第17話「二級冒険者って強いの?」
戦闘の授業がはじまったのはいいんだが、まさか男女合同とはね。
と思ったけど、ゲームでも男女おかまいなしに戦闘していたから、おかしくはないのか。
日本で言う体操服みたいな動きやすい服装に着替えてやるらしい。
「おお、女子のスパッツ」
と感動している男子は女子たちから冷ややかな視線を浴びせられていた。
男の俺でも引く気味悪さだった。
同類あつかいされてはたまらないので、可能なかぎり距離をとっておく。
三十代のヒゲをはやした男性教官と二十代前半の若い男がいっしょにやってくる。
「俺は戦闘担当のグレゴリー。こっちは冒険者のミゴ・トカマセだ」
冒険者? そんな職業なかったけどなぁ。
こっちの世界では存在してるんだと親の教育で学んだ。
ゲームと現実の違いってやつだろうか。
「ひとりじゃ面倒見切れないからな。実戦経験豊富な冒険者にも来てもらっているんだ」
王立学園なら報酬を払えるだろうな、とグレゴリー教官の説明に納得する。
「ぼくはミゴ。二級冒険者さ。【ヴィオレキャトル】とも戦ったことがあるんだ」
と言ってさっとサラサラした髪をかきあげると、一部の女子たちがきゃーっと黄色い声をあげた。
反対に男子は面白くなさそうに舌打ちする。
女子にモテるイケメンが反感を買うのは、この世界でも変わらないようだ。
ところで二級冒険者っていったいどれくらい強いんだろう?
ネームド冒険者が強いのは記憶にあるんだけど……。
【ヴィオレキャトル】と戦えるなら、いまの俺と同じくらい?
「二級冒険者って強いの?」
と名前も知らない右隣のメガネ男子に聞いてみる。
「君、知らないの? ……ああ、貴族だからか」
都合のいいことに冒険者になじみない貴族は珍しくない。
ソルム家も知識として持ってる程度だ。
知らなくてもふしぎじゃないとメガネ男子も思ったらしく、
「二級冒険者となれば対魔物の熟練者だ。正直、そこらの騎士より頼りになると思うよ」
とミゴへのあこがれが伝わってくる口調で教えてくれる。
ちっと舌打ちした前の列の男子はおそらく貴族だ。
身にまとう雰囲気で何となく違いがわかる。
「騎士はほかにやることが多いだけだ。冒険者なんて聞こえはいいけど、しょせんははみ出し者だろ」
見下す感情が伝わってくる言葉だった。
まあ彼の言うことは間違ってない。
やってるのは害獣駆除に近いしね。
「おい、そこの坊や。言ってくれるじゃないか」
聞いていたらしいミゴが、はみ出し者呼ばわりした男子に絡む。
「ああっ? 事実だろ?」
男子は一瞬だけひるんだものの、すぐにミゴをにらみつける。
貴族社会は舐められたら負け、みたいな文化があるせいだろう。
黄色い声をあげていた女子たちがハラハラした視線を向けている。
「ああ、坊やは貴族なのか。大人ならともかく、子どもとなるとおきれいな部屋から出たこともないだろうね」
温室育ちの世間知らず、とミゴは揶揄する。
こんな対立イベントがあるのか。
いや、ここはほかの生徒を見習って、いっしょにビビっておかないと。
何の力もないソルム家の息子が修羅場で落ち着いてるのはおかしいんだから。
ミゴが一瞬こっちを見て、震えてる俺を見て鼻で笑う。
よしよし、見事にだまされたようだ。
「教官、よかったら彼に稽古をつけてあげたいのですが」
ミゴのほうはまだ冷静だったらしく、教官に許可を求めている。
「いいだろう。力量もわからん相手の指導に従いたくないというはねっ返りは、どこにでもいるものだ」
グレゴリー教官はため息をついて許可を出す。
通過儀礼みたいなものなのかな?
「坊や。名前は?」
「レッグ。レッグ・ブランだ」
と男子はミゴに名乗ったけど、俺は驚きを隠すのに苦労する。
レッグってゲームで出てきてすぐにやられる悪役じゃないか。
ルークと違って巻き添えを食らう手下ポジションよりはマシかもしれないが、ちょい役に違いはない。
「じゃあかかっておいで。冒険者の高みを見せてあげよう」
「がっかりさせんなよ」
引っ込みがつかなくなったふたりは戦う。
そして数回打ち合ってミゴがレッグの剣を飛ばす。
「君もなかなか悪くなかったよ」
「くそっ」
レッグが悔しそうに地面を拳で殴りつける。
「俺は仲間と力を合わせて【ヴィオレキャトル】を撃退したことがある。経験の差は君が思ってるより大きいんだよ」
とミゴは上から目線で語りかけているが、仲間と撃退?
ヴィオレキャトルを?
俺は疑問が顔に出ないように必死でとりつくろう。
黒蛇のアジトで戦ったかぎり、全然強くなかったけど。
あとでたしかめてみよう。
そんな風に思っていたせいで授業は全然身に入らない。
レッグはそのあと、大人しく授業に参加していた。
ほかの生徒も冒険者は強いと思ったらしく、素直にミゴの言葉に耳をかたむけている。
俺はと言うと、目立たないようにへっぴり腰で授業をやりすごす。
寮に戻るとウーノが堂々と出現したので聞いてみる。
「【ヴィオレキャトル】を仲間と撃退って、あの冒険者はそんなに強くないのかな?」
ウーノは俺の近くにいたんだから判断はできるはず。
「うむ。お前のほうが強いだろうな」
即答されてしまった。
やっぱりそうなのかな。
「魔物使いに操られる魔物は弱体化するとか?」
ゲームにはなかった設定だけど、すでにそんなパターンがあるからね。
「そんなはずがない。むしろ通常の魔物より手ごわくなるぞ」
それが魔物使いの支援スキルだとウーノは語る。
となると、冒険者と言ってもネームド以外は大して強くないのかも。
メタ的に考えるなら強い冒険者がゴロゴロいると、主人公の出番がなくなってしまうので、おかしくはないのか。
「今日はどうするのだ?」
「まず魔物たちの様子を見たい。なじめないような考えなきゃな」
組織のリーダーは俺なので判断には責任を持ちたいし、ミスした場合は早めに次を考えるのが筋だろう。
「ふむ。では連れて行ってやろう」
とウーノに庭へと連れて行ってもらった。
「ワンワン!」
最初に駆け寄ってきたのは犬型の魔物である。
俺を見上げながら舌を出して尻尾をふっていた。
「あれ、なつかれてるのか?」
なつかれるようなことを何かした覚えはないんだけど。
「誰がボスで命の恩人なのか、理解できるだけの知能はあるのだ」
ほかの魔物を引き連れて現れたクワトロが言う。
「すごいな。さすが魔物だ」
普通の犬よりも頭がいいんじゃないだろうか?
と感心しているとヴィオレキャトルと目が合う。
「ちょうどいい。もう一回戦ってみないか?」
声をかけるとビクッとデカい体を震わせ、クワトロの背中に隠れる。
「何か悪いことをしたか? だそうだ」
「いや、実はさ」
今日あったことを説明した。
「魔物使いに強化されたこいつをひとりで圧倒したお前が、その冒険者とやらと互角のわけがない。弱い者いじめになってしまうぞ」
クワトロに呆れられてしまう。
「クワトロに支援されてもか?」
「吾輩の支援スキルは強くないからな。意味のない実験になるだろうよ」
戦いを挑まないほうがいい空気だからあきらめよう。
「修行しながらそろそろ何か新商品についてやりたいな」
雰囲気を変えるために言うと、トーレがにゅっと現れる。
「お? お手伝いするよ。何をやるの?」
「炭酸水とかどうかなと思うんだけどなぁ」
彼女に問われて俺は希望を口にした。
炭酸水は1800年代には飲まれていたらしい、と誰からか聞いたことがある。
「たんさんすい?」
首をかしげるトーレにうなずきながら、ウーノとクワトロに聞く。
「温泉探しってどうなってる?」
「ああ。ヒューマンが好んで入る湯だな。いくつか見つけておいたぞ」
と答えが返ってくる。
ゲームでもワードは出てたので存在してると思ったよ。
「じゃあウーノとトーレと俺の三人で行ってみないか?」
「ああ。お前がいないとはじまらないからな」
ウーノは当然だとうなずくが、
「わーい。新しい実験だ!」
トーレはマッドサイエンティストみたいな喜び方をする。
「では順番にめぐっていくぞ?」
「うん。よろしく」
ウーノがいるかぎり時間と移動の問題をしなくてもいい。
今日中にすべてのポイントを回れそうだな。
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