第3話

俺の名前はヴァイオレット・バレンティン。元魔王で今は勇者を探しに大きな街に訪れているのだが……


「お前なんか邪魔だ! 消えちまえ! お前が勇者の末裔だから少しは役に立つかと思ったが……完全にハズレだったぜ」


勇者を探すのを後回しにしてとりあえず観光しようと思ったら勇者の末裔と呼ばれる人物と遭遇した。これは、俺の普段の行いが良いからだな。


まぁ、そんな自画自賛は置いといて……問題は、勇者の末裔とやらが現在進行系でパーティ追放されそうになっているところだな。


勇者の末裔はボロ布を適当に縫い合わせた様な服を着ていて頭にも雑巾のような布を被っているのでどんな見た目かは分からないが、この状況に抵抗するつもりはないようだ。


「ちっ、お前はどれだけ俺の神経を逆撫でしたら気が済むんだ?」


おそらくパーティのリーダーと思われる男は仕切りなしに怒鳴り散らかしている。このギルド内にいる誰も止めようとしない

どころか『またか……』って感じなのでいつもこんな感じなのだろう。


唯一受付嬢だけがハラハラと様子を見ているが直接動く勇気はないのだろうな。


「私は……別にあなたを怒らせているつもりはありません」


勇者の末裔が初めて口を開いた。その声は震えていたが強い意思みたいなものを感じる声だった。


それにしても、なんか女っぽい声に聞こえたのは俺だけだろうか。まぁ、勇者が女なんてそんなの有り得ないだろう。盛大なフラグが立った気がするが気のせいだよな。


「お前……もういい、ぶっ殺してやる」


リーダーの男は遂に剣を振りあげた。剣の質は下の下。おそらく使い古されているから、というより素材が悪かったり鍛冶師の技量がなかったり、といった元々の質が悪いのだろう。


って、呑気に鑑定している場合じゃないな。勇者に死なれたら俺の願望も叶えることは不可能になってしまう。目立つのは避けたいが、この街に入ってくるまでにかなり目立った。今更か……


「死ねぇ!!」


男が剣を振り下ろし始めると同時に俺は動き出した。その速さは自分で言うのも何だが音速に近い。本当は音速で動いてもいいが衝撃波でギルドは半壊するだろうから遠慮した。


パキィィィン


ギルド内に甲高い音が響く。肉が裂ける音がすると思っていた者は皆驚いてその音の出処に目を向け、恐ろしいものを見た。


俺は男と勇者の末裔の間に入り込み、勇者の末裔に向かって振り下ろされた剣を自分の腕で受け止めだ。更にその衝撃をそのまま剣に流し折ったのだった。

まず剣を素手で受け止める時点で常識離れも良いところだが、魔王なので仕方ない。


「なっ……!?」


リーダーの男も驚いている。まぁこの男だけでなくこのギルド内の大半の奴らは驚いているが……


とりあえず、勇者の末裔とやらを連れて行こう。どうせ追放されそうだったのだから別に良いよな。

そう思い、勇者の方を振り向く。


美少女がいた。フラグ、回収だなぁ。(本日の何度目になるか分からないが、ちゃんと驚いた。我ながらこの数分で驚きすぎである)


ボロ布で体を覆われているので顔しか見えない。しかし、それだけでも十分、美少女だと確信できた。最も特徴的なのは真紅の瞳。魔族にも赤眼の奴はいるがここまで鮮やかな奴は見たことない。


思わず魅入ってしまうほどの美少女がそこにはいた。そして、俺は魅入っていたので言葉が喉に引っかかり只々見つめるだけになってしまっていた。


「お前……よくも俺の家宝を!!」


俺を現実に戻したのは、醜い男の声だった。

できれば、この目の前の美少女の声を聞きたかったなぁ……よし、後ろのクズは死刑だな。と俺は心の中で思う。


神経干渉 白昼夢デイドリーム


この技は俺が生み出した神経に作用する技。白昼夢とは実際に起こる現象らしく、簡単に言うと『起きているのに夢が見えて放心状態になる』こと。


細かい原理は説明が面倒だし長いので割愛するが、精神干渉 白昼夢デイドリームはその状態を強制させているって訳。

とにかく、男は放心状態になった、ってこと。


さてと、邪魔者は静かになったしさっさと勇者の末裔を連れて行くか。なんか字面が誘拐みたいだな……実際誘拐か。


「おい、お前。俺について来いよ。多分、楽しいぞ」


俺っていつから初対面の女の子に「お前」なんて言えるようになったんだろう。……転生してからか。


「……」


勇者の末裔は俺を見つめてくるだけで一言も発しない。あ、あれ? なんで何も言わないんだ。

表情には出してないが心の中で大慌ての俺。そういえば人と話すの久しぶりだったわ、と最終的には開き直ることで落ち着いた。


「……分かりました。ついて行きます」


俺が落ち着くと同時に勇者の末裔は無気質な声で言った。かなり小声で聞き取りにくかったが多分言った。言った、はず……言ったよな?


一人で勝手に不安になって自問自答する俺。しかし表情には一切出していない。あくまで心の中で、の話だ。だが、周りから見たら何故か動かない変な奴である。


「行かないのですか?」


結局、勇者の末裔にそう言われるまで俺は自問自答を繰り返していた。格好悪いなぁ。



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勇者ちゃん(饅頭)です。下手ですけど、参考程度に……多分、可愛いく描けてるはず!


https://kakuyomu.jp/users/123581321346599/news/16817330664009921413

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