貧乏貴族の下剋上~最強の邪精霊と神龍を従えて陰から世界を掌握する~

相野仁

第1話「悪役に転生してた」

 ふざけんな!

 自分が置かれた状況を理解したとき、呪わずにはいられなかった。


 地球じゃない世界に転生してしまったのはまあいい。

 貴族というわりに裕福じゃないのも許せる。


 魔力があって魔法を覚えられるのは、むしろラッキーなくらいだ。


 だが、俺が転生したのは某ゲームで必ず破滅する「悪役」じゃないか!

 しかも悪役の中でも小物、ボスキャラの侯爵に仕える木っ端貴族にすぎない。


 正確に言うと親の関係が子どもにも継承され、ボスの侯爵の巻き添えで滅ぶのだが、お先真っ暗に違いはなかった。


 おかげで貴族の恩恵を受けながらのんびり魔法を上達する、なんて悠長なことは言ってられない。


 キレ散らかしてしばらくたつと冷静になってきた。

 破滅する運命の悪役なのはひどいが、考えようによってはまだマシである。


 第一に俺は子爵家の跡取りであるため、この世界で教育を受けられる。

 教育を受けられるかどうかで、のちのち大きな差が広がるのだから重要だ。


 第二に腐っても貴族なので、財力や権力を持ってる層とのコネクションがある。


 顎で使われたり、下に見られることがほとんどだろうが、仲間とすら思われていない、あるいは存在を認識すらされていないよりはマシ。


 この二点から平民スタートよりは楽だったとポジティブに受け止めよう。

 さて、生き残るのための作戦をさっそく考えてみる。


 まず必要なのは戦闘力。

 極論、誰と戦っても勝てる強さがあれば、リスクは一気に減る。

 

 暗殺される可能性は残るが、敵対したくない存在になるのは非常に大事だ。


 次に欲しいのは金を生み出す何か。


 金さえれば大半のものは買えるだろうし、金を稼ぐ能力を持つ者を殺すバカはあまりいないはず。


 それからできれば欲しいのはコネ、あるいは後ろ盾だ。


 敵に回したくないと多くの者が考える存在がバックにひかえているとなれば、うかつに手を出してこないだろう。


 虎に威を貸してもらえる狐ポジションに就けるなら言うことはない。

 

「けど、ちょっと問題がある気がするんだよなぁ」


 だって一対一じゃ誰もかなわないくらい強くて、金を稼ぐ能力を持っていて、強いバックがひかえてる?


 そんな貴族って普通いるだろうか?

 いたとして、国王に疎まれて処刑されるパターンじゃね?


 善玉ヒーローでも権力者に排斥されることは珍しくないだろうに、悪の貴族、それも小物ポジションでそんなに目立っても平気なんだろうか?


 ……すこしも大丈夫じゃない気がする。


 国王を後ろ盾にできたらいいけど、心変わりされた場合、あるいは後継者になった王子に排除される可能性は残ってしまう。


 国王が裏切りたくても裏切れないような存在。

 目指すならそこって感じだが、まだ弱いというか何か足りてないような?


「勇者パーティーだって裏切られるケースだってあるし」


 うーん……結局個人や少人数だと、一国の最高権力者相手だと不安が残ってしまうな。


「てことはこっちも組織を作ればいいのか」


 むしろほかに対抗手段がないかもしれない。


 一国そのものを滅ぼせるだけの圧倒的な戦闘力を個人が手にするというのは、いくらこの世界がファンタジーでも難しいだろう。


 厳密に言うとできそうな存在はゲームでは複数いたのだが、俺にそんなバケモノを凌駕できるだけの素質がある前提で考えないほうがいい。

 

 国が無下にできないほどの組織を作って、俺のバックになってもらうというのはアリかも?


 まあマッチポンプくさいが、生き残れるなら何でもいいか。


「ルークぼっちゃん、さっきからどうしました?」


 ……ひとまずこれ以上執事に疑われないように、三歳児のフリをしよう。

 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る