第4話 「集う鋭閃」たち


ネサナルダンジョン内2F入り口大穴付近。


――エルラン、14歳。





「ちょっと? へんなところは触んないでよ?」


 大穴の【渡し屋】、絶賛営業中である。


 幼馴染というか、腐れ縁というか。


 衛兵長の息子のベングトが属するパーティーの依頼を受け、絶賛【渡し】の業務中である。




 

 【渡し】の業務は、一人一人、エルランが抱えて運ぶ必要がある。


 いかにユニークスキルを得たとはいえ、人並外れた力のスキルを手に入れたわけではなく、エルランは年相応の男性の力しか持っていない。


 そして、エルランのユニークスキル、【唯一・世界(空中移動)】は、他人に効力を及ぼすことはできない。


 したがって、1人ずつ自分が抱えて運ぶしかないのである。





 今、運んでいるのはベングトパーティーの攻撃魔法担当の女性、代官の娘のアーダである。


 アーダも自分やベングトと同い年の14歳。


 体つきが子供から大人に変わっていく多感な時期だ。




 とはいえ、こちらだって触りたくて触っているわけではない。


 というか誰が触るか。


 いわれのない冤罪はご免被る。


「変なところは触ってません。抱える必要がありますので、最低限のところはご容赦願います。」


「相変わらずの態度ね。同級生なんだから、もうちょっとくだけたしゃべり方してくれてもいいんじゃないの?」


「いや、お客様ですから。」


「そんな態度も鼻につくのよねぇ? いかにも自分は私達とは関係ありませんって顔して。どうせ自分は特別だとか思ってるんでしょ? さすが英雄様のご子息様ね。ああ、それともユニーク持ちの麒麟児と呼んだ方がよかったかしら? あんまりいい気にならないでね?」


「いえ、そのようなことは決してありません。自分はただのですので――。さあ、着きました。ご利用ありがとうございます。」 


 


まったく――。


 嫌われているのは分かるのだが、だからといって毎回絡んでくるのはやめて欲しい。


 いくら同い年といってもだ。





 ベングトのパーティーは、全員同い年で構成されている。


 彼らが12歳の時に、ネサナルの街の教会で受けた「祝福の儀」。


 その儀式では前代未聞というべき出来事が起こり、なんと4人もの【ダブル】持ちが誕生することになった。


 その子らは、皆街の有力者の子息であったことも相まって、自身の親の就いている職を継いで就くべく、またさらに高みを目指すための修行として、「学院」を卒業した後は冒険者になることを選択する。


 そんな子らが一つのパーティーを組むことになるのは自然な流れであっただろう。



 街長であり、準男爵の息子であるローダム・ボードスは、【政治(扇動)LV1】、【知力強化(討論)LV1】。

 

 代官の娘であるアーダ・エクストレームは、【魔法(火)LV2】、【知力強化(調略LV1】。


 衛兵長の息子のベングト・ヘードス【戦闘(剣技)LV2】、【身体強化(筋力)LV1】


 役人の娘、ジーダ・セーゲス【魔法(回復)LV1】、【狩猟(罠)LV1】


 それに、学院のころからこいつらに金魚の糞のようにくっついていた取り巻きの一人、マグス【狩猟(斥候)LV1】。


 この5人がベングトたちのパーティー、「集う鋭閃えいせん」のメンバーである。



 さすがに才能に恵まれた【ダブル】持ちがほとんどという事もあって、この「ネナサルダンジョン」でも安定した結果を残してるようだ。


 ビギナーとベテランの分水嶺ともいわれる「6階の大穴」を越えるまでにはまだ至ってはいないが、それでもパーティー結成、攻略開始から約1年ちょっとで地下4階まで攻略出来ているのは、それなりの速さである。


 持っている能力からすれば、もっと早く攻略できてもいいのではとも思うが、何しろこいつら、街の有力者の子弟というボンボン共の為、何から何まで足並みがそろわないようなのだ。


 自分の記憶によれば、こいつらがダンジョンに現れるのも約1週間ぶり。


 どうも、お互いに我が強く、他者の都合に自分の予定を合わせるということができないようなので、5人が揃う機会が格段に少ないのだ。


 それに、地下3階までは出現する魔物もソロで出てくるが、地下4階からは複数の魔物が出現する。


 「連携」という概念を持たないこいつらは、そこで最初の壁にぶち当たっている様なのである。




 で、もとより嫌われている自分に対して八つ当たりもかねて、いつもよりもあたりが強くなってきている今日この頃である。


 

 絡まれるのはうっとおしいが、こっちも商売だからきちんと応対しなければならない。


 「文句があるんだったら梯子使えよ!」なんて言ってみたいものだが、それで収入が下がって困るのは自分であり、ひもじい思いをするのは妹のリエルなのだ。


 なので、全員を穴の向こうに運んだ後も、営業スマイルを顔に張り付け慇懃な態度でこいつらの後ろ姿に声をかける。


「お帰りの【渡し】の予約はしていかれますか?」


「当然だろ! それくらい言わなくても察しろ! 英雄様の血を引いてるならそれくらいわかるだろうが!」



 へえへえ。



「では、申の刻まではここに居りますが、それを過ぎると明朝の辰の刻までお待ちいただくことになりますのでご注意くださいませ」


「わかってるよ! 何度も聞いてんだよ! 馬鹿にしてんのか!」



 はあ、ダメだ。


 やっぱこいつら嫌い。 








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