第34話「ニクスとオルロ」

「どちらから先に接触する?」


「炎豹族」


 クワトロの問いに即答する。


 記憶が正しければ炎豹族のニクス、エルフのオルロだったら、前者のほうが集落を追い出されるタイミングが早かったはずだからだ。


 ゲームとズレが起きてるとわかっていても、こういう場合はズレがないことを祈りたい。


「場所は西部のレパード地方だ」


 知識通りの場所だった。


「ウーノの力ならひとっ飛びかな?」


 と確認した。


「任せておけ」


 彼女は快諾してくれる。

 

「ルークとわらわとだけで行くのか?」


 ウーノが移動する前に確認してきた。


「そのほうがいいんじゃないかな」


 炎豹族は排他的な種族で、同行人数が多ければそれだけで揉める原因になると思う。

 

「炎豹族の集落、興味あるなあ」


 トーレは本音を漏らしたあと、あわてて首と手を横に振る。


「今回もちゃんとお留守番やるよ」


「お前ならいざというとき、戦力にはなるだろうがあきらめるんだな」


 とウーノが微笑む。


「炎豹族と戦いに行くわけじゃないんだもんね。そうならわたしだってついていきたいけど。ボスの護衛だから」


 とドゥーエもすこし残念そうに言う。 


「戦いになってもわらわだけで充分だ。お前たちを連れて行くのは経験のためだな」


 と指導者目線でウーノは言った。

 

「炎豹族は種としてはヒューマンよりも強いぞ。おっと、それを言うならエルフもか」


 彼女の言葉はどことなくわざとらしいけど、ウソじゃない。

 ゲームでもヒューマンは弱い種と設定されていた。


 あくまでも種としてはであって、突然変異的に強い個は出てくるし、最も可能性にあふれている、という一文もあるけど。


 でなきゃ主人公やメインキャラにヒューマンがいる説明がつかないもんな。


「あはは。ヒューマンって、ほんと平均だとすごい弱いよね!」


 とトーレはケラケラ笑ってる。


「数の力で有利をつくってるだけだからな」


 と俺も彼女に同調した。


 炎豹族やエルフは強いと言っても、百対一や千対一で勝てるバケモノはめったにいない。


「平均じゃあヒューマンは弱いけど、トップはヒューマンが強いって聞いたことあるよ」


 とドゥーエは言う。

 浮かない顔をしているのは過去のことを思い出したからか。


「間違いとは言えない。わらわを過去に封印したのはすべてヒューマンだからな」


 ウーノは一転して忌々しそうな顔になる。

 

「話を戻すとして、炎豹族の集落にはいつ行ける?」


「お前が望むならいまからでもいいぞ」


 手を叩いて仕切り直し、ウーノに聞くと即答された。


「前から思ってたけど、転移魔法って一度行ったことがあるのが条件になるという説が有力なんだよね。実際のところどうなの?」


 ドゥーエのまねか、トーレも手を挙げて彼女に問いかける。


「事実だ。わらわはかつてこの大陸の地域ほぼすべてに行ったことがあるので、何の差し支えもないだけだ」


 ヒューマンが文明を築く前から暴れていた存在の言葉は重い。


「な、なるほど、さすが最強の精霊……!」

 

 トーレも一発で納得したようだった。

 

「お前、そんなに暴れてたのか」


 と俺が言うとウーノはそっぽを向く。


「む、むかしの話だ」


 頬が赤くなっているあたり、反省してないわけでもなさそうだ。

 

「だからルークの行きたい場所があれば、どこにでも連れて行ってやるぞ。わらわが」


 ウーノは顔を戻して最後の一言を強調する。


「もちろんこれからも頼りにさせてもらうよ」


「うむ! お前の一番の相棒はわらわだよな!」


 声をかけるとめちゃくちゃうれしそうに満面の笑みになった。

 顔だけ見れば天使か美の女神で通りそうだな、と思う。


「じゃあ行ってくるから留守番頼むよ」


「大丈夫だと思うけど気をつけて」


 声をかけるとドゥーエがちょっと心配そうに返事する。


「リーダーが炎豹族と仲良くなったら、あたしも集落に行ける?」


 トーレはそんなことを言い出す。


「その場合は行けるだろうが、集落で排斥されてる者を保護しに行くのに、そう上手くいくかな?」


 クワトロの疑問には俺も賛成である。

 だいたいニクス自身がいやがるなら、堂々とは連れて行けないだろう。

 

 ……ニクスが仲間になってくれるならの話か。



 というわけでウーノの力で炎豹族の集落の近くにやってきた。


「殴りこみに行くか?」


「それが正攻法なんだろうなぁ」


 ウーノの提案に仮面の下で苦笑する。

 獣人は戦闘力を重んじ、強い者は尊敬されやすい。


 こっちの言い分を認めてもらいたいなら、炎豹族の実力者と戦って倒すのが手っ取り早いだろう。


 集落の前には木でつくられた俺の背くらいの柵があって、見張りたちが五人立っていて俺をにらんでいる。


「そこで止まれ、仮面の怪しい奴!」


「俺はルーという」


 あまり設定と別名義を増やしすぎても管理が大変だから、冒険者のルーとしてふるまうことにした。


「俺は強い奴に会いに来た。炎豹族が腰抜けじゃないなら、手合わせ願おう」


 相手は強さを重視する炎豹族なので、強めの態度のほうがいい。


「いいだろう! 殺しはしないが、大ケガは覚悟しろよ!」


 挑発的なあいさつに対して、好戦的な返事がすぐに飛んでくる。


 これが仲良くなるための王道っていうんだから、炎豹族は戦闘部族なんて言われるんだろうなあ。


「まずは俺だ」


 一番体格がいい男が拳を打ち鳴らし、口から火を吐き出す。

 炎豹族は文字通り火の属性があつかうのが得意な豹の獣人だ。


 ニクスはその中で氷を得意とする異端あつかいされてしまう。


「炎豹族に挑んできたんだ。まさか火を使うのが卑怯とは言わないだろう?」


 全身に火をまといながら男は聞いてくる。

 

「もちろん」


 炎豹族が使う火属性は魔法じゃなくて、俺も使える魔力変化の延長だ。

 

「ではいくぞ!」


 と叫ぶと同時に男は飛びかかってくる。


 豹らしいしなやかさとスピードだが、ウーノにしごかれた俺にはゆっくりに感じられた。


 炎をまとった拳をひらりと避けて、彼の背中に拳で一撃を叩き込む。


「がはっ」


 苦悶の声をあげて男性はダウンした。


 火の抵抗は感じなかったので、おそらく効果は攻撃と速度に振ってあったんだろう。


「ま、まさか、一撃だと……」


「【炎豹七牙】がこんなにあっさり負けるなんて信じられん」


 ほかの見張りたちが動揺しまくっている。

 七牙ってたしか設定的に炎豹族でも強い戦士だったっけ?

 

 そんなに強くなかったけど……本当に強い戦士だったら集落の外で活躍してるかな。


「俺の力を認めてくれたなら、中に入れてもらえないだろうか?」


 強者として認められたなら好都合だと前向きに考えて要求する。


「い、いいだろう。お前のような強者なら歓迎させてもらう」


 見張りはひるみながらも許可をくれた。


「証として我々ふたりが同行するがかまわないな?」


「ああ」


 炎豹族の場合だと見張り全員を倒して侵入したとしても、いきなり敵対しないかもしれないけど、逆らう理由もないので受け入れる。

 

 集落はヒューマンの村よりは発展しているが、大きな都市には及ばないといったところだろう。


「珍しそうだな」


 若い男が気さくに話しかけてきたので、


「炎豹族の集落に来たのは初めてだから」


 正直に応じる。

 彼らには敵意は感じないどころか敬意すら感じた。


「そうか。貴公ほどの強者ならいつでも歓迎するぞ」


 ともうひとりの同行者が言ったが、本心なのだろう。


 ちらちら見ているとぽつんと離れたところに、あばら家となりかけている建物が目に入る。


「あれは何だ?」


「ああ。あそこには異端の者が住んでいる」


 返事を聞いて思わずビンゴ、と言いたくなったの自重した。

 

「異端?」


「我らと同族でありながら、異なる属性を放つのだ。それだけならまだしも、同族とは思えないほど弱い」


 表情を嫌悪に変えて吐き捨てるように若い男が言う。


 ああ、ニクスが自分の生まれ持った属性を使いこなせるようになるのは、主人公の仲間になってからだっけ。


 それまでは弱くて周囲にバカにされて生きているんだった。


「すこし興味があるな。炎豹族なのにほかの属性なんて」


 と言うと、若い男たちは足を止めていやな顔をする。


「物好きなやつだな。まあ、断る理由もないが、やつを一般的な炎豹族だとは思わないでくれよ?」


 同じだと思われたくないという感情が全身から伝わって来た。

 

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