第40話「うってつけ」
「生徒会は選ばれし者だけが入れる。君はソルム家だし、成績は中堅クラスだろう? 家格も成績も足りないんじゃないかい? 志は評価するがね」
イヤミたっぷりな口調で門前払いを食らった。
不可視状態で怒るウーノを目でなだめながら撤退する。
「やっぱりダメだったか」
人がいない建物の陰にもたれかかり、意外とひんやりした感触を背中であじわいながらそっと息を吐き出す。
「ちょっとやっつけてしまうか?」
とウーノが言う。
「いや、いいから」
敵を排除する、倒すのはいいけど、それ一択しかないのはやばい。
「味方を増やすことを考えたいかな。いままでみたいにね」
セリア、サブリナ、ニクス、オルロのように。
あとはノーラも味方寄りと言えるかな?
「ふむ。死屍累々にしてばかりでは意味ないか」
とウーノは物騒な表現を使いながらも理解を示す。
死体から金はとれないから……と言いかけたが、ブラックジョークにしてもキツイ気がしたので自制した。
「本命は生徒会の下部組織に属するどこかだよ。これなら評判をあげれば生徒会の耳にも届く」
上下関係があるのは悪いことばかりじゃない。
優秀さを示せば引っ張り上げられてもらえるからだ。
「ふむ。下から這い上がるというわけか」
ウーノがにやりとする。
「ああ。実績をつくって味方を増やすなら、そのほうがいいだろう」
素直に生徒会に飛び込んでいくよりも、知り合いを増やしていきやすいからだ。
「戦いは数だしな」
俺が言っても説得力あるのか、だんだんと怪しくなってきてる気はするんだが。
「数なんてわらわの前では無意味だぞ? その点、覚えておくといい」
ウーノは豪傑が浮かべそうな笑顔で話す。
たしかに彼女には三神龍か主人公をぶつけないとダメなんだろうな。
「そんなすごい人、いまの学園にはいない気がするけど」
王家や公爵家は強いと言っても、支持基盤である派閥の貴族たちはさすがに無視できないはずだ。
「ではお前が無双すればいい」
「軽く言うなあ」
ウーノの言葉に苦笑する。
ヒューマン同士のしがらみなんて、彼女には無駄でくだらないものなんだろう。
言いたいことはわかるけども。
「できるようにがんばってみるよ」
無双するくらいじゃなきゃ、破滅フラグを完全に壊すのは難しいと考えてみる。
どこか入れてもらおうとさまよった結果。
「ウチなら歓迎だよ。人手不足だからね」
閑散とした場所におんぼろな部屋にある委員会の先輩男子が、疲れたような笑顔で言った。
看板には美化委員会と書かれている。
「不人気なんですね」
「うん。雑用ばかり押しつけられてるから」
男子はすべてをあきらめたような力のない笑みを浮かべた。
「俺でよければお手伝いしますよ。ところで何人いるんですか?」
とたずねる。
「君で三人目かな」
「三人……」
人数はそこまでじゃないけど学園はそこそこ広いので、絶対に人手は足りてないだろう。
「入会届は書いたらさっそく仕事を手伝ってくれないかい?」
と先輩に言われる。
「いいですよ」
こういうことは早いほうがいい。
差し出された入会届に名前を書いて先輩に返す。
「ソルム家のルークくんか。子爵家だから同格だね」
と彼は納得した顔で言う。
「僕はルミレ家のショーン。派閥は違うけどよろしく」
「よろしくお願いします」
ルミレ家って思いっきり王家派閥じゃないか。
立ち位置的にはウチと同じか、さらに弱いくらいだけど。
だから俺のことも何とも思わないのかな?
と握手をしながら思いをはせる。
「ウチ弱いからたぶん先輩には迷惑かけないと思います」
「ウチも似たようなものだよ、ははは」
実家の弱小の悲しさを共有できる先輩でよかった。
すくなくとも委員会の空気は悪くならないかもしれない。
「そう言えばあとひとりいるんですよね?」
俺で三人目のはずだと確認してみると、
「ああ、そうだね……」
なぜか先輩は気まずそうに目をそらす。
「ショーン、いる!?」
いきなり勢いよくドアが開かれ、女子生徒が叫びながら入って来た。
「リズ、そんな大きな声で言わなくても聞こえてるよ」
応じるショーン先輩の表情がどこか疲れている。
「あのね、あんたは元気がないのよ! ってこっちの子はもしかして新入生?」
赤い髪の美少女がズンズンと入ってきて、途中で俺に気づいて立ち止まった。
「初めまして、ソルム家のルークです」
「ソルム家ってグリード侯派閥の手先じゃない! 大丈夫なの?」
自己紹介するとあまりにもストレートすぎる言葉が返ってくる。
これには内心で苦笑するしかない。
「何の影響力もない下っ端です。現に誰も俺に寄って来てないですし」
と自虐する。
コアーク伯爵以外にもグリード侯爵の派閥仲間がまったくいないわけじゃないのに、放置されてるのはつまり数合わせ以外期待されてないからだ。
もちろん、俺にとって望ましい状況なので変えるつもりはない。
「ふーん、あたしらと同類か。たしかにソルム家って存在感ないもんね」
と美少女はずばずば言う。
貴族ならもうちょっと遠慮した表現を使うはずだけど、この人が言うといやみがないな。
「リズ、初対面の後輩に失礼だよ」
とショーン先輩はたしなめる。
「彼女がごめんね。彼女は法衣貴族のキマリト男爵家の令嬢で、僕の幼馴染なんだ」
「ああ、なるほど」
キマリト男爵は傍流とは言え、王家の忠誠心が高い家系のひとつ。
ショーン先輩の親と親同士が仲良かったというのは充分にあり得る。
口は悪いし遠慮もないとは言え、かなり可愛いのでちょっとうらやましい。
「ま、うちの親もその他大勢だけどね」
リズ先輩は両手を腰に当てながらそっとため息をつく。
「そんなことないよ。立派な親御さんじゃないか」
とショーン先輩がフォローをする。
法衣貴族の場合、男爵でも意外と侮れない影響力を持っているケースもあるらしいので、幼馴染の縁ばかりとも言えない。
「えー?」
リズ先輩は不満たらたらだったけど、こっちをちらっと見て言葉にはしなかった。
さすがに自分の親を見知らぬ後輩の前でこき下ろすわけにもいかないのか。
「それにちゃんと自己紹介したほうがいいよ」
とショーン先輩は言う。
「お小言?」
リズ先輩はいやそうな顔をしたものの、分が悪いと思ったのかこっちに向き直って軽く礼をする。
「このショーンが言ったように、キマリト家のリーズレットよ。長くて呼びにくいだろうから、リズでいいわ。よろしくね」
「よろしくお願いします、リズ先輩」
ようやく自己紹介が終わった感じ。
「僕らは二年だからひとつ上なんだよ。あとふたりくらい入って欲しいけど、たぶん無理だろうね」
ショーン先輩が残念そうに言う。
「同じ派閥の子たち、けっこう散ってるからね」
とリズ先輩が舌打ちしながら合の手を入れる。
「そうだったんですか?」
派閥で言えば彼らの所属先が一番大きいのだから、すこし意外でもあった。
「優先度が高そうなところにね。ウチは後回しにされちゃったんだよ」
すこし悲しそうにショーンの先輩が話してくれる。
「大変ですね」
成り上がるスタートラインとしてはむしろうってつけと言えた。
あまりにぴったりなので、笑いそうになるのをこらえる必要があるけど。
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