第5話
能天気勇者ちゃんは言った。
「私、そういえばパーティ追放されてましたね。どうしましょう」
俺は思った。
(こいつ、ノープランで歩き始めてたのかよ)
◇ ◇ ◇
再び俺たちはベンチに腰を下ろした。勇者ちゃんの今後を話し合うためだ。
この馬鹿アホ能天気勇者ちゃんの今後を……
「そこまで言う必要ないじゃないですか〜。ちょっと盲点だっただけなんです」
本人は何故か怒っているが俺は事実を言っているだけだ。俺は可笑しくない。可笑しいのは勇者ちゃん。
まぁ茶番はこれくらいにして……
そもそも勇者ちゃんは何の為に冒険しているんだ?
「私ですか……私は、昔は勇者としての声明を取り戻す為に冒険をしていましたけど〜」
さっきの様子からして、まず成功はしてないだろうな。巷では『歴代最弱』なんて不名誉なこと言われてるし。
「はい、そうなんです。それは今も諦めてませんが、今は取り戻した力で魔王を倒して真の平和をこの世界に訪れさせることが一番の目的です。」
その目的は魔王本人である俺は複雑な感情を……抱かなかった。むしろ喜んだ。俺は勇者と戦うことを望んでいる。勇者も俺と戦うことを望んでいる。最高じゃないか!
「私自身が力を付ける必要もありますが、それと同時にたくさんの人に認められる様にならないといけません。険しい道のりですが頑張るつもりです」
気合は十分のようだ。問題があるとすれば、気合じゃどうにも出来ないことがある事だな。
『信仰心』。勇者を信じる者の数だけ勇者の力が倍増される
勇者の信者を増やすために力が必要。しかし、その力も信者がいないとその辺の冒険者と変わらない。難題だなぁ。
「私がパーティのリーダーになってメンバーの人に活躍してもらおうとした時もありましたが、そもそもメンバーが集まりませんでした」
他力本願だなぁ。まぁ、部下の手柄を利用して信者を作るのもアリだな。ただ、その部下が了承すれば、だが。
メンバーさえいれば問題ないのか。勇者に協力的でそこそこ……いや、かなり強くいメンバーが。
うん、そんな奴いないだろうなぁ。
「ヴァイオレットさんくらい強い人がいればなぁ」
勇者ちゃんの何気ない一言。何気ない一言が俺に気づかせる。
そうだよ、いるじゃないか。勇者に協力的でかなり強い人。正確には人じゃないが……そう、俺だ。
俺は魔王。魔王が、勇者に協力的か否か。通常なら否だ。しかし、俺は勇者と戦いたい。そして勝ちたい。全力の勇者に勝って主人公補正なんてないんだよ、ザマァってやりたい。
そう、全力の勇者じゃなきゃいけないのだ。ならば、勇者が万全を期すのを手伝うのは理に適った行為じゃないか!
「……レッドさん……ヴァイオレットさん!」
一人で興奮していた俺は勇者ちゃんの声で現実に引き戻される。
「勇者ちゃん。俺が仲間になってやるよ」
最高に気分が高揚していた。最高だ。自分に酔っていたのかもしれない。
けど、そんな事はどうでもいい。今は自らの願いが叶う日が少し近づいた事に歓喜しているのだ。
200年経っても叶わなかった願い。それが今、叶う瞬間が、垣間見えた事で俺の気分は最高に良かった。何度でも言う、最高の気分だ!
◇ ◇ ◇
「勇者ちゃん。俺が仲間になってやるよ」
ヴァイオレットさんにいくら声をかけても反応しなかったので一発叩かせてもらおうかと思っていた頃、急にこっちを見たと思ったらそう言われた。
え…? ナカマ。ナカマって、仲間!?
思いもよらない言葉に理解が遅れてしまった。確かに私は彼のような人がいたら、と言った。言ったけど、まさか本人が仲間になってくれるとは……
でも彼って実家が襲われた、とか。まぁ、嘘でしょうけど。それでもそれなりの理由があってギルドに寄ったりしているんだよね。いいのかな。
「ああ、俺は暇だから気にするなよ。まぁ、勇者ちゃんが嫌なら嫌で良いんだけど……」
断られたらショックだな……って顔に書いてあった。ヴァイオレットさん、結構顔に出るからなぁ。ちょっと可愛いと思ってしまう。
「いえ、ぜひ仲間になってください!!」
勇者として旅を始めて早1年。始めて仲間と言える存在ができました。今までは誰かのパーティに入れてもらっていたけど雑用係みたいであんまり仲間とは言えなかった。
だから、彼──ヴァイオレットさんが初めての仲間だ。私は嬉しさで胸がいっぱいになる。
「ど、どした? 急にニヤニヤして……」
おっと、思わず広角が上がっていたらしい。戸惑ってるヴァイオレットさんも可愛いなぁ。
「お前、失礼なこと考えてないか?」
ヴァイオレットさんは勘が鋭い。心を読まれているのかと思うくらいだ。私も顔に出てるのかもしれない。
ヴァイオレットさんは初めてあったとは思えないくらい話しやすしとても優しい。まるで前から知り合いのように。
魔王もそんな人だったら世界は平和になるのに……と思う。魔王……絶対に許さない。 人々を虐める存在なんか消えてしまえ。
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