第13話「組織の名をあげよう」
「さてと行くか」
「うん」
「はーい」
俺、ドゥーエ、トーレの三人は黒いマスクで顔を隠す。
いまからは陰の組織「ゾディアック」のメンバーとして動く時間だ。
人ではそこそこ増えたが、先を考えるともっと欲しい。
「あとは知名度もだな」
誰も知らない組織が後ろ盾ですって言っても、鼻で笑われるだけだろう。
ウーノとクワトロの正体を明かさずに、相手がビビるような組織になってくれないと。
「今日は【黒蛇】という組織をつぶしにいこう」
俺はリーダーとしての決断を話す。
【黒蛇】はウチも所属する西部地方に巣食う犯罪組織だ。
違法な人身売買、禁止されてる動物、魔獣の売買、薬物の取り扱いをやっているらしい。
彼らは犯罪者だが、ソルム子爵家の寄り親、グリード侯爵の手下たちだった。
ゲームで悪の侯爵と呼ばれたのも道理である。
彼らをつぶしてグリード侯爵が稼ぐはずだった利益をいただく。
グリード侯爵の力が弱くなれば、派閥の力も弱くなる。
主人公に狙われることなく瓦解するか、ほかの派閥に敗れることを期待したい。
ウーノの魔法で【黒蛇】の本拠地までひとっ飛びして、いきなり襲いかかる。
「な、何だてめえら!」
剣を抜きながらすごむ見張りはさくっとドゥーエが切り捨てた。
「俺たちは【ゾディアック】だ。お前たちのすべてをいただこう」
俺は堂々と宣言する。
トーレとクワトロの事前調査で、財産をしまってる金庫の場所も特定済み。
しかも最近の稼ぎを映したばかりというおまけつき。
「【抉り刻む猛風】」
トーレが風の魔法で鉄の柵を切り刻んで破壊する。
音をわざと立てたんだろう。
わらわらと組織の構成員が集まってくる。
「たった三人? 舐めやがって!」
「生かして帰すな!」
彼らの目にはウーノの姿は見えてない。
彼女はいまごろ金庫の前で俺たちを待っているはずだ。
「殺せ! 見せしめだ!」
リーダー格っぽい男が号令をかける。
トーレは戦士としてのスキルはゼロなので後ろに下がってもらい、俺とドゥーエが前に出た。
俺たちは競い合うように敵を斬っていく。
外道しかいない組織だとわかっているので遠慮も容赦もいらない。
「な、何だこいつら!? ハチャメチャにつええ!?」
構成員全員がまともに切り結ぶこともできず、一方的に倒されていく様子に、後ろにいた六人の腰が引ける。
「逃がさないよ。【掴む剛腕】」
トーレが土の魔法を使い、六人の足元から白い土の腕が出現して、全員の両足をしっかり拘束した。
とどめを刺すのは俺とドゥーエの仕事である。
「情報によると地下だったね」
とトーレが言う。
見た目は平屋だけど、地下に魔獣や奴隷を閉じ込めているという話だったな。
階段を下りていくと、とたんにグルルルといううなり声とともに狼型の魔物、紫の皮膚と四つの腕を持つ大男が現れる。
「魔物使いかな」
魔獣たちを大人しくさせるために必要な存在で、【黒蛇】の幹部にいるらしい。
「俺がいると知っていて攻めてきたのか? 愚か者どもめ」
魔物使いは勝ち誇った顔で指示を出す。
「やれ!」
狼型の魔物はドゥーエ、四本腕の大男は俺に襲い掛かってきた。
大男の四つの腕のパンチを俺は片手で払っていく。
見かけに反して意外とパワーがないな。
大男のみならず、魔物使いもぎょっとしている。
「バ、バカな! 【ヴィオレキャトル】の攻撃を片手ではじいた!?」
ああ、こいつ【ヴィオレキャトル】だったんだ。
こっちの世界で肉眼で見るとこんな風貌になるのか。
たしかにウーノもちょっと違っている。
【ヴィオレキャトル】はそこそこ強いけど、そこそこ止まり。
つまり俺はそこそこ程度には強くなれたって考えていいだろう。
「ドゥーエ、魔物はなるべく殺すなよ」
狼型の魔物の攻撃を余裕でかわしてる仲間に声をかける。
魔物たちは操られているだけで罪はない。
「了解、ボス」
ノリのいい返事で、まだ余裕があるとうかがえる。
彼女が狼型の魔物を気絶させたのをちらっと見て、俺もヴィオレキャトルを気絶させた。
「チクショウ、お前ら何なんだ!」
「【ゾディアック】さ」
わめく組織名で答えて魔物使いを斬り倒す。
するといままで静かだった檻の中で、魔物たちが一気に騒ぎ出した。
魔物使いの魔物支配スキルってすごいんだな。
檻に閉じ込められてるならあと回しにして、ボスと金庫を探すためにさらに地下の階段を下りる。
立ち向かってくる組織の構成員を斬り倒して行き、ひときわ頑丈そうなドアが出現した。
魔力を込めた蹴りで破壊すると、中には立派な書斎があって三人の男たちが待ちかまえている。
金庫の前ではウーノがいるのでこの部屋が当たりか。
「命知らずのバカどもめ。【黒蛇】のボスはのローゼスだと知らんのか?」
赤い派手な服を着たスキンヘッドの大男が不愉快そうに立ち上がる。
「知らないなぁ」
俺は正直に答えた。
黒蛇自体が原作では尺を割かれることなく壊滅する組織である。
ローゼスなんて悪役の名前なんて聞いたことがない。
それにウーノとクワトロに鍛えられたセンサーが、こいつは俺より弱いと告げている。
「ガキが。ちょっと力をつけて覆面かぶれば、イキれると思ったか?」
俺がまだ子どもだとバレてる……声色を変えるという発想がなかったのは反省しようか。
「うん」
うなずいて見せると、こめかみがひくひくとけいれんする。
「舐めやがって!」
ローゼスが猛然と突っ込んできたのでカウンターを狙う。
「【荒れ刻む太刀風】」
それより先にトーレの風の魔法がローゼスをズタズタに切り刻み、さらに後ろに吹き飛ばす。
「がはっ」
苦悶の声をあげたローゼスの体は壁にめり込んでしまう。
「敵のボスは俺が倒したかった」
おいしいところを持っていたトーレについ抗議する。
「ごめん、出番すくなかったからつい」
トーレは悪びれずてへっと笑う。
あざとくて可愛いんだろうけど、覆面してるから表情は見えない。
「わぁあああ!」
「ひいい、ボスが瞬殺されたぁ!!」
残りふたりの男は戦意を喪失して、隠し通路から逃げ出す。
「あいつらは見逃してもいいだろう」
「え、いいの?」
ドゥーエとトーレが首をかしげる。
「ああ。【ゾディアック】という組織の名前を広めて欲しいからな」
あいつらは誰かに俺たちのことをしゃべるだろう。
信じるやつがどれくらい現れるかまでは読めないけど、何回か同じことをくり返せばいやでも名前は広がっていく。
「ウーノ、頼む」
「うむ」
厳重にカギがかけられた堅牢な金庫もウーノの前では紙切れと同じだ。
あっけなく壊されて中身を取り出される。
「金塊に宝石に薬物か。薬物は燃やしてくれ」
「はーい。【踊り燃える遊火】」
トーレが薬物はすべて燃やしてしまう。
「あとは檻に入れられてる魔物たちを解放したいけど、クワトロを呼んだほうがいいな?」
とウーノに相談する。
人を襲って害をなす魔物は敵だけど、人に利用されてるだけなら話は違う。
「うむ。あやつこそ最強の魔物使いだからな。あやつを呼んでいれば魔物や魔獣と戦わずにすんだだろう」
「マジで?」
クワトロにそんな設定があったのか。
「わたしたちが実戦経験積めてよかったと思う、ボス」
とドゥーエは俺の肩を持ってくれた。
「ああ、そうだな」
ウーノにクワトロを呼び出してもらって魔物たちが囚われた檻に戻る。
彼女たちがいるおかげか、魔物たちは静まり返っていた。
「うん?」
近づいたとたん、ウーノが怪訝そうに顔をしかめた。
「どうかしたのか?」
「全員とまれ」
みんながとまると彼女は俺をかばうように前に出る。
「わらわはごまかせぬぞ。出て来い」
「自分でも信じてなかったんだけど、まさかまさか、本当にこんな事態になってるなんてねえ」
檻の隙間から小さな亀が転がるように出てきた。
アリ並みのサイズなのにも関わらず、クワトロに匹敵するパワーを秘めてるとセンサーが告げている。
「久しぶりというべきか? 地神龍」
とウーノは話しかけた。
地神龍!?
この世界を創造した神の化身であり、邪精霊を封印した三神龍の一画。
主人公は三神龍の神器を揃えて初めて邪精霊と戦うことができる。
という設定のみが存在するキャラクターだった。
「地神龍さま?」
とトーレの声がおびえるのもわかる。
「まさかまさか、最凶最悪の化身と言われたきみの封印が解かれて、しかもヒューマンと仲良くしてるとはねえ」
アリ並みだったサイズがみるみるうちに中型犬並みになった。
地神龍の瞳が俺を射抜く。
「つながり的にきみだよね? こいつの封印を解いてしかも契約しちゃってるよね?
まさかまさか、信じたくなかったから待ち伏せしてたんだけどね?」
地神龍のプレッシャーが増大していき、魔物たちは全員失神してしまう。
それどころかクワトロさえ圧倒されているようだ。
創造主の化身であり、文字通り神のごとき強さを誇る、というのは絶対に設定倒れじゃない。
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