第23話

「さてと……どう落とし前つけるつもりですか?」


 一応相手が村長なので敬語だが、その態度は無礼の極み。いつでも殺せるように首に刀を添えながら話している。まぁ、本当に首を跳ねるつもりはないが……要は脅しだ。


 インドラ君も勇者ちゃんの隣に腰掛けている。念の為護衛役だ。俺でも反応できると思うが、インドラ君が守ってくれていた方が村長コイツに集中できる。


「こ、こんな事して、許されると──」

「あ?」


 俺は村長が余計なこと口走るたびに覇気を当てて黙らせていた。インドラ君からは「やり過ぎたら死にますよ……」と心配されたが、俺は覇気の扱いに慣れてるから大丈夫だ。


「何が知りたい……」


 村長が重々しく口を開く。良かった、今回はマトモだ。ただ、コイツはまだ何かしてくる、という確信が俺の中にはある。表情は恐怖に染まっているが心を覗けば、余裕綽々といった感じ。


「何を企んで……って、そういう事ね」


 俺は勇者ちゃんの前に転移する。そして、さっきまで村長の首に当てていた刀を頭上に振り上げた。


 キンッ!


 短く、金属同士がぶつかる音がした。俺の万年桜は木製なのに何で金属同士の音になるんだよ、とか細かいことは気にしない。それくらい万年桜が硬かっただけだ。


「アヒト様、遅れました」


 そう言って村長の隣に立ったのは、俺の万年桜とぶつかった金属……クナイを投げた忍者だった。ふむ、この世界には忍者もいるのか。初めて見たぜ。


「おぉ、お前がいれば安心だ。あの不届き者を片付けろ」


 忍者はザ・忍者って感じの服だ。昼間なのに真っ黒の服着たら逆に目立つだろ……


「我に任せてください」

「ん、任せた」


 忍者の相手はインドラがする事になった。俺はのんびり実況でもしようかな……


「死ねッ!」


 忍者が出したのはクナイ。数回にわたって15本くらい投げてきた。その時間は僅か数秒。普通の人間が相手だったらこの時点で試合終了だっただろう。


「……」


 対する人外インドラ君は無言でそれを全て弾く。避けたら俺たちに当たるというハンデがあるはずなのだが、気にしてない様子。まぁ、避けても俺がいるからなぁ。


「白雷剣」


 インドラが呟くと、彼の右手に白雷の剣が現れた。インドラが獣形態の時に俺に打ってきた『白雷』を制御して剣の形にしたものっぽい。もちろん数万ボルト数百アンペアの超高電力だが、インドラ君はお構いなし。


 インドラ君にダメージがないのは当たり前なのだが相手の忍者が死んでしまうのでは……


「御安心を。我はそんな低能じゃないので」

「まるで心配していた俺が低脳みたいな言い方だな」

「す、すみません!! そういうつもりは……」


 忍者が次々と投げてくるクナイを気にすることなく俺に謝ってくるインドラ君。右手の白雷剣を変形させて盾みたいにしている。便利だなぁ……


「ふざけているのか、貴様らは!!」

「黙れ。お前如きと話す価値はない」


 痺れを切らしたのか相手の忍者が叫んだ。その直後、この部屋に濃厚な覇気が充満する。それに加え少量だが電気を感じた。まぁ、お察しの通りインドラ君の覇気が充満している。勇者ちゃんは俺が守っているから被害なし。


「グッ……」


 忍者は顔を苦しそうに歪め膝をついた。どうやらインドラ君は忍者にだけ強めの覇気をぶつけたらしい。正確に言うと、忍者に向けた覇気が制御できずに周りにも漏れた感じだな。


「む、思ったよりも弱いんだな。こんなので気絶するとは……」


 インドラ君は白雷剣を消す。多分、インドラ君的には手加減したんだろう。通常の人間を知らないのかな……? まぁ、狼の王様だしね。雑魚なんて手下に始末させてたか。


「とりあえず、お前の部下は倒れたぜ。どうする?」


 俺はインドラ君とバトンタッチする。インドラ君が勇者ちゃんを守って俺が相手する感じ。まぁ、俺は武器での戦闘じゃなくて言葉での戦闘だが……


「部下が倒れた? だから何なんだ。お前たちには私を殺せないだろう? そこのクソチビの印象が落ちちまうからなぁ!!」


 村長の口調は最早気品も何も感じられない有様だった。目の前の男の本質が垣間見えて俺は……心の底から愉快になった。この辺は我ながら魔王だなぁと思ってしまう。だけど……


「勇者ちゃんをクソチビって言ったのは許せねぇよ?」

「フン、事実だろ。勇者の末裔ってのはクズしかいないんだ。いや、勇者もクズだったって話だなぁ」


 コイツの余裕な態度はどこから来るのだろう。俺が貧弱な人間に擬態したままだからなのか……いや、勇者の末裔を蔑んできた日常、かな。


 事実、勇者は魔王を倒し損ねたと思われている。そんな勇者を民間人は勇者と思うことは出来ないだろう。では、なぜ一人の人間として見れないのか……答えは簡単だ。人間共コイツら魔族オレらみたいな人外よりもクズ野郎だからだ。


「人を見下すことしか脳のねぇ権力者お前勇者ちゃんこの子を語るんじゃねぇ!!」

「は?」

終わらない悪夢エンドレス・ナイトメア


 久しぶりに熱くなった気がする。この世界に来てから初めてかもしれない。誰かが傷つけられて、それに怒るなんて……ほんとに久しい。勇者ちゃんには魔王というより前世の人間として接してしまう。


「あの、アイツ……そろそろ、死を迎えますよ?」


 回想に浸っていた俺を現実に戻したのはインドラ君だ。インドラ君が指差している方向を見ると、村長が浅い呼吸を繰り返している。


「あ、やべ……解除っと」

「ハッ!? 私は一体……」


 終わらない悪夢は魔法に慣れてない奴にやると死にかけるの忘れてた。精神が追い込まれて最終的にそのストレスや恐怖を脳が処理できなくなり死ぬ。オーバーヒートだな。


「お目覚めですか?」

「ハッ!? 貴方様は……!」


 俺は冷笑を浮かべて話しかけた。恐らく覇気もそこそこ当てていた。なのに……目の前のやつは今、何と言った……? 貴方、様? えぇ?


「私が間違えていました! 申し訳ございません。勇者様の事を勘違いしていました。崇拝します!!」

「…………いや、待て。落ち着いてくれ!!」

「ヴァイオレット様も落ち着いてください」


 何故か勇者ちゃんを見て涙を流す村長、その様子に動揺してしまう俺、そんな俺に冷静にツッコむインドラ君。なんだこの絵面は……


「とりあえず、村長さんとは仲良くなれたんですよね。やっぱりヴァイオレットさんは凄い方です!」


 この部屋に入ってから終始ニコニコしていた勇者ちゃんが初めて口を開いた。本当に終始ニコニコし続けていた。確かに俺が「とりあえず勇者ちゃんはニコニコしとけばいいよ」って言ったけど、本当にニコニコしているとは思わなかった。


 そして今の流れで俺が凄いって評価は何処から!? インドラ君も褒めてあげればいいのに……と思ったが口には出さない。てか、出せなかった。村長のせいで……


「なんと美しく透き通った声なんだ! 私は幸せものだぞー!! この村の住民にもこの美しさを伝えなくては……!」

「おい、待て! お前、何で急変してんだよ。どんな悪夢見たらそうなるんだ!? 頼むから俺に整理する時間とお前と話し合う時間をくれぇぇ!!」

「だから、落ち着きましょうよ! 我のように息を吸って……吐いてー」

「……(ニコニコ)……」


 何故か村長が改心急変したことでさっきまであったピリピリした空気が無くなり賑やかさだけが残った。なんならその賑やかさの中心は今も部屋を飛び出しそうだ。


 ……これは、結果オーライと言ってもいいのだろうか。村長の護衛とか忍者とか倒れてるけど……とりあえず俺に、どんな悪夢を見たのかだけでも教えてくれぇ!!

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