第22話「情報を集めよう」
俺は寮には戻らず、ウーノの力で商会に顔を出す。
カエデさんからあずかったペンダントを応対してくれた夫人と旦那に見せてみる。
「そ、その銀月のペンダントは、神峰国の巫女しか持てないものでは?」
やはり彼らは知っていたのか、驚愕された。
「巫女と会って、商品の販売許可をもらいました」
さすがに地神龍の存在は話せないけど、ほかの話せる部分は正直に話す。
「巫女と会うだけではなく、あれだけ出入りの管理が厳しい神峰国から許可をとるなんて、恐れ入りました」
旦那のほうが帽子を脱ぐ仕草をする。
「信じられません。あの排他的な国が」
と夫人も衝撃から立ち直れない様子だった。
俺が思ってたよりも難関なのかもしれない。
地神龍と簡易契約をかわしたなんて言える空気じゃないぞ。
「ナビア商会の商品なら受け入れてくれると思うので、販売先として考えていただいてもよいですか?」
「も、もちろんです。顧客を開拓していただくなんて、報酬を上乗せしなければなりませんな」
これはラッキーかも。
旦那は交渉する前に報酬アップを言ってくれた。
「神峰国となると大口顧客になる可能性が見込めますので、売り上げに応じた成功報酬でもよいでしょうか? そちらのほうがルークさまも稼げるかと」
という提案にうなずく。
インセンティブ契約みたいなものがこの世界にも存在してるんだなと感心した。
「裏切るなよ?」
とウーノがプレッシャーをかけると、夫婦は顔を青くしながら何度も首を縦に振る。
「おどすなよ」
せっかくいい関係なんだからと俺がたしなめると、
「お前は甘いな。ヒューマンはすぐに調子に乗る生き物だ。御しやすいと思われないほうがいいぞ?」
ウーノから反対されてしまう。
「心配してくれたのはわかったけど、俺が言いたいことは違うよ」
「うん?」
怪訝そうな彼女に、俺は内心を明かす。
「お前とサブリナの存在を知ってる人たちは、簡単に裏切らないってことさ」
力がないと思われたらたしかに舐められる。
だけど、ウーノとトーレがこっちの陣営だと知っていて舐めるほど、この人たちは愚かじゃない。
そんなバカが大商会をいい感じに運営し続けるなんてできるわけがない。
「ふん。まあお前を裏切るなら、わらわが見せしめにしてやるのだが」
ウーノの言葉には不穏なものがたっぷりとふくまれていて、商会長夫婦の心胆は凍りつきそうになっている。
「信じてるから大丈夫です」
と俺が言うとようやく安堵してくれた。
俺のためにウーノはきらわれ役を買って出てくれたんだろう。
商会から寮に戻って、俺はウーノに話しかけた。
「あの【神鋼衆】ってかなり強そうだったね」
あとカエデさんもトーレ並みに強いかもしれない。
ゲームに出てこない存在でも強い人はいるのだろう。
「ふん。お前ならそろそろあいつらにも勝てるぞ?」
「えっ、そうなんだ?」
ウーノの言葉に目をみはる。
たしかに二級冒険者相当の実力はあるっぽいんだけど。
いや、彼女は地神龍への対抗意識がありそうだから、割り引いて考えよう。
「本当なら手合わせしたかったけど、あれだけかしこまってるとな」
とてもまともに戦ってもらえるとは思えない。
やりにくい対戦は避けたほうがいいと考えて何も言わなかったのだ。
「明日からも模擬戦闘だけど、適当にやるか」
落第しないようにだけ気をつけて、平和な学園生活を送ろう。
「おい、お前、ソルム子爵家のガキだろ!」
次の日の朝、いきなり上級生に絡まれてしまった。
「そうですが、どちら様でしょう?」
「俺はコアーク伯爵家のモンドだ! 顔くらい知っておけ、使えないやつめ!」
聞き返したら怒鳴られていきなり平手打ちを食らう。
動きは遅く全然痛くないけど、平然としてたらおかしい。
ダメージを受けたふりをしてその場に崩れ落ちながら考える。
コアーク伯爵はグリード侯爵の派閥だったかな。
爵位が違うことをのぞけば、ソルム家と同様、侯爵の巻き添えを食らって破滅する悪党だ。
ゲームにすら登場しなかったキャラだけど、この世界ではウチよりも格上として存在している。
……ほかにも出てきそうだな、こういうパターン。
「すみません、なにしろ田舎の弱小貴族なので」
と謝る。
ウソは全然ついてない。
ウチは上位の男爵家には爵位以外全部負けてるような家だった。
「ちっ……使えないザコが。用件だけ伝える。上納金だ。上納金を持ってこい」
これってカツアゲじゃないか?
と思いながら問いかける。
「ど、どうして伯爵家に上納金を?」
「バカが!」
モンドは怒鳴って俺の腹に蹴りを入れた。
全然痛くないので、ダメージを受けたふりをするのがけっこう難しい。
演技力も鍛えたほうがいいんじゃないだろうか?
「もちろんグリード侯爵家に渡す分だよ。お前ら使えないザコ貴族なんて、金を差し出す以外に役に立たないだろ!」
こういう子悪党が本当に侯爵家に渡すか疑問だな。
「なあ、あれってコアークじゃね?」
「今度は後輩に絡んでるのかよ」
「最低だね」
いつの間にか人が増えていて、会話が聞こえてくる。
とりあえずこのモンドがきらわれてるのは伝わってきた。
「ちっ……覚えてろよ」
意味がよくわかんない捨て台詞を残して、逃げるようにモンドは立ち去る。
「あいつ呪い殺してもいいか?」
俺にしか聞こえないように、ウーノが怒りのこもった問いを放つ。
誰もこっちを見てないことを確認して、
「ダメ」
と制止する。
「なぜだ」
「ここであいつが呪い殺されたら、俺が疑われるだろ」
すくなくとも容疑者にはなってしまうだろう。
本人が弱くても誰かに依頼したとか、難癖をつけられる余地はある。
「……疑われないように復讐すればいいではないか」
「それならアリだな」
俺は復讐そのものを止めるつもりはない。
絡まれて、殴られて蹴られて腹を立たないほど、立派な人格者じゃないんだ。
「仕返しするならバレないようにだ」
何回も絡まれてもうっとうしいので、早めの対処を考えてみよう。
「ところでコアーク伯爵の情報が欲しいんだけど」
知識にない相手だから、単に攻撃するのはよしたほうがいい。
「クワトロのやつに集めさせよう」
とウーノは即答する。
彼女は俺のそばから離れるつもりがないらしいので、頼めるのはあいつか。
「コルムくん、校門の近くで絡まれてなかった?」
教室で声をかけてきたのはメガネ男子だった。
「ああ。同じ寄り親を持つ家の先輩だったよ。初対面だけど」
ゲームで出てこなかった情報を誰が持ってるかわかんないので、クラス内で孤立するのもあまりよくない、と対応する。
「ああ、家同士のつき合いってわけわかんないよね。平民でも大変だから、貴族さまはもっときついんだろうなあ」
共感を得られたようで何よりだ。
俺は両親にパーティーに連れて行ってもらったことがないので、知ってるほうがおかしいんだよな。
たぶん、両親に意地悪をされてるんじゃなくて、両親が寄り親から呼ばれない立ち位置なんだろうけど。
昼休み学食に行ったらモンドにばったり遭遇する。
「ちょうどいいところに来たな。俺のメシ代をよこせ」
「はい? どうしてですか?」
いきなりの要求に面食らってると、腹にいっぱつパンチが飛んできた。
「気がきかねークズだな。上のもんのために金を出すのは、下っ端の甲斐性だろうが」
そんなルール聞いたことないんだよなぁ。
痛くないのにうめかなくのって、意外と大変だなと思う。
「出せよ、カス、ノロマ」
モンドは暴言を吐きながら催促してくる。
こいつじゃ気づけないだろうけど、ウーノが殺意を高めてるんだよなぁ。
無害ならグリード侯爵の派閥の情報を集めるために、しばらく泳がしておこうと思ってたんだけど。
「お金ないんです。ごめんなさい」
と情けない声を出す。
「はぁ? 学食に来ておいてそれは通らねーだろ。お前の分を俺に差し出せや」
と言ってモンドは蹴りを入れてくる。
「お前のようなザコクズが生きてられんのは、侯爵さまのおかげだろ。俺らがその気になれば、ザコ子爵なんてつぶせるんだぞ? わかってねーのか、このクズ」
さらに罵りながら蹴りを入れてきた。
何でこいつ、自分の破滅フラグを乱立させていくの……?
情報を得るのはべつにあんたじゃなくてもいいんだけど?
ウーノをなだめ続けるのってけっこう大変だしなぁ。
「おい、そこ! 下級生に何をやってる!」
教師が来たことで、モンドはそそくさと逃げて行った。
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