第22話

 村に着くと俺たちは早速村長の下へ向かう。村長の家は村の奥にあるのだが……そこに行くまで、俺は一つ気になることがある。


 それは、村人からの視線だ。ほぼ例外なく全員が驚きに満ちた目をしてこっちを見ている。最初はインドラ君に驚いているのかと思ったが……どうやら違うらしい。


 小声で何かを話していたから俺は聴力を3倍くらいにあげてみたところ……


「あの人たちって……神獣様の討伐に行ったっていう……」

「嘘でしょ……? 国の衛兵たちですら全滅したのよ。なのに無傷で帰ってくるなんて」

「どうせ引き返してきただけだろ。堂々と帰ってきたのには感心するなぁ」


 ──といった会話が至るところから聞こえてきた。つまり俺たちが神獣様インドラを討伐に行ったのが何故か村中に伝わってて、無傷で帰還した俺たちに驚いているわけか……


 てか、やっぱりインドラって国の衛兵が討伐に動いたんだな。それが全滅って……そんな思いを込めてインドラ君に視線を送る。恐らくこいつも聴力をイジるなりして聞いていると思ったからだ。


「フッ。あの時の兵士たちか……我が叫んだだけで気絶した奴らだな」


 やはりインドラ君も聞いていたみたい。自慢気にそう語っていたが、多分叫んだことで不可視の電気が空気中を伝わって気絶させただけだろう。


 俺との戦闘中もインドラを中心に電気が漏れていたからな。勇者ちゃんが感電しないように苦労したぜ。対処法としては自身の覇気で対抗するだけ。インドラの電気は覇気の一種だしな。


「村長さんのお家が見えましたけど……なんて説明するんですか?」


 先頭を歩いていた勇者ちゃんが声を上げる。前を見ると大きな館……村長の家、というか屋敷が見えていた。割とこの村は大きいのかもしれない。


「ん〜、基本は俺が説明するよ。まぁ、ある程度は知っているだろうけどな……勇者ちゃんはニコニコしておけばいいよ」

「分かりました!!」


 実はこの村に入ったとき、背後をついてきていた気配が消えたのだが、村全体に意識を向けて探したところ、村長の屋敷に向かっていた。やはり奴は村長の手下だったらしい。


「……屋敷から誰か出てきましたね」


 今更だけど、インドラ君って一人称『我』なのに敬語だよな。喋りにくくないのか? とたまに思う。まぁ、本人の自由だけどな。


「まぁ、のんびり愉しめばいいだろ。あちらがどんな対応するのか見物だな」

「ヴァイオレットさん……意地悪な顔してますよ。程々にしてあげてくださいね」


 意地悪するな、じゃなくて程々にしろ、って言われた。つまりちょっとは意地悪してもいいのか……なんか勇者ちゃん、純粋無垢じゃなくなってきてない?


「そりゃ、意地悪の権化みたいな人ヴァイオレットさんといるんですから、性格も似ますよ」


 すごく不名誉なこと言われた。俺の何処が意地悪の権化なんだよ……たまにこっそり万年桜で手、桜にしたりしてるだけじゃん。


「それを意地悪って言うんです!」

「楽しんでいるところ悪いですが、あまり騒がないで貰えますか? 御主人は耳が良いですので」


 なんか嫌味が効いてそうで全然効いていない嫌味未満の何かが聞こえた。必死に煽ろうとしたのかな……と考えてしまう。まぁ、この人……目の前の侍女さんは雇われの身だろうしな。


「アァーー!!!!」


 インドラ君がいきなり叫ぶ。攻撃かと思って後ろを振り返ったら大口開けているインドラ君がいた。倒れてもないし、攻撃を受けた感じはしないけど……


「す、すみません……叫ぶなって言われたら叫びたくなって……」


 やるなと言われたらやってしまう……獣ってそういう意味で素直なのか。見た目が小学生くらいなら分かるけど、この人高校生だよ……? 見てて恥ずかしいわ。


「あの……この人、気絶しちゃいましたけど。どうするんですか?」


 勇者ちゃんに言われ、前を見ると……正確には前方の下を見ると、床に泡吹いて倒れている侍女さんがいた。インドラ君……やっちまったなぁ。


「我が悪いんですか!? こ、コイツがこんなにも弱いのが悪いと思います……」


 最後の方、弱々し過ぎて聞き取れなかったが大体言おうとしていたことは分かる。とんでもなく理不尽な責任転嫁しようとしてたね、今。ちゃんと自分の力を把握しよう……


「……よし、このまま放っといて村長のところに行こう。え、その人寝てましたよ? って言えば良いだろ」

「それもそうですね! 行きましょう」

「え、良いんですか!? ……この人、可哀想。えーと……、お疲れさまです」


 俺の提案に都合が良いから賛同したインドラ君。ちゃんとまだ優しさが残っていた勇者ちゃん。インドラ君が増えた事でほんとに賑やかになったなぁ──としみじみと思う俺であった。


 ◇ ◇ ◇


「「ふざけんじゃねぇぞ!!」」


 応接室に怒号が響き渡る。怒号と共に大量の覇気が放たれ壁にヒビも入った。そりゃそうだ。この場にいる二人の王が同時にキレたんだから。


「ヒィィ……こ、ここは穏便に話を進めようではないですか……」


 そういうのは村長だ。コイツに気絶されたら話が進まないのでコイツだけには覇気を当てなかった。あ、勇者ちゃんにも当ててないや。


 村長の執務室を直接訪ねてその後この応接室に入ってから数分の出来事である。俺たちはインドラを討伐した旨を説明した。隣にいるインドラ君は合流した仲間ってことにしたので問題ない。


 その事に村長からは感謝の言葉が伝えられ、報酬金も受け取ったので俺たちは帰ろうとしたのだが……その後の村長の護衛役のセリフが良くなかった。


「勇者の様とその従者の色男担当様と寝返った神獣様……愚かですねぇ」


 これ言われたときは『え、コイツ……え?』って馬鹿すぎる発言過ぎて困惑したものだ。何で穏便に物事が進んでいたのにいきなりそんな発言するのか理解できなかった。


「おい! 失礼だろ。いくら本当のことでも本人たちは気にしているかもしれんだろうが」


 この村長の言葉に俺たちはプッツン。本気で覇気を開放したわけ。さて、コイツラは生きていられるのかなぁ……

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