第2話

  俺の名前はヴァイオレット・バレンティン。元魔王である。今は勇者を探すために旅をしている最中だ。


 勇者が魔王を倒しに来るのは勇者と魔王の間に因果関係があるからなのだが……今回はその因果関係を応用し、なんとなく気になる気配を辿っている。


 まぁ、気になる気配……もとい勇者の気配を辿って歩くこと約10分。俺は大きな城壁に囲まれた街に着く。入り口は大きな門だけでそこ以外から侵入するのは面倒そうだなぁ。


 門の前にはかなり長蛇の列ができていてるし、中に入る前には門番のチェックを受けないといけないし……この街はかなり重要な都市か何かなのだろう。


 王都、とかかな……とりあえず、この街の中から勇者の気配を感じるし入るしかないよなぁ。まぁ、のんびり並びますか〜。


 長蛇の列は中々減らない、と思っていたが結構早く俺の番が来た。どうやら数人体制でチェックしているらしい。中々賢い奴らだ。


「貴様は何の用件でここに?」


この門番、辞めたほうがいいと思う。普通に態度が悪いな。俺は寛大な心で許してやるが他の魔族だったらぶち殺されていたぞ……


「おい、聞いているのか? 用が無いならここに入る事はできん。そういう決まりだ」


 どうやら用がある者だけを通しているらしい。まぁ、用ないのに入りたがる奴とか怪しいしな……意外とここはちゃんとしているらしい。


「おい、貴様! いい加減にしないと……」


「あ? 少しくらい待てよ。俺は今久々に人間を見れて気分良いんだからよ」


 人間を見るのも久々な上に話すのなんて転生以降だと初めての俺。上手く話せる訳もなく、魔王の時の態度で答えてしまっていた。


「人間を見るのが、久々? おい、そりゃどういう意味だ。貴様、まさか魔族なのか!」


 はい、一瞬で正体バレました。しかもこの門番、意外としっかりしていて、どうやって指示したのか知らないが既に兵士が数人こっちに走ってきていた。


 こりゃ無事に中に入るのは不可能かな……仕方ない、あまり目立ちたくなかったが、魔法使って入るか。透明化っと。よし、これで姿は見えないはず……


「ちっ、どこ行った。おい、お前ら。奴は透明化を使った可能性が高い。その辺で暴れろ」


 この門番、態度以外は完璧な門番だ……おそらく、こいつは態度は悪いけど優秀だからクビになってないんだろうなぁ。


ちなみに、こいつが指示した『その辺で暴れろ』ってのは透明化した敵に対してかなり有効だ。何故なら、透明化しても存在はしているので武器や体にぶつかるから。


 面倒だなぁ、と思いながら俺は暴れる兵士達の隙間を縫うように駆ける。この兵士達はそこまで上級者ではないようで、各々が適当に暴れているので隙間は山ほどあった。


 俺は兵士たちを避けやっと門に辿り着く。よし、これでなんとか中に入れる。


 そう油断した瞬間だった。


「侵入者あり、侵入者あり。直ちに対応せよ」


 そう聞こえたかと思うと上から赤色のインクがミストのように降り注いできた。

 もう一度言うが……透明になっても存在はしている。もちろんインクも付着する。故に俺の体は赤色に染まったのだった。


「ははは、引っかかったな。兵士に暴れさせればそっちに気が向いて門にある魔力センサーに気づかない」


 この門番、有能過ぎだろ。ここまで有能だとちょっと態度悪くてもクビに出来ないわけだ。


 呑気に考える余裕がある俺だが、現実はかなり詰み盤面だ。この姿だと街の中に転移しても怪しまれるしすぐバレるだろうなぁ。強行突破は目立ちすぎるからダメだし……


「さぁ、貴様ももうおしまいだ。大人しく捕まるんだな」


 門番は余裕の笑みを浮かべて近づいてくる。余裕の笑みは浮かべているが決して油断はしてない。それは、歩き方や視線で分かる。


「はぁ……ほんとに面倒な奴だなぁ」


 俺はそう呟くと擬態を解き、すぐにまた擬態する。


 実はこの『擬態』は意外と便利な技で、自身の魔力を具現化させて擬態しているのだが擬態を解くと具現化されていた魔力は元に戻るのだ。

 それを応用するとインクみたいな付着物なんかも取り除くことが出来る。まぁ、エネルギー効率は悪いから連続して使うのは避けたいけど。


「なっ、消えた!? おいお前ら。街の中に転移しているかもしれない。本部にも伝えておけ」


 しかもこの擬態の原理は、魔族しか知らないのでいくら優秀な門番でも分からないのだ。まぁ、人前でするとバレる可能性があるのでほんとにやりたくなかった。


 さてと、これで街の中には入れた。さっき、透明化も解いた(もちろん誰にも見られないようにはした)。


 問題はこの街のどこに勇者がいるか、だな。さっきの様に気配を辿ってもいいのだが、人が多すぎて気配が辿りづらい。

 ある程度の方向は分かるが、頼りにできるほどではない。


 ん〜、人を隠すなら人混みの中ってか。

 仕方ない。その内見つかるだろうし、今はこの街を観光しますか〜。


 そう思い、近くにあった店に入ってみる。そして、驚いた。

 正確に言うと、店に入ろうとした瞬間驚いた。俺はこの世界に転生してから約400年経つが……コレを見たのは初めてだ。


 そう、自動ドア。

 この世界……もとい、俺の国では自動ドアなんて物は存在してなかった。ドアは全て木製、手動。久々の自動ドアを見て俺は入り口で立ち止まってしまう。


 ふと、俺はもう一度ドアを見る。

 ……ガラス製だった。透明度は確実に生前の日本に匹敵しているガラス製だ。そして、そのドアの奥。ここから見える他の家も全てガラス製の自動ドア。


 技術って、魔族より人間の方が発達しているんだなぁ。


「あのー、通していただきたいんですけど」


 その声で、人間の技術力に驚いていた俺は我に返った。そういえば、入り口で立ち止まってたな。迷惑すぎる奴である。俺は慌てて中に入る。


「ありがとうございます」


 いえいえ、こちらこそすみません。と謝ろうと俺の横を通っていった人を見て驚く。(さっきから、驚きの連続だなぁ)


 黒いとんがり帽子。地面に擦れそうなほど長いローブ。そして、その手には赤色の木で作られた杖。

 おそらく俺の知識が正しいのならその人は魔法使いだった。異世界に転生してから初めて人間の街で見る魔法使い。なんか、すげー。


 ちゃんと異世界なんだなぁ、と改めて実感する。

 しかし、魔法使いの人……なんか悲しそうな顔してたな。まぁ、俺には関係ないか。


 さて、観光に戻るか……

 と、再び店内に目を戻した。そして、(本日何度目か分からないが)驚いた。


 そこに広がっていたのは、剣士、魔法使い、聖女等ゲームに登場するような人が大勢いる圧巻の光景。逆にそれ以外の人はあまりいない。ここは、一体……


「お前なんか邪魔だ! 消えちまえ!」


 薄々ギルド的な場所だと分かっていたのに分からないふりをして物語の主人公気分を味わっていた俺を邪魔する声が響く。もちろん、ものすごく不快な気分です。


「お前が勇者の末裔だから少しは役に立つかと思ったが……完全にハズレだったぜ」


 ……ユウシャノ、マツエイ? 勇者の末裔!?

 突如として、この勇者探しの旅は終わりを告げたのだった。


──────────────────

読んでくださってありがとうございます。

もし何か気づいた事があったらコメントで教えて下さい。酷評でも参考になるので大歓迎ですよ〜。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る