第3話 祝福の儀

「おお! 強い光だ! また【ダブル】持ちが出たぞー!」


 

 祝福の儀。


 この国、ルクレドラス連邦では子供が12歳になると最寄りの教会で行われる成人の儀式である。


 成人を迎えた子供らは、この日を境に一人前とみなされ各々が仕事に就くことになる。

 

 中には、より学びを深めるため、あるいは武を高めるために高等教育の門をたたく者もいるのだが、それは貴族などの家柄、豪商などの富豪、あるいは突出した才能を持つごく一握りの者だけに許された道である。

 

 だが、この祝福の儀だけは、貴賤や財力、能力を問わず平等に地域の教会で行われる。




 そして、この儀式では【スキル】と呼ばれる、これからの生活、生業に役立つ技能が神より与えられる。


 多くの場合、【農耕(野菜)LV1】や【狩猟(川)LV2】、【採取(鉱物)LV3】といった感じで、大枠のカテゴリー内に収まる特化した能力を低いレベルで、一人に一つ得られることが普通である。


 中には【戦闘(指揮)LV2】と言った軍に向いている物や【政務(財務)LV3】といった国や領地持ちの貴族に召し抱えられるような珍しいものも出現することがある。


 ちなみに、スキルというのは生涯で一つしか得られないものではなく、その後の人生における研鑽や経験で新たに得られることもある。


 だが、親の生業を継ぐことが多く生涯一つの職しか経験することのないこの世界では、いかに先天的に――つまりはこの祝福の儀で生業に役立つスキルを得られるかが衆目を集めている。

 


 そんな中。


 通常であれば一人に一つのスキルが当たり前のこの儀式において、この年は異常ともいえる事態が発生していた。


 大きな都市の教会でも毎年一人出るか出ないかという、一度に二つのスキルを賜るという【ダブル】持ちが、この中規模な街ですでに3人も出ていたのだ。



 

「今度は誰だ! どこの子だ?!」


「あれは衛兵長の息子じゃねえか! さすが、強者の子は違うもんだな!」


「スキルは何だ?! あの色だと戦闘系か? おい! 誰か聞いて来いよ!」




 【祝福の儀】は参加する当人や親のみの関心事ではなく、娯楽が少なく噂話の多いこの世界では街の人々の一種の祭りのような賑わいを見せる。


 俗にいう野次馬根性を全開にした街の人々が教会の周囲に集まっている。


 教会の中で行われているはずのこの儀式の内容が外の群衆に知れわたってしまうのは、【祝福】を受けた時に教会の外にまで光が広がり、その光の色や強弱によっておおよそのスキルの数や種類がわかってしまうからである。




「おお! まただ! これで4人目だぞ! 今度は誰だ?!」


「あれは代官の娘か? 魔法系の色だぞ!」


「なんてこった! 軍属や役人の子ばっかりじゃねえか! やっぱり血筋ってのは影響あるんだな!」



 


 人口8千人ほどのこのネサナルの街で、今年儀式を受ける子供らは約200人弱。


 これまでに【ダブル】のスキルを得たのは4名。


 その内訳は、





街長の息子  ローダム・ボードス

 

代官の娘   アーダ・エクストレーム


衛兵長の息子 ベングト・ヘードス


役人の娘   ジーダ・セーゲス


 

 この者らは、名だたる街の有力者たちの子息であり、いずれも二つのスキルを得た証である強い光が確認されている。


 



 そんなざわめく教会の周辺において、そろそろ儀式も終わりの兆しを見せ始めたころ。


 もう今年はさすがにこれ以上の驚きはないだろうと、群衆が驚きの余韻に浸り始めたころ。


 教会の屋根の上にひときわ大きな、見たこともない光が立ち上った。




「おおおおおおお! なんだあの光は!」


「見たことねえぞ! 何色あるんだよ! それにでけえ!」


「ひい、ふう、みい……だめだ! 多くて数えられん!」


「これって、あの、伝説の【ユニークスキル】ってやつなのか!」







 ――ユニークスキルとは。


 通常のスキルは、その稀少性の多寡こそあれど、努力や経験さえあれば何人たりとも得られる可能性があるものである。


 たとえ、【戦争(大将軍)LV10】といったものであっても、とてもか細い糸のようなものであろうとも、【ユニーク】でない限りは取得できる可能性はゼロではない。



 だが、【ユニーク】であれば。


 一生でただ1回、この祝福の儀で授かる以外は取得不可能の超稀少スキルであり、その内容も生者においてはこの世で唯一となる技能であるとされる。


 その稀少性は、あくまでもこの国、およそ毎年1万人が祝福の儀を受けるルクレドラス連邦内の中に限った話でいえば、10年に一人出るか出ないか。



 つまりは、確率は10万分の1。





「誰だ! 【ユニークスキル】を得たのは誰だ!」


「間違いねえ! この子はこの国の宝だ!」


「おれらの街からユニーク持ちがでるなんてなあ! こりゃ今夜は宴だな!」


「おお、見ろ! 出てくるぞ!」


「来た! あれは……!」


「「「「「おおおおおおお! 英雄様の子供じゃねえか!」」」」」






 この日、エルラン・ベルクス12歳。


 

 父はリキャルド・ベルクス。元冒険者で、ルクレドラス連邦国の「名誉騎士爵」を賜いし魔法戦士。


 母はアンナリア・ベルクス。元冒険者にて「大賢者」の称号を得し賢者。


 その二人を両親に持つ一人の少年が




【唯一・世界(空中移動)LV1】というユニークスキルを天から授かったのである。










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