第3話「主人公でも無理だろうって状況なんですが」
「ところでこの娘はそなたの知り合いなのか?」
邪精霊はぐったりとしてる少女を見る。
「ええっと……」
事情を簡単に説明した。
要するに、俺だってこの子がどこの誰なのか知らないのである。
「ふむ、わらわ好みの悪しき血をそなたのような子どもが、と思っていたが謎は解けたわ」
邪精霊はふむふむと納得した。
やっぱりあいつら悪人だったのか。
「わたしはせんぞがえりで気持ち悪いって、おやに捨てられて……」
と語る少女の表情が悲しみにくもる。
ううん? 何か覚えのある悲しい過去の話のような気がするな??
いや、でも、まさかあのキャラがこんなところにいるはずがない。
……と言いたいところなんだけど、まさかの邪精霊がいま隣にいるんだよなぁ。
念のため確認はしておいたほうがよさそうだ。
「きみの名前は?」
ちょっと迷ったのち少女は答えてくれる。
「セリア」
やっぱりそうだよ!!
ゲームのメインヒロインのひとりじゃないか!!
それも最初は闇堕ちしかけてた状態で敵として登場して、主人公と出会って心が癒えて味方になるっていう人気キャラじゃないか!
何でいまこの子がここにいるんだ?
どうしてこうなってるんだ?
「どうしたの?」
セリアはもちろん、邪精霊も混乱してる俺を不思議そうな顔で見ている。
ラスボスを超える隠しボスと、メインヒロインのひとりと同時に知り合うって、主人公だって無理だろうって状況なんですが??
「いや、つらいことを言わせて申し訳なかったな」
とりあえずごまかしながら、必死に頭を動かす。
「平気」
セリアの返事はそっけないが怒ってるわけじゃなさそうだ。
「ふたりともウチによかったら来る?」
と提案してみる。
というかセリアに関しては誘わないという選択肢がない。
幸いというか俺はひとりっ子だから、セリアを養う余裕くらいはあるだろう。
「もちろんだ。わらわに行くアテなどないのだから、友だちのそなたにしっかり面倒を見てもらうぞ」
お前が先に乗り気になるんかい、というツッコミを我慢する。
邪精霊のほうはこっちの世話になる気満々だ。
「いいの?」
セリアのほうは遠慮している。
両親に捨てられて心にダメージを負ってるんだろうな。
ええっと、なんて言えばいいのか……。
「先祖返りとして生まれたのはきみのせいじゃないからね。俺は気にしないし、きみの味方だよ」
主人公は似たようなことを言った気がする。
一字一句覚えてるわけじゃないけど。
「うう、うわあああん!」
セリアは大粒の涙をこぼしたと思うと、盛大に泣き出す。
やっぱりショックだったし、泣きたかったんだろうなあ。
泣き止むまであやすハメになった。
意外だったのは邪精霊がけっこう協力してくれたことである。
お前って世界を滅ぼす邪悪なボスキャラじゃなかったっけ?
と思ったけど、言わないでおいた。
セリアが泣き止んだことで俺はひとつの相談を持ちかける。
「名前?」
不思議そうに首をかしげる邪精霊を見つめながら指摘した。
「なんて呼べばいいんだ? さすがに封印されていた存在をそのまま呼んだら、俺がやばいだろ」
邪精霊を復活させたなんて、絶対にバレたくない。
「ふむ。ではそなたが名をつけるがよい。わらわに名付けする名誉を与えよう」
何かえらそうだけど、えらそうにできる圧倒的な強さを持っているはずなので、黙って従う。
「じゃあウーノだな」
「ウーノ? 悪くはない。ではこれからはウーノと名乗ろうか」
邪精霊はまんざらでもなさそうだった。
受け入れてくれてよかったと思ったら、セリアがそっと俺の腕をつかむ。
「わたしも名前がほしい」
「えっ? きみにはあるだろう?」
彼女の要求が予想外すぎて困惑する。
「いや、あんな親の名前はいや」
彼女は激しく首を横に振った。
ああ、自分を捨てた親からもらったものを捨てたいのか……。
気持ちがわかるとは言いがたいけど、尊重しよう。
「じゃあきみはこれからドゥーエだ」
というと彼女はこくりとうなずく。
「わたしの名前はドゥーエ」
反すうした元・セリアはちょっとうれしそうに口元をゆるめる。
普通ならふたりを連れ帰るところだけど、ちょっと待てよ。
これから俺の後ろ盾となる組織を作るんだったから、ウーノに頼めばいいかもしれない。
だけど、ウーノに組織を作ってもらうなら、このまま彼女たちを家に連れて帰るのはあまりよくない?
「あの組織のメンバー、ルークの知り合いに似てるね」と言われたら、陰の組織としてはアウトじゃないか?!
のおおおおおおおおおおおおおお。
いきなり挫折しそうだ。
「どうしたの?」
「不思議な踊りだが、何かの儀式か?」
ドゥーエとウーノのふたりはきょとんとしている。
ふー、落ち着いた。
このふたりにはある程度のことを話してしまうことにする。
信頼できる味方を作れなかったらどうせお先真っ暗なんだから。
「というわけなんで、俺の作る組織にも入ってください」
「陰の組織か。面白そうだな」
とウーノはニヤニヤしながら応じてくれる。
この子邪悪な精霊じゃなかったっけ、と首をかしげたくなるくらいノリがいいな。
でもいまは助かる。
「あなた貴族だったの。そう言えば身なりいいね」
セリアは俺の服装を見て納得した。
まあ、子爵のひとり息子だから、服装は安物じゃないんだけど。
「わたしもいいよ。あなたに恩返しをしたいから」
と言うドゥーエの言葉がいじらしいが、それだけに頭と心が痛い。
「何かないかな? ドゥーエが安心して過ごせる場所」
ウーノに相談してみる。
うちの家なら比較的大丈夫かもしれないけど、他人の目があるんだよなぁ。
両親はまだしも、使用人たちやご近所さんはどうにもならない。
「それならわらわが提供してやろう」
とウーノは言い出す。
「何かアイデアはあるの?」
邪精霊はいろいろとできるらしいが、ゲームでは全部明かされてなかった。
設定資料には掲載されているとゲーム仲間は言っていたけど、俺は読んでいない。
「【ワンダーガーデン】」
ウーノが指を鳴らすと、真っ暗で陰気な場所から、一面がきれいな花畑に切り替わる。
「ここは……?」
魔法か? 異空間を出現させたのか、俺たちを転移させたのか?
とにかくトンデモないことが起こったことだけは直感で理解できた。
ドゥーエも不安そうに周囲をきょろきょろしている。
「わらわの世界じゃ。水と食料と寝床くらいあるし、わらわの許可なく誰も入れぬ。ドゥーエはここで過ごせばよい」
「え……?」
ドゥーエはびっくりしてウーノを見つめる。
「ルークが作る組織に入るのだろう? わらわが一番、そなたは二番だな」
「それはいいけど」
ウーノは「一番」を強調したが、ドゥーエは気にしないらしい。
「同じ組織の仲間、わらわの妹分として扱ってやろう。特別にな」
「あ、ありがとう」
ドゥーエは困惑しながらも礼を言っている。
「俺からもありがとう」
「うむ。ルークはたくさん感謝しろ」
なぜかウーノは俺には恩着せがましい、別にいいけど。
「どうやって出ればいいんだ?」
花畑の一画に建物があるけど、出入り口らしきものは見当たらない。
異空間、もしくは異世界だから当然か。
「わらわが許可しないと出ることもできぬぞ?」
ウーノは微笑みながらおそろしいことを言った気がする。
「どこに行きたい? わらわが知ってる場所なら、どこにでも送ってやろう」
彼女の言葉を頼もしく感じたが、すぐに懸念材料を思いつく。
「ウーノが復活したのは久しぶりだよな? いまの時代で知ってる場所ってどれくらいある?」
「うぐっ……」
ウーノはうなり、気まずそうに瞳をそらす。
やっぱりか……。
「一度俺が外に出て、家に帰って場所を把握する必要がありそうだね」
「それは仕方ない」
ウーノはしぶしぶ認める。
「人に見られないようについてくることはできるの?」
相手は邪精霊だから常識が通じない手段を持っていてもおかしくはない。
「そんなのお安いご用だぞ。誰にも気取られないようにそなたのそばに控えていようか?」
からかうような目でこっちを見る。
「とりあえず家までそれで頼むね」
「ちぇっ、つまらない男め」
スルーすると残念そうにされた。
何かこの邪精霊、ゲームのときと比べてキャラが違いすぎるんだけど。
世界のすべてを呪い、生きてるものを絶滅させようとする、怨念の化身みたいな性格はどこに行ったんだろう?
こっちのほうがつき合いやすいから文句はないんだが。
寂しそうなドゥーエの顔を見て、
「とりあえずドゥーエに水と食料と寝床を教えてからでいいよな」
と俺はウーノに言った。
反対されなかったので、まずはここから見えてる建物に移動する。
何と言うか女の子の部屋らしく、可愛らしさ全開でいい匂いもした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます