第21話

「フッフッフ。我ノ白雷ヲ避ケルカ。中々ノ強者ダナ」


 吐血して手足も折れているはずの雷狼王インドラが起き上がる。ちぇ……面倒な相手だなぁ。


 奴が起き上がった仕組みだが、自身の脚と地面に同極の電気を流しその反発力で浮いているようだ。恐らく浮くだけじゃなく高速で移動したりも出来るだろう。それ程、電気の扱いに長けているやつだ。


「ヴァイオレットさん、大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな……ちょっと面倒な相手だが、暗黒空間オプスキュリティ・スペース


 俺は迷わず仮想世界を展開した。俺とインドラの周囲が闇に飲まれていく。俺がこの世界に入った理由は一つ。本来の姿で戦うためだ。人間に擬態したままだと動きにくい。厚着した状態で走り回るのと同じ。


「よぉ、インドラ。悪いけど、俺は魔族なんだ。ヴァイオレット・バレンティン、よろしくな」

「ナッ!? 魔王様デゴザイマスカ?」


 先程の戦いの続きが始まると思っていた俺はインドラの言葉に少し困惑する。今コイツ、敬語使った?


「え〜と……そうだけど。それが?」


 思わず俺も臨戦態勢を解いて問う。インドラはちなみに俺が名乗った時点から解いていた。恐らく話の流れからして襲ってくるっていうのは考えられないからな……


「ワ、我ヲ配下ノ末席二加エテ頂キタク……」

「ふぁあ?」


 インドラの予想外の発言に間抜けな声が出た。インドラはそれを俺が怒ったと勘違いしたのか「申シ訳ゴザイマセン」と言って小さくなった。本当に物理的に少し身体が縮んだ。


「いや、怒ってないけど……えーと、戦う意志はあるかい?」

「イエ! 全クアリマセヌ」


 ……とりあえず、仮想世界を解除する。もちろん擬態し直している。魔族としての姿を勇者ちゃんに見せるわけにはいかないからな。インドラは察してくれたのか何も言わない。意外と賢いやつだ……


「あれ? 終わったんですか……って後ろです!」

「あ、ちょ……待っ──」


 俺が制止するよりも先に勇者ちゃんが剣を抜いて背後に飛び掛かって、和解した(?)インドラに剣を振るってしまう。


「フン、娘ヨ。我ハ、コノ方ト共二イルコトニシタ。貴様トモ仲間ダ」

「……えぇ!?」


 俺が止めるまでもなく、インドラが大人の対応を見せる。勇者ちゃんの剣を軽く飛んで避けると俺についてくる旨を説明していた。激昂して勇者ちゃんを殺しちゃうかも……と心配だったが、良かった。


「ヴァイオレットさん! 本気ですか? コイツ、本気なんですかぁ!?」


 勇者ちゃんが誰かに『コイツ』って言っているの初めて聞いたかも……それが素なのかな──と思う俺を他所に勇者ちゃんは騒いでいる。まぁ、昨日の敵は今日の友、だよ。


「今日の敵ですけど!? 何があったんですか!」


 何があったか……本来の姿見せたらインドラが手のひら返した。ってだけだが、そんなバカ正直に言ってもなぁ。どうしたものか。


「フンッ。騒グナ、女ヨ。ソウイウモノダト思エ」


 インドラさんナイス〜。俺は勇者ちゃんに強気に出れないところがあるから、そうやってビシッと言えるの尊敬するわ。


「アリガトウゴザイマス」

「むぅ……私が話に置いていかれるのには釈然としませんが、ヴァイオレットさんがすごかったっていうのは分かりました」


 えーと、とりあえず勇者ちゃんも納得してくれたみたいだ。納得してくれたのだが、問題はまだある。というか、問題しかない。特に……


「コイツ……インドラがついてくるのは別にいい。けど、その姿で村に行ったら大騒ぎどころじゃないぞ」


 一応さっきのサンダーウルフの親玉なだけあって、見た目は完全に狼だ。サンダーウルフの姿を見たことあるあの村の人達はすぐに魔獣だと気づくだろうな。


「アア、ソレナラ……こうやって、人型にもなれますので問題ないかと」


 いきなりインドラの身体が輝いたかと思うとその光が人型に変わり、一人の美青年になった。白髪に雷のように一房だけ髪が黄色と黒に染まっている、高校生くらいの美青年に。


「わぁ、カッコいいですね。これなら村の人達にはバレないのではないでしょう」

「…………たしかに、問題なさそうだな」


 まぁ人間離れした髪色なのは染めているって設定でいけば大丈夫だろう。この世界には赤や紫の人もいるし……インドラ君なら自慢の賢さでなんとかしてくれるか。


「あの……一つ疑問なんですけど。さっきから此方を伺っている人間は仲間ではないのですか?」

「ああ、あれね……」


 戦闘が始まってからも少し遠くで俺たちを見ていた人物。恐らくあの村長の手下だ。俺の戦闘を邪魔するつもりだったのか、もしかしたら漁夫の利するつもりだったのか。


 どちらにせよ、今の俺たちには通用しない。俺も勇者ちゃんもインドラも誰一人疲労していないからな。そもそも気配の消し方からそこまで強いわけじゃないと思われるしな。存在ごと忘れてしまうレベル。


「え、え? 誰のことですか?」


 勇者ちゃんだけは気づいていないみたいだけど……この子にはまだ悪意のある人とかは難しいかな。純粋無垢が代名詞の勇者ちゃんには。


「なんか失礼なこと思いましたか?」

「いや、全く。なんの事かな?」


 たまに勘がいいよね、勇者ちゃんって。勇者ちゃん七不思議に追加かな。寝言、か弱い、ソース、勘……大喜利でも始めそうな勢いの七不思議だな。


「それで、あの者は放っておけばいいんですよね? では、これから村に戻る感じですか?」

「そーだな。そうするか」

「私も話に混ぜてくださいよー。何なんですか、あの者って〜」


 何気にインドラがあの村のことを知っているのに驚いたが、配下の魔獣がよく行く村なら知っていてもおかしくないか。もしくは彼処に行けば飯があるってこいつが入れ知恵してたのかもな。


 俺はそんな事も考えながら少しだけ賑やかになった勇者一行を心地よく思う。勇者ちゃん一行とはいえ、3分の2が魔族陣営だが……今後増えるだろ。


 俺は今後来たる別れの日まで勇者ちゃんとの旅を楽しもうと強く思った。ちなみに、勇者ちゃんは村につくまで、というか村についても隣で駄々こねていた。



───────────────

 魔王です。ヴァイオレットです。こんにちはです。前世では陰キャで、ゲームの毎日でした。まぁ、そんな俺の話はどうでもいいとして。


 今回インドラ君が仲間になりました。決戦の日は勇者ちゃん側ではなく俺側で戦ってくれそうですね。さて、そんなインドラ君ですが……『インドラ』というのはあくまで種族名です。故に名前を付けたいと思います。特に縛りはないので一人何個でも案を出してください。ヨロシクです。


 いつも読んでくれてありがとうございます。これから勇者ちゃんは俺を倒せるようになるのか分からないですが、頑張っていくはずなので……応援してください。


 え? 何? 勇者ちゃんがインドラにカッコいいって言った時、どう思いましたか? ……うん、殺そうか悩んだ。内緒だぜ〜。

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