第7話 冒険者登録の朝

「おはようございまーす!」


 空中浮遊スキルがとってもあんまりなクソスキルなことが判明し、大勢の観衆の前で屈辱にまみれた翌日の朝。


 自分は元気に冒険者ギルドの扉を開ける。



「エ……エル君? お、おはよう~?」


「カル姉ちゃん? あいさつが疑問形だけど?」



「え……だって、エル君、大丈夫なの~?」


「あー昨日の事? たしかにへこんだけど、それがどうしたって感じかな? だって、今日からギルドに登録できるんだぜ! これが張り切らずにいられますかってんだい!」



「そ、そう。良かった~。エル君、さすがね! 偉いわ~!」


「へっへ~ん! ようやく依頼も受けられるんだ! リエルに旨いもの食わせてやりたいしさ!」



「そうね! じゃあ、今日は登録ね~!」


「うん! よろしく頼むね!」





◇ ◇ ◇ ◇


「はい、これで登録は終了~。これがギルドカードだよ。無くさないでね~?」


「ありがとうカル姉ちゃん! よっしゃ! これでようやく依頼を受けられるぜ!」



「あ、そうそう、登録できたといってもエル君はまだランクGだからね~。受けられる依頼は限られているよ? って、知ってるよね。いっつもそこギルドの酒場にいたんだからね~」


「うん。あっ、でも、自分が依頼受けたら酒場の給仕係いなくなっちゃうんだな~。どうしよう?」



「あ、それなら、今日これから孤児院のシスターさん神父の娘がその件で来てくれるわよ~? 孤児院の子をエル君の代わりに働かせてくれってお話みたい~。」


「お、そっか。さすがナタリー姉ちゃんシスター! 自分じゃそこまで気が回らなかったな~。」



「しかたないわよ~。エル君は祝福の儀ーってごめん。その話はしないほうがいいね……~」


「全然かまわないよ! だからカル姉ちゃん、気ぃ遣わないで~! 自分もう気にしてないから!」




「ほう?! あんなに大勢の前で赤っ恥かいて気にしないなんて! さすがユニークさんだなあ!」


「……?!」


 受付のカルロッテと話をしていて気づかなかったが、いつの間にか後ろにはかつての学院の同級生、ベングト・ヘードス衛兵長の息子が腕組みをして並んでいたようだ。


「いい身分だな! 後ろでさんざん待たされている客がいるってのに受付嬢を独り占めとはな! ユニーク持ち様はダブルの雑魚なんて目に入りませんってか?」



 いや、さんざん待たされたってお前今来たばかりじゃねえか。


 昔っから何でかこいつベングトらは自分に絡んでくるんだよなあ。


 自分はこいつらなんかと話もしたくないってのに。


 

「あ、ごめんなさい。じゃあ、カル姉! 依頼見てくるね! また!」



 めんどくせえからこれ以上絡まれる前に逃げちゃえー



「おい! いくらユニークだからって何の役にも立たないスキルで威張ってんじゃねえぞ! 英雄の子だからっていい気になってんじゃねえぞ!」



 おいおい、いつどこで誰が威張ったんだい? 


 あんなクソスキルを得て誰がいい気になれるっていうんだい?



 それに


 なんでそんなこと言うんだ



 両親の事は関係ねえだろうが!



 さすがにブチ切れそうになった。


 だが、ここで怒ってはいけない。


 父も、母も言っていたではないか。



『いいか、エルラン。本当に強い男っていうのは、戦いが強いことじゃない。理不尽にも耐え忍び、怒りを抑え、何事にも冷静に対処できる心の強い者こそが真の強者なんだ。だから、つまらないことで怒りを振り撒いたり暴力に訴えるような恥ずかしい真似は慎めよ』


『そうよ、エルラン。あなたはこの子リエルのお兄ちゃんなんだから。いい男はね、力の使いどころを見極めるものよ。この子の為にも、将来のお嫁さんの為にもつまらないことで力を使ったりしないでね?』



 よし。


 おちついた。



「ベングト? ほんとごめんな? ベングトも早く登録してクエスト受けたかったんだよな? それなのに自分が長々とカル姉と話してしまって時間使わせて悪かった。

決していい気になっている訳じゃない。この通りだ。」



 自分はベングドに90度頭を下げる。



「ちょっと? エル君~?」


 受付嬢のカルロッテが軽々しく頭を下げたエルランをたしなめようと立ち上がると、



「あら? ちょっと? 来た早々どうしてユニーク持ち様が頭なんか下げているのかしら? ずいぶんと軽い頭なのねぇ? 英雄のご子息様なんだからもっとふんぞり返っていればいいのに?」


「おお、アーダ代官の娘じゃねえか。おめえも登録か?」



「ええ。という事はベングトあなたもなの? っていうか、何で英雄のご子息様に頭なんか下げさせてるの? 街の人気者さんをあんまりいじめたらあなたが嫌われるわよ?」


「そんなんじゃねえよ! ただこいつがいい気になってるからイラついただけだ!」



「あらまあ、怖い怖い。でも、いい気になってるってのは同感かもね? エルランったら同級生の私たちにも飄々と慇懃無礼にしてるんだもんね。きっと心の中で私たちダブルなんかと話する価値なんかないと思っているのよ?」



 あちゃー、もう一人増えやがった。


 こいつ、アーダ・エクストレームも昔っから何かとウザがらみしてくる奴なんだよな。


 めんどくせえ。どうにかこの場から――


 と、エルランが逃走を考えていたその時、



「こんにちは。教会の孤児院から参りました。」



 教会の神父の娘であるシスター。


 ナタリー・ステニウスがギルドに来訪した。




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