第20話

「ほんとに行くんですかぁ……?」


 隣で周りをキョロキョロ見回しながら歩く勇者ちゃん。場所は先程サンダーウルフを倒した森……の奥深く。深緑の葉が大陽を隠し森の中は禍々しい雰囲気が漂っている。


「行くって言ったのは君だろ……」


 何故こんな事になったかというと、時は数十分ほど前に戻る。


 サンダーウルフを討伐しその証拠品死体を村に持ち帰ったところ、村の方々にかなり感謝された。村長の家まで招かれたくらいだ。


 そこまでは良かった。感謝されるところまでは……村長の家に招かれた後、俺たちは料理を振る舞ってくれるのかと思っていた。けど、村長は大金を俺たちの前に置いた。


 額は金貨100枚程。日本金でいう、千万円くらい。家が立つ額だ。しかし、この時点で俺は嫌な予感がした。隣に座る勇者ちゃんは大金を前にニコニコしてるが……


 サンダーウルフの討伐の報酬が、こんな大金なわけがない。そんな大金をポンと出したらこの村が潰れてしまう。いくら木材加工に長けていてもそこまで裕福な村ってわけでもないだろうから。


「実は、森の奥には魔獣の王が住んでいると言われていましてな……そいつのせいで動物たちが魔獣へと変化しているのでは、と言われております」

「なる、ほど……?」


 勇者ちゃんはなんで村長がこの話をし始めたのか分かっていない様子。十中八九、俺らに討伐、もしくは調査を頼むつもりだろう。そして、そんな俺の予感は的中する。


「その魔獣を探して欲しいのです。討伐してください、とまでは言いません。このお金は依頼料です。勿論、後で更にお金は渡します」


 俺は知っている、勇者ちゃんはものすごくお人好しで優しい奴だという事を。そして、この村長も気づいている、勇者ちゃんは利用しやすい奴だと。食えない野郎だ。


「分かりました!」


 案の定、元気に返事する勇者ちゃんがいた。村長がニヤリと笑ったのを見逃さい。ジト目で睨むと、村長はペコっと頭を下げた。


「別に探すのはいいが、必ず見つけれるとは限らないぞ。危険を感じたらすぐに撤退する」

「わ、分かりました。魔獣は強いですからね。大丈夫です」


 余計なことはするなよ──と釘を刺して俺は立った。勇者ちゃんも立つ。思いたったが吉日、俺たちはその後すぐに森に向かった。


 という経緯でここにいるわけだが……俺たちの背後、数メートル後ろを誰かがついてきている。気配でそれを感じ取った俺は警戒を最大限に高めていた。


 まぁ、後ろの気配も気になるのだが……俺はそれ以上に気になる気配があった。俺たちが歩いているこの獣道の先。恐らく開けた場所にその気配はある。


「勇者ちゃん、気をつけろ。ボスの御登場だぜ」


 俺が言い終わると同時に俺たちはその気配の下に辿り着いた。この森に入ってから久々に陽の光を浴びた気がする。この場所だけ、木々がなく開けているので日差しが差すのだ。


電雷狼サンダーウルフの上位種、雷狼王インドラか。かなりの強敵だねぇ」

「え、ちょ! 見るからにヤバそうなんですが!?」

「当たり前だ。魔獣の中でもトップクラスの危険度を誇るゲキヤバ魔獣だからな」


 俺は特に脅威を感じないが人間からすれば出会ったら即死レベルだ。もしコイツが発見されたらたとえ戦争中でも全国家が協力し討伐しようとするだろう。


 そのくらいヤバい奴だ。サンダーウルフの上位種、と言ったが最上位である。名前に『王』が付いているのはそういった理由からだ。本当はコイツの下にもう何種類か雷狼系統の魔獣がいるんだけどなぁ……


「勇者ちゃん、勝てそう?」

「サンダーウルフ相手にあの様だったんですよ、勝てるわけないじゃないですか」


 何故か誇らしそうに言い放つ勇者ちゃんがいた。一周回って開き直ってるなぁ。


「頼みました!」


 なんとなく察していたが、俺に押し付けられた。討伐するって約束したのは勇者ちゃんなのだが……てか、危険になったら逃げるって言ったんだが……


「でも、この魔獣を倒さないと村にはこれからも魔獣が現れるんですよね? そんなの見過ごせません」


 口だけは達者だなぁ……とはいえ、勇者ちゃんからお人好しすぎるって要素を抜いたら何も残らない。誰かのために動けるのが勇者ちゃんの良いところなのだから。人に押し付けるのは良くないと思うけど!


「キサマラ、ナニヨウダ?」


 声が聞こえた。男の声、それもまだまだキレがあり若さを保っている感じの王の風格を感じる声。俺以外に王がいるとしたら……それは一人だけ。いや、一匹か。


「残念ながら、うちの勇者ちゃんはお前を倒したいらしくてな。喋れる奴は始めてだが、どれほどのものか確かめてやるよ。楽しませろよ?」


 先程まで寝ていたが起き上がっており、臨戦態勢を取っていた。体中を数万ボルトの電気が流れている。紫電といい勝負だなぁ……


 まぁ、懸念があるとすれば奴の魔法だ。インドラの雷魔法は下手をすれば一発で国一つ崩壊させれるレベル。紫電雷と変わらないレベルで、俺もダメージを食らう可能性がある。それ以外は問題ない。


「フン、笑止。キサマミタイナ人間如キニ我ガ負ケルハズガナカロウ。身ノ程ヲ教エテヤル。イクゾ!!」


 インドラは律儀にそう言うと、その姿を消した。正確に言うと、その姿が消えたと錯覚する速さで動いた。雷を脚に纏わせ高速で動いているのだ。


「え、あの狼さんはどこに……」


 勇者ちゃんは消えたと思っているみたい。まぁ、人間だし、仕方ない。さて、俺くらいしか対処出来ないだろうし、サクッと終わらせますか……


「ごめんね、お前の速さは全然速くないんだ」

「ナニッ!?」


 森の木々の間を駆けていたインドラに背後から追いつくと背中目掛けて手刀を入れる。電気が体中を流れて痛かったがすぐに再生する。


「ゴハッ!」


 インドラの体はズドーンと音を立てて地面に激突。吐血したらしく血が巻き散らかされている。背中を打ったせいか、手足も折れてるみたい。


「君なんて万年桜を使うまでもないんだよ──ッ!?」


 俺が手刀でインドラの首を刎ねようとした瞬間、背筋を悪寒が走った。すぐにその場から勇者ちゃんの隣へ転移する。そしてさっき俺がいた場所を見ると……


 ズガーンッ


 雷が、それも真っ白い雷が落ちその場を抉っていた。木々をもなぎ倒し地面を抉っている。なるほど、この場所だけ日が差すのは奴が雷を落として木々が消し飛んだからか。


「フッフッフ。我ノ白雷ヲ避ケルカ。中々ノ強者ダナ」


 吐血して手足も折れているはずのインドラが起き上がる。ちぇ……面倒な相手だなぁ。

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