第6話

 色々あって、とりあえず俺の夢が叶う日が見えてきた。勇者の主人公補正とかいうチートスキルなんてねぇんだよ! ザマァ!! ──と叫べる日が近い。


 まぁその前に、この歴代最弱の勇者ちゃんをどうにかしないとなぁ。勇者ちゃんの力の源は『信仰心』らしいけど……失った物を取り戻すのは難しいよなぁ。


 まずは勇者ちゃんが強くならないと……


 正直、どうにかする方法はある。俺が魔物を倒してそれを勇者ちゃんの手柄にする、という方法だ。てか、それ以外あまり現実的な方法はない。


「それも良いですけど……私自身の力も付けておきたいです。魔王が能力殺しアンチスキルとか持ってたら困りますしね。」


 ……能力殺しねぇ。持ってはいるけど、使う気はない。主人公補正の代名詞とも言える、チートスキル『信仰心』を使ってない勇者を倒しても意味ないし。


 俺は勇者を倒したい。けど、正確に言えば勇者を通じて『主人公補正』とか『転生したら反則能力』とか、理不尽そのものを倒したいのだ。


 まぁ、俺の願望の話は置いておいて……

 勇者ちゃんが強くなりたい、って言うなら方法がない事もない。しかし、それは一朝一夕で身につくものじゃない。


「何でもいいです。私が強くなれるのなら」


 ──と、本人は言っている。生半可な覚悟じゃない事は伝わってくる……けど、俺が思いついている方法はそもそも並の人間が耐えられるかも分からないんだよなぁ。


「そこは御安心を。これでも勇者の子孫ですから。多分、タフです!!」


 まぁ、そこまで言うなら……と俺は早速その方法を試すために移動し始める。流石にこんな街中では出来ない。


 ◇ ◇ ◇ 


 俺は街の外に出ると草原に来ていた。ちなみにあの優秀な門番はいなかったし、あのセンサーも反応しなかったので特に問題なく出れた。


「えーっと……こんな所まで来て何するんですか?」


 この草原はさっきの街が見えないくらい遠い所にある。勇者ちゃんが疑問に思うのも無理はない。


 さてと……これから始める練習は超簡単。ただ俺と剣を交えるだけだ。丁度勇者ちゃんも剣持っているし何も問題ない。


 強いて言うなら、俺の攻撃に耐えれずに勇者ちゃんが死ぬことだけど……タフらしいからなぁ。問題ないだろう。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 聞いてないですよ!?」


 そりゃあ、言ってないですもん──と言いながら俺は構える。俺の手には亜空間に収納していた愛刀『万年桜まんねんざくら』が握られている。


「ほ、本気なんですか!? うぅ〜、強くなりたいって言ったのは私ですし……分かりました、やってやりますよ!」


 そう言って勇者ちゃんも剣を抜く。アレは……勇者に伝わるという伝説の宝刀『勇者のつるぎ』だな。あれは、勇者を信じる者が多いほど力が増す剣……って、アレにも『信仰心』が付いてるのかよ!


 昔、親父に教えられた勇者の剣の特性を思い出しその特性の正体を理解する。つまり、勇者の信者が多ければ多いほど、武器の威力も増すってことか……


 とりあえず、考えていても始まらないので俺は軽く地を蹴る。それだけで、俺は10メートル近くあったら勇者ちゃんとの距離を埋める。


「え、ちょ! 早すぎじゃないですか!?」


 勇者ちゃんは驚いている……驚いているだけで防御も一切しようとしない。俺がその事に気づいた時には俺の刀は勇者ちゃんの頭部を打っていた。まぁ、ちゃんと峰打ちだから死んだ訳じゃない。


 ふむ、歴代最弱は伊達じゃないな。俺は打たれた衝撃で気絶する勇者ちゃんを支えながらそう思った。


 歴代最弱の勇者、か。多分、俺が速すぎたというより構えとか反射速度とか、勇者ちゃんの技量が足りなくて防御が出来なかった感じ。こりゃあパーティも追放されるわな……。


 勇者ちゃんが起きるまでに練習方法考えないと……どうやら俺の夢が叶う日はかなり遠いらしい。


 ◇ ◇ ◇


 勇者ちゃんが起きるまでかなり時間かかりそうなので余談。あ、ちなみに練習方法は考えました。


 んで、余談の内容だが……俺の愛刀『万年桜』についてだ。


 この万年桜。実は魔王城の城下町(長いので以降からは魔国と呼ぼう)の中央区の広場にある1本の桜から作られているのだ。


 まぁ、ただの桜が魔国に在るわけないしそれが刀になる事もあり得ないだろう、多分。俺の常識ではない。


 しかし、この魔国中央区広場に在る桜は『万年桜』と呼ばれていて、この世界が創造された当初からある桜らしい。城にあった文献に書いてあった。


 まぁ、そんな特殊な桜な訳なんですけど……なんとこの桜、切っても再生して数秒後には元通りになるっていう恐ろしい性質がある。再生に長けた吸血族でもこんなことは不可能って言うのに、恐ろしい桜だ。


 んで、この桜を切ってそれを加工して作っているのが『万年桜コレ』って訳。驚くことにその強度はどんな鉱石よりも固く、大抵の物はバターの様に斬れるらしい。


 しかも、刃こぼれもしないし錆びたりしない。まさに完璧な刀。まぁ、その分扱いは難しい。


 この刀には意思の様なものがあって、一定レベル以下の者が持つと体が万年桜と同質の桜に変えられてしまう。俺は自らの覇気オーラで制御しているが、うっかり半身を桜にされた事もあった。


 そんなこんなで扱いは難しいが、力は凄い。あと、俺独自の技を再現するためにはこの『万年桜』がないと出来ない。この刀にある意思を使って攻撃するのだが、細かい事はまた戦闘の時にでも……


 そろそろ勇者が起きる頃合いだろう。さて、勇者ちゃんはどこまで強くなるのかなぁ。

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