第16話「地神龍の教え」

「というわけできみを招待しよう。ボクの世界【グランド・シェル】に」


 シンクエは言う。

 

 グランドシェルって設定に名前だけあったやつだな。

 何らかの理由で削除されたのだろうと話題になってた。


 次の瞬間、寮の部屋じゃなくて黒く光る壁に囲まれた部屋になっている。

 広さはたぶん学校の教室くらい?


「あれ、ウーノは?」


「あいつは入れたくないんだよ。お互いさまだろうけど」


 とシンクエは顔をしかめながら言う。

 そこは同じなのか……。

 

「ここに招待したのはきみが初めてだよ。誰でもいいわけじゃないから」


「そうなんだろうな」


 何しろ地神龍さまのプライベート空間だもんなとうなずく。

 ほかの三神龍すら来たことがないのはすこし意外だったけど。

 

「ではさっそくはじめるとしようか。ボクと違って、ヒューマンの時間は有限で貴重だからね」


「話が早いくて助かる」


 と応じるとシンクエはにやりと笑う。


「まずは手本からだね。【神堅殻】」


 と彼女は言って魔力を全身にまとった。

 うっすらと金色のオーラを放っているようにも見える。


「次には【神硬鱗】」


 魔力の質と形状が変化したものの、俺には違いがよくわかんない。

 

「簡単にいうと物理衝撃に強いのが前者、魔法攻撃に耐えるのが後者だね」


「なるほど」


 物理と魔法では防御手段が違うというのは、感覚的に理解できる。


 魔力を使った攻撃は、どう考えても物理法則や自然現象を無視したことを実現させるからだ。


「ちなみにボクの攻撃は両方の効果を混ぜた、耐性貫通攻撃だ。邪精霊も同じことはできるだろう」


「そうなんだ」


 邪精霊が「耐性貫通攻撃」を使えるのは情報として知っている。


 それに対抗するために必要なのが三神龍に与えられる神器と、四つのアイテムという設定だったからだ。


 三神龍も同じことができるというのは道理かな。


「いまのきみでは耐性貫通に関して覚えるのはまだ早い。教えたふたつを使いこなせるようになってからしたほうがいい」


「了解」


 まあ基礎ができてないのに発展や応用は無理だろうし仕方ないだろう。

 あと、耐性貫通攻撃を使ってる強敵はほとんどいない。


 原作には登場しなかった強敵がいるかもしれないけど。


「きみが望めばここで修行できるように仕組みを変えておこう」


「それは助かる」


 シンクエの申し出に喜ぶと、頬にそっとキスをされる。


「これできみとボクの間に簡易契約は成立した」


 と笑いかけられた。

 契約ってそんな簡単にできるものなのか?

 

 なんて思ったけどウーノも軽々とやっていたっけ。

 彼女たちほどの高等存在ならできてしまうのかな。


「きみがどういう修行をしているかはあえて聞かないけど、バランスよくやるんだよ? ボクの教えるものは鍛えれば攻撃に応用がきくからね」


 という彼女の言葉にうなずく。

 同時に「地神砕流」という名前で呼ばれる技のことを思い出す。

 

「わかった。じゃあウーノが襲撃してくる前に一回戻してくれないかな?」


 と頼んでみる。


「たしかに。あいつ、きみと契約して我慢を覚えたらしいね」

 

 シンクエはくくっと笑い、からかうように俺を見上げた。

 

「ボクも仲間になったんだからいつでも会えるし、今日のところは解放してあげよう」


 と言われたとき、俺を囲むのは花畑に戻っている。


「ルーク!」


 ウーノがすぐに寄ってきて、俺の肩をぺたぺた触った。


「あのトカゲに変なことはされてないか? 上書きしておこうか?」


 「上書き」はシンクエも言ってたなぁ。

 原作にはなかったと思うけど、そういう行為もできるんだね。


「大丈夫だと思うけど、目で見てもらうほうが早いかな」


 彼女のシンクエに対する感情を思えば、言葉だけじゃあ納得してくれないと判断する。


 教わった【神堅殻】と【神硬鱗】を交互に見せてみた。


「なるほど。あいつの得意戦法か。でも守ってるだけじゃ勝てないぞ」


 ウーノは凝視しながらやがて注文をつけてくる。


「守ってる間にウーノが敵を倒してくれたらいいかなと思って」


 べつに隠すことじゃないのでストレートに話した。


「何だ、わらわ頼みだったのか? 仕方ないやつだな」


 言葉だけなら呆れたと思うところだけど、ウーノの表情はめちゃくちゃうれしそうである。


「自分の身を自分で守れるように、と思うんだ」


「賛成。敵を倒すのはあたしとドゥーエ、ウーノだけでいいんだし」


 とトーレが右手をびしっと挙げた。


「ルークさまはボスなので、安全な場所にいて欲しいです」


 とドゥーエは遠慮がちに自分の意見を言う。


「言ってることはわかるんだけど」


 ただ部下に丸投げをしてるだけのやつに従おうなんて、思う人はどれくらいいるだろう?


 すくなくとも俺なら従わないと思う。

 

「上に立つ者が前に出ないとついてきてくれないよね」


 クワトロはウーノが連れてきたけど、それでも説得したのは俺だ。

 ほかのメンバーだって俺と知り合って従うと決めてくれたんだから。


「一理あるな」

 

 賛成してくれたのはウーノで、うなずいたのがクワトロだった。


「ウーノ?」


 ドゥーエとトーレがすがるような視線をウーノに向ける。


「ルークを守るため、ルークの役に立つための人材集めだ。ルークが信用できなければ意味はないだろう?」


「それはそうだけど」


 ドゥーエとトーレはしぶしぶ引き下がった。

 ドゥーエはともかくトーレまで同じ考えなのは、けっこう意外だったね。


「まあ心配されないためにもっと強くなろうと思う」


 気まずい雰囲気になる前に強引に話をもっていく。


「ドゥーエとトーレも引き続きよろしく」


「はい」


「了解」


 ふたりは気を取り直して微笑んだ。



 次の日から学校の授業がはじまったが、教育を受けていたおかげで普通についていける。



 日が経って話をする同じクラスの仲間はできた。


 同じ貧乏子爵家のカネガ、騎士爵家のオサである。

 どっちの名前もゲームには出てこなかったので、モブなんだろう。


 寄り親が悪役侯爵かそれ以外ということをのぞけば、ウチと変わらないポジションだと思われる。


 俺たちは成績も似たようなものということで仲良くなり、いっしょくに学食で昼を食べるようになった。


「お、あれはリリアーナさまだ」


「隣にいるのはユリアさまだな」


 とふたりはうっとりと女子生徒を見る。

 リリアーナは二年Aクラスの公爵令嬢、ユリアは一年Aクラスの王女。


 ふたりとも実はサブヒロイン的立ち位置で、個別エンドは存在しない。

 

「四大美姫のふたりを見れてラッキーだな」

 

 とカネガはうっとりしている。

 男のそんな表情を見ても正直気味が悪い。

 

 四大? あとふたりは誰だろう?

 と思ったけど知りたいわけじゃないので、ハムを咀嚼する。


「お、あれはノーラ嬢じゃないか」


 うん? オサの声に視線を向けると、さっきのふたりがノーラに話しかけていた。


 ノーラのほうはと言うと落ち着いた様子で対応している。

 まだ子どもかと思っていたけど、大商人の娘としての経験値があるのかな。


「あのふたりが女子とは言え、ほかのクラスの平民に話しかけるなんて珍しいんじゃないか」


「まあナビア商会の子だしな」


 ひそひそ話があちらこちらから生まれる。 


 聞き耳を立てることで何となく学園内の勢力図、立ち位置が推測できるようになってきた。


 女子の派閥は関係ないと言いたいところだが、ナビア商会の顧客になるなら間接的に俺のパトロンになってくれる可能性がある。


 男子のほうはと言うと、女子と比べたらまだわかりやすい。


 複数の王子にそれぞれ派閥があるほか、どちらにも属さないウチの寄り親・グリード侯爵みたいな例もある。


 王子の派閥に所属していれば、ゲームでもあんな簡単につぶされなかったんじゃないかなと思う。


 侯爵の性格的に難しそうかな。

 ノーラとは目が合ったけど、彼女はすぐにそらしてくれる。


 あんまり目立ちたくないってことは伝えてあるから、配慮してくれたのだろう。

 俺の目標はあくまでも破滅回避だ。


 最近、何かイレギュラーな展開が続いた気がするけど、とりあえず魔王が倒されるまでは生き残りたい。


 グリード侯爵の子息が入学していれば、立場上あいさつしなきゃいけないけど、現在誰もいないからのんびりできる。


 目立たないようにコネだけつくるってのは難しいんだろうしなぁ。


 勉強のほうは普通にやっても大丈夫だろうけど、戦闘のほうはちょっと注意したほうがいいかもな。


 実技授業がはじまればみんなの強さがわかってくるので、周囲に合わせるとしよう。


 誰かに期待されてるわけじゃないので、落第にだけ気をつけていればいい。

 邪精霊と戦う四つのアイテムの捜索はできたらいいな、程度である。

 

 地神龍があそこまで協力的なら、必死にならなくてもよさそうなんだよな……。

 保険をかけるためにもやらないという選択肢はないけど。


 

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