第44話「ボスラッシュのボスたち」

「ところでソルティア様、そちらの幹部たちはいいとして、ヒューマンや精霊がいるのはなぜですか?」


 ヴァルダルノは彼にとって当然の疑問を口にする。

 俺とウーノに対してはかなり強い敵意をぶつけてきた。


「このルークとわらわがソルティアの支配者だからだ。おまえにもわからせてやろう」


 とウーノが前に出て、力の差を見せつける。

 ソルティが圧倒的な敗北をしたのだから、当然彼は何もできなかった。


「バ、バカな。何だこのデタラメな強さは……たかが精霊が……いや、まさか?」


 あっという間にボロボロにされたヴァルダルノは、ウーノの正体に思い当たったようである。


「ね、ねえ、、ボス。ヴァルじいが殺されそうなんだけど。止めてくれない? 彼女、あなたの言うことなら聞くんでしょう?」


 とソルティアは俺の腕にそっと触れ、不安でいっぱいの表情で頼んできた。


「ウーノ、殺さないでくれよ」


「承知している」


 俺が声をかけると彼女はすぐ横に移動してきて、


「あとはお前が説得するのだな」


 とソルティアに話しかける。


「わ、わかったわ」


 自分がしくじったら忠臣が殺されると察していたようだ。


 ソルティアは可愛らしい顔をこわばらせながら、倒れているヴァルダルノのところへ向かう。

 

「な、なるほど……ソルティア様を従える器量があると。しょ、承知いたしました」


 ヴァルダルノは納得してなさそうな表情だったが、力の差は理解できたらしくもう異を唱えなかった。

 

「平和的な話し合いだな、うむ」


 ウーノは上機嫌で自画自賛する。


「平和?」


 ソルティアの部下たちから疑問の声が聞こえた。


「死者が出なかっただけマシな解決法だったと思ってもらいたいな」


 と釘を刺しておく。


 恐怖政治みたいなやり方は不本意なんだけど、力の差を見せないと服従してくれない相手じゃ仕方ないと思う。


「配慮してくれてありがとう」


 ソルティアは仲間をかばうように前に立って俺に礼を言った。

 

「わかってくれたならいい」


 と答える。

 

「ヴァルじい、ボスとあたしと城の中に案内してよ」


 ソルティアが言うと、よろよろと立ち上がったヴァルダルノはうなずく。


「承知いたしました」


 苦痛に表情をゆがめているが、声には力がある。

 このおじいさん、やっぱり見た目によらずかなりタフだ。



 魔王城の中がうす暗いのはゲームのときと変わらない。 


「ま、魔王様?」


「魔王様だ」


 遠巻きに見ていたモンスターたちがすこしずつ集まってくる。


「ほお。案外猛者がいるようだな」


 とクワトロが感心する。

 

「そうなのか?」


 ウーノに問いかけると彼女はうなずいた。


「永らく主が不在だったとは思えない程度には。それはそれとしてお前の気配を探る力は、まだまだ鍛える余地があるようだ」


 と彼女は言ってちらっとこっちを見る。


「やぶへびだったか」


 肩をすくめたものの本気じゃない。

 自分はまだまだ強くなれるという気持ちは持っているからだ。

 

「ちょうどいい。顔合わせさせてくれ。支配権を奪ってやろう」


「あたしの部下を根こそぎ持っていくつもり!?」


 クワトロの言葉にソルティアは涙目になる。


「俺の命令でソルティアが配下を動かすんだから、ある程度は残しておかないと、かえって動きにくくなるんじゃないか」


 と俺は指摘した。


「ふむ、たしかに。ボスの言う通りだな。よし、ほどほどにしよう」


 クワトロは妥協する。


「も、もうちょっと強く止めてくれない?」


 ソルティアは涙目で俺を頼ってくる。


「すぐにボスにすがるのはダメだろ」


 ところが今回はウーノが間に入って阻止してきた。


「お前がクワトロの奴と切磋琢磨すればすむ話だ」


「ううう……」


 彼女の意見に一理あると思ったのは俺だけじゃなくてソルティアもらしい。

 うなっただけで反論はしなかった。


「わたしも見てみたいです」


 ニクスとオルロもなぜか興味津々らしい。

 ふたりが魔獣に興味があるとか、相性がいいという設定なんてあったっけ?


 ……いや、すでに原作と比べれば悲惨な状態だ。

 ある程度はスルーしておこう。


 そのほうがきっと柔軟な対応をとることだってできるはず。

 広い城内を歩いていると、かなり強そうなモンスターがやってきた。


 外見こそ俺よりひと回りほどデカいだけの犬だけど、ヒュドラより上だと俺の直感が告げている。


「グランディオス!」


 ソルティアがうれしそうに名前を呼ぶと、グランディオスもワン! と吠えて応えた。


 あいつグランディオスなのか。

 ソルティア戦の前にあるボスラッシュの一番手だったやつだ。


 大幹部クラス並みの強さを持つ魔王の番犬というところか。


「あら、ソルティア。お久しぶり。あなたがいない間、退屈だったわ」


 そこへいきなり姿を見せたのは二十歳くらいの白い肌を持った美女。

 

「は、ハレンチな!」


 とドゥーエが真っ赤にして叫んだのも無理はない。

 ネグリジェみたいに薄くて魅惑のボディラインがはっきりと出た服だからだ。


「キュアラ!」


 とソルティアが彼女に抱き着く。


 ソルティアの親友にしてヴァンパイアの女王、ボスラッシュで最後に出てくる強敵・キュアラか。


 なお二番目に出てくるのがヴァルダルノである。

 

「なぜヒューマンを連れているんだ?」


 キュアラとグランディオスの視線が俺に突き刺さった。

 

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貧乏貴族の下剋上~最強の邪精霊と神龍を従えて陰から世界を掌握する~ 相野仁 @AINO-JIN

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