第7話「そうだ、金を稼ごう」

 貧乏は大敵である。


 現状は四人しかいないし、食費が必要なのはドゥーエだけだからまだマシだけど、人手を増やすなら資金が必要だ。


「というわけで資金調達手段をいろいろと考えていかないと。それも国から目をつけられないようなやつ」


 と俺が言うとクワトロが首をひねる。


「吾輩とこいつがいるなら、国くらいどうにでもなるぞ?」


「たしかに何とかなりそうだけど、あくまでも最終手段にしたいんだよ」


 俺は苦笑して答えた。

 警戒してるのは国じゃなくて主人公だからである。


 彼らには言えないけど。


「ふむ。まあ陰の組織というコンセプトで、いきなり国に戦いを吹っ掛けるのは違うというのは理解できる」


 クワトロはあっさりと引き下がってくれたけど、陰の組織に関しては俺よりもこだわりがありそうな気がする。


 まあ頼もしい味方だと解釈しておこう。


「それで? どんな腹案があるんだ?」


 とウーノに聞かれる。


「人手が足りないうちは素直に冒険者でもやろうかなって思ってる」


 ほんとは物づくりや商売に興味があるんだけど、五人でやるのは厳しいだろう。


「わらわとクワトロのやつがいれば、勝てない存在なんてこの世界にはいないだろうからな」


 やっぱりそうなのか、とウーノの言葉を聞いて思った。

 ドゥーエも彼女の正体を知っているので、びっくりしていない。


「強力な冒険者も組織の一員ってなれば、周囲へのけん制にはなるだろう?」


「……そなたがそれでいいなら、こちらはかまわんが」


 ウーノの言葉と態度がすこし引っかかったけど、反対されないならいいや。


「ツテもほしいな。困ってる商人を助けたり、困ってる善良な貴族を助けるのがいいかな」


 商人は家のつながりによる知り合いしかいないから、頼ると簡単に足がつく。

 うちとは接点がない、できれば力のある商人がいい。


「貴族のほうは間に合ってるんじゃないの?」


 いままで黙っていたドゥーエがきょとんとする。


「たしかに貴族のツテはあるね」


 だが、破滅させられる悪役系貴族たちばかりだから意味はほとんどない。

 

「ただ、勝って生き残りそうな人たちとのツテが欲しいんだよ」


「ふーん?」


 ドゥーエはわかったようなわからないような顔をしている。

 俺の事情なんて誰にも話せないから仕方ない。


「貴様を知らないメンバーを勧誘するのはありなのか? 陰の組織ということを考えれば、貴様の正体は機密性が高いだろう」


 とクワトロに言われる。


「それはたしかに」


 陰の組織のボスが末端子爵の跡取り息子だとバレるのは一番こわい。


 知らないところで勝手なことをされても困るけど、俺ひとりの目が届く範囲にかぎってしまうと、組織としてしょぼくなりそうだ。


「いいけど、コントロールはしっかりしてくれよ」


「承知した。吾輩の幹部としての力量を見せてやろう」


 やっぱりクワトロが一番ノリノリだよな?

 プラスの効果として返ってくるならいいので触れないでおこう。


「話がまとまったか? ではそろそろふたりに実戦経験を積ませたい」


「それはいい。経験は重要な武器だ」


 ウーノにクワトロがすかさず賛成される。

 いつか来ると思っていたが、いよいよ実戦か。


「ところで実戦はどんな相手? やっぱりモンスターかな?」


 この世界にはモンスターがいて経験値システムも存在している。

 俺が実感したことはないので、そこはゲームとは違うのだろう。


「そのつもりだったが、金が欲しいのだろう? 金を持ってる悪党を狙えばいいではないか?」


 ウーノのアイデアに納得する。


「なるほど。賞金首ならさらにいいね」


 悪党がため込んだ金は、半分は国に献上させられるけど、半分はもらえるのだ。

 賞金首の場合は別途賞金を受け取ることができる。


「しかし目立つんじゃないか?」


 国から賞金を懸けられる悪党なんて有名に決まっている。

 

「ある程度は知られておかないと、お前を守る後ろ盾になれないだろ?」


「そりゃそうだ」


 ウーノの言葉はもっともだと思う。


 俺は陰の組織だからっていう意識が強かったけど、たしかに本来の目的を考えると認知されてないと意義はほとんどない。


 こっそりやればいいってわけでもないんだな、うっかりしていた。


「懸賞金付きの賊なら、隣の地域にちょうどいると思うよ。たしか【紅蓮剣団】だったかな」


 と俺は記憶を掘り起こしながら言う。

 隣の地域はほかの派閥の大貴族を寄り親に持つ子爵家だ。


 当主は内政に熱心ではなく、治安はあまりよくない。


 おまけにほかの領主と土地の領有に関して揉めてて、兵士を配置しづらい場所があるとか。

 

「なるほど。賊が根城を作る条件は整っているわけか」


 ウーノとクワトロは納得する。 


 仲の良くない領地同士の兵士たちが、どっちの手柄にするかで争ってる隙に、盗賊を見失うというのは、この世界あるあるらしい。


「ではそいつらにしよう」


 ウーノとクワトロが賛成したのを見て、ドゥーエも覚悟を決めたようだ。


「一応聞いておくが、盗賊どもを支配するのも、組織の方向としてアリか? それともナシか?」


 とクワトロに問われる。


「ナシで」


 俺は即答した。

 破滅する運命から逃げるためにやってるのに、恨みを買うようなことは避けたい。


「むしろ定期的に賊を間引く組織、のほうがいいと思うんだ」


 それなら必要な存在だと思ってくれる権力者もいるかもしれないからね。

 

「ふむ。定期的に資金調達する手段というわけか」

 

 とクワトロは言ったけど、賊を油田か何かと勘違いしてるのでは……?

 この世界に油田があるのか知らんけど。


「とりあえず【紅蓮剣団】の現在地がどこかまではわかんないから、ウーノとクワトロに探してほしいんだけど」


「ああ、わらわに任せておけ」


 ウーノは張り切った様子で快諾する。

 俺たちの初陣が楽しみだったりするのかな?


 ウーノの姿が見えなくなったと思ったら、すぐに出現した。


「それらしき奴らを見つけたぞ、さっそく行こう」


 えっ? いまから!?

 と思ったけど、賊退治は早いほうがいいに決まっている。

 

 ウーノがいれば距離の壁は無視できて便利だな、と見覚えのない土地を初めて見て実感した。

 

 ウーノとクワトロは平然と宙に浮いているけど、俺とドゥーエは地に足がついている。


「配慮してもらったな」


「任せろ」


 ウーノはにやりと笑いとある方角を見た。


「ちょうど、賊らしき奴らがいるぞ」

 

「本当だ」


 赤いバンダナを巻いた男たちが十人、何かを取り囲むようなポジショニングで、戦いの音も聞こえてくる。


「馬車が襲われているようだな」


 とクワトロが状況を話す。


「助けに行くだろう?」


「もちろん」


 ウーノの問いに俺は即答したが、ドゥーエは「ルークが言うなら」と言う。

 俺たちが駆けつけると、何人の男たちがふり向く。


「何だ? ガキども!」


 体格のいい大人たちがすごんでくるけど、まったくこわくない。

 ウーノとクワトロに慣れてしまうと、ライオンとチワワ以上の差を感じる。


「衝覇」


 教わった通り手のひらから魔力を放出する。


「ぶへっ」


 男は奇妙な声を漏らし、他の男をふたりほど巻き込んで三メートルくらい吹き飛ぶ。


「がはっ」


 近くでドゥーエが三人ほどまとめて吹き飛ばし、全員気絶させる。


 弱くね?

 と思ったけど賊ならこんなものか?


「油断しないで戦おう」


 念のためドゥーエに呼びかける。

 敵はもう三人くらいまで減ったおかげで襲われていた人たちの様子も見えた。


 護衛らしき男性がふたり、執事服みたいなものを着た男性がひとり、彼らにかばわれている女の子と男の子がひとりずつ。

 

 賊といっしょに驚いた顔をしてこっちを見ている。


「加勢します!」


 遅い気はしたけど、何も言わないよりマシだと声をかけた。


「助力、感謝する!」


 執事らしき男性が叫び返す。

 

「ちくしょう、何なんだあのガキどもは!」


 賊のひとりが舌打ちをして悪態をつく。

 

「あいつらからやっちまえ!」


 とひとりが言ってなぜか俺のところに三人とも殺到してくる。


 そんなことをするから横から回り込んだドゥーエにまとめて吹っ飛ばされるんだよ。


「俺の出番、もう終わりか……」


 賊が弱すぎて、どれくらい強くなれたのか、さっぱり実感ができなかった。

 賊が弱く感じたのは強くなれてる証だと思いたいけど。


 女の子と男の子のピンチを助けられたみたいだから、それでよしとしよう。


「気絶させただけで油断するなよ」


 やってきたウーノとクワトロが賊たちを縛り上げていく。

 クワトロがケルベロスを連れて来てないのは助かった。


 見た目がウーノと違って、あいつらは言い訳が無理だもんな……。

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