第5話 祝福の喧騒
【祝福の儀】を受けたあの日。
自分にユニークスキルが授けられた。
様々な色がまじりあう極大の光が教会の聖堂から立ち上ったときは、さすがの神父さんも驚いていたな。
もちろん、自分だって驚いた。
だけど、驚きよりも強い感情が自分の胸には去来していた。
それは、「安心」と「喜び」。
これで、妹のリエルに旨いものをたくさん食べさせてやることが出来るという安心。
そして、両親の血を引く自分が、そして両親が。妹が。
何か大きなものに認められたという喜びを感じた。
だが、そんな感情にいつまでも浸ったままではいられなかった。
儀式を終えた者は次の者が控えているので速やかに教会の外に出なければならない。
教会の外から聞こえてくるのは、地響きのような大歓声。
ユニークスキルを得たのは誰だという観衆の興味の視線にさらされる。
「おお! やっぱり英雄様の子供だ!」
「さすがだぜ! 英雄の子もまた英雄か!」
周囲は自分の事を興奮しながら褒めそやしている。
そんな群衆の中で、冷めた目で自分を見ている
だが、そんな喧騒の中である人物に声を掛けられる。
「エル坊! すげえじゃねえか! どれ、さっそくギルドに行ってどんなスキルか見せてくれ!」
こんな声をかけてきたのは、冒険者ギルドのギルドマスターであるヴィダル・アーステッド。
ギルドマスターといえば、通常であるならばその地位に見合った威厳や、接する事への気おくれなどがあるはずなのだが、普段からギルドの酒場でウエイターや調理の手伝いをしているエルランにとっては気心の知れたおじさんといった感じの気安さがある。
「えー、いきなりですかギルマス~。なにもこんな大勢が見ている前でそんなこと言わなくてもいいじゃないですか?」
「何言ってるんだ! ユニークだぞユニーク! その能力によっては
ギルマスであるヴィダルも、エルランの家庭の事情は重々承知している。
成年に至らぬがためにギルドの依頼を受けられず、自身と妹を養うためにギルドのみならず街のあちこちで人の嫌うような下働き以下の仕事を頑張っているエルランの姿をよく見ているのだ。
また、エルランの両親とは冒険者時代に親交もあったため、まるで親類の子供のように可愛がっていた。
今の家を出て一緒に暮らすかと誘ったこともある。
金銭的援助を持ちかけた回数も100を超えるだろう。
そんな声に感謝しながらも受け入れることのない、自分たちの力で生きていくことをなにより大切にする誇り高き少年、エルランの事を可能な限り応援してやりたいと思うのは自然なことだった。
だがまさか。
その気遣いがあんなことになろうとは、ギルマスのヴィダルをはじめ、誰一人として予想しえないことであっただろう。
◇ ◇ ◇ ◇
「で、お前さんのユニークはどんなスキルだったんだ?」
「はい、【空中移動】って言われました。その前に【世界】ってついていたのはよくわかりませんが。」
この世界、スキルというものはどんなスキルを持っているかは普段は自分かでも他者からでも知ることはできない。
所持しているスキルを知るためには、教会でそれなりの年月分の祈りがこめられた魔法石に、少なくない魔力と秘匿された技術で加工された魔道具が必要となる。
こうして作られた【識別石】に二人以上のものが触れて意識を集中することにより、互いの意識に正確なスキル名が浮かび上がる。
この、二人以上というのが魔道具の機能的なものなのか、はたまた意図的に付与された仕様なのかは不明だが、これによってスキル名は自己申告のみならず他者からの証明を得られることになる。
そのスキル名を明らかにするもう一人が悪意を持った者であれば大変なことになってしまうので、教会かギルド以外でのスキル名識別は禁止されており、その為識別石も教会とギルドにしか設置されていない。
【祝福の儀】が行われた当日は当然のごとく混雑が予想されるため教会とギルドでの【識別石】の使用は原則禁止となっているが、その長、つまり神父かギルドマスターが認めた際にはその限りではない。
ということで、国内で10年に一人出るかという希少なユニークスキルを授かったエルランにはギルマスのヴィダルが許可を出し、特別にその日のうちにスキル名の識別が行われたのである。
その結果、エルランのスキルは
【唯一・世界(空中移動)LV1】
というものであるとの結果が出た。
エルランと一緒に識別石に触れたギルドの受付嬢、カルロッテも興奮気味だ。
「エル君、すごい! 空中移動だって! お空飛べちゃうんだね!」
実はこのカルロッテ。エルランが常日頃お世話になっている隣家の娘さんで、幼少期からエルラン兄妹とは一緒に遊ぶ仲であり、4年前の祝福の儀で【庶務(受付)LV1】のスキルを得て、2年の見習い期間を経てギルドの受付嬢として働いていた。
そんなカルロッテの叫びを聞いて、
「おお、それはすげえな! さっそく訓練場で試して見せてくれ!」
ヴィダルが、全くそれと意識することなく悲劇の引き金を引いてしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます