ依頼を受ける時間が無くなるからな……まったく、エル坊とリエルちゃんの生活費くらい用立ててやるっつってんのに、素直に受け取らねーんだもんなー。」
「そうなんですよ~。ご飯は毎食
「全くです。教会や孤児院でもお昼だけしか食べて行ってくれなくて。しかも孤児の子供たちに遠慮してお腹いっぱい食べないし。お手伝いした分、もっと遠慮しないで欲しいのになぁ。」
エルランが下水掃除の依頼を受けに行った後、ギルマスのヴィダル、受付嬢であり、隣の家の娘でもあるカルロッテ、そして教会の神父の娘でありシスターでもあるナタリーがエルランの行く末を案じていた。
テッドとロイはさっそく酒場の床掃除の仕方を教えられている。
「エル君料理も上手だから~、ギルドの酒場で雇っちゃったらどうです~? 魔物の解体も上手だし~。」
「もちろん、こっちはそれでもいいいんだがなー。エル坊なら即戦力だ。でもなー。あいつは冒険者になりたがっているからなー。」
「そうですよね。エルラン君、口には出しませんけど、リエルちゃんが一人で生活できるような年齢になったら、十分なお金を残してご両親を探しに行く気でしょうからね。」
「「……」」
「ああ、なにかしてやれることがあればいいんだがなー」
エルランの将来を憂えた3人の話は結論の出ないまま、この日は解散となったのだった。
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