第15話 ゴブリンとの戦闘

「さーて、いっちょうやったりますか!」


 今日は【渡し屋】はお休みにしてある。


 思えば、開業してから休みにするのは初めてだったな。



 今日休みにすることはギルドの掲示板にあらかじめ告知してある。


 ギルマスと仲がいいとこういう時便利だよね。


 まあ、張り紙作ってくれたのはカル姉なんだけど。



 それでも、ベングトなんかは「俺たちの攻略が滞るじゃねえか!」なんて文句をつけてきたんだけれども、そもそもお前ら週1くらいしか活動してないじゃないか。


 それに、今日の曜日はローダムに用事があるから活動することはないはずなのにだ。


 なにかにつけて文句をつけたいんだろうな。


 まあ、あんな奴らのことなんかどうでもいいか。



 オレは今日から、迷宮に挑むのだから。




◇ ◇ ◇ ◇




 さて、【渡し屋】が休みとはいえ、居る場所はいつもと同じだ。


 ちょっと違うのは、2階の大穴のにいるってことだけだ。


 大穴は、お客さんを連れて何度も渡ったことはあるが、一人で反対側に来たのはもしかして初めてなのかもしれない。



 そして、大穴の向こう側にいる魔物と戦うのも初めてのことである。



「ゴブリンか。人の形してるからなんだか叩くのに抵抗があるよな……」



 2階層の主な魔物はゴブリンだ。


 人間の子供ほどの体格をした、2足歩行で両手を使って武器を操る。


 黒と緑が混ざってくすんだような色の体表で、お世辞にも清潔だとは言えない。


 この階層ではほとんどは単体で出没するらしいが、まれに複数体が群れている時があり、初心者には要注意だ。


「お、いたいた」


 迷宮の通路、角を曲がったところの向こうに一匹のゴブリンを発見する。


 向こうを向いていて、まだこちらには気づいていないようだ。

 


「うーん、実際こうして見て見ると、孤児院のガキどもと同じような身長で余計やりずらいな……」


 なんとなく、普段面倒を見ている子供たちの姿がそれに重なってしまい、その存在を棒でぶっ叩くことに改めて抵抗を感じる。


 さらに言うならば、愛すべき妹、リオンの身長とも似通っているではないか。


「いや、惑わされるな。こいつゴブリンは、あいつら子供たちと違って可愛さのかけらもないじゃないか。うん。」


 気を取り直した自分は、武器であるいい感じの木の枝を握り直し、ゴブリンへと向かう。



「ギギャー!」


 ゴブリンが自分の姿を認識したようだ。

 

 手に持ったこん棒を振り上げながらこっちに向かって全力で走ってくる。


 何も考えずに突進してきているって感じだ。



「うーん、ちょっと前の自分だったら結構ビビッてしまってたんだろうな」



 よだれを振り撒きながら、小鬼という蔑称そのままに悪鬼のような凶悪な表情がこちらに迫ってくる。


「でも、今の自分はが使い物になることを知ってるからね!」 



 ゴブリンが迫ってくる中、タイミングを見てスキルを発動させる。


「【空中移動】!」

  


 スキルを発動させたエルランは、滑るようにゴブリンの横1mくらいのところを通り抜け、すぐさま方向転換してゴブリンの背後に肉薄する。


「えいっ!」



 スパーーーン!!



 クリティカル特有の、乾いたような破裂音が響き渡る。


 後頭部に致命の一撃を受けたゴブリンは、何が起きたのかわからないまま、後ろを振り返ろうとした途中で光の粒子になって消えていく。


「よっし! 一撃!」



 スライムでの一撃死はこれまで試していたが、ゴブリンに通じるのかは未知であった。


 だが、これでゴブリン相手にも十分通じることが理解できた瞬間だった。


「やっぱ、後ろの死角からの攻撃はどんな魔物相手でもクリティカルになりやすいんだな。ほぼ100パーだ。」




 光の粒子が周囲に溶けて消え去った後には、スライムのとほとんど同じ大きさの魔石と、一本のこん棒が落ちている。


「おお! これがアイテムドロップか!」



 エルランはよろこび勇んでドロップ品のこん棒を拾い上げたのだが、


「くさっ!」


 こん棒は、ゴブリンの手汗がこびりついて熟成された臭いを放っている。


「うーん、これは、どうしようかな。間違いなく、今持っている枝よりは攻撃力はあると思うんだけど……」


 エルランは迷った。


 迷った挙句、放置した。


「ドブさらいの臭いよりきついんだもんな。こんなもの家に持ち帰ったらリオンに嫌われてしまうかも」


 まあ、リオンはいい子なのでそんなことはないのだが。



「まあ、コレ木の枝でも一撃で倒せるわけだし、しばらくはこれでやっていくか」




◇ ◇ ◇ ◇



「とりゃー」


 スパーーーン!


 エルランはその後もゴブリンを狩り続けた。



 相変わらず単体でしか現れないゴブリンに対し、スキル発動&クリティカルの鉄板コンボで討伐数をどんどん伸ばす。


 途中、自分の実力を確かめてみようとスキルを使わずに正面から打ち合ってみたら、倒すまでに8発ほどの打撃が必要であった。


 また、その際にゴブリンからの反撃もくらってしまい、その結果わかったのは「ゴブリンのこん棒は痛い」という事だった。


 骨折までは行かなくとも、まちがいなく青あざになるくらいの威力はある。


 特に、顔面の頬にくらった一撃はとても痛く、おおきく腫れているのが触らなくてもわかる。ぜったい目立つよなこれ。

 

 これは、帰ったらカル姉やリエルに怒られるやつだな……。


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