1章『仲間になってやるよ』
第4話
勇者の一族には『信仰心』という特殊な
しかし、魔王を倒したにも関わらず魔物は減るどころか知性が増し凶悪になるばかり……その原因は勇者が魔王を倒しきれてなかった、という誤解がいつの間にか一般民にまで伝わっていました。
そんな存在を信じる者なんていませんよね。100年以上経っているのだから尚更です。先代先々代くらいの時から勇者の末裔と呼ばれるようになり、勇者の一族は勇者としての扱いを受けなくなりました。
私も今日を生きるので精一杯。最近、巷では歴代最弱の勇者と呼ばれ笑いものにされているらしいです。
◇ ◇ ◇
勇者失格ですね、と美少女は話を締めくくった。彼女は勇者の末裔。先代魔王を倒した勇者の末裔。正直信じられないが、気配からして本物だ。
俺はギルドでの騒動の後、さっきの話を聞きながら、街の噴水広場にあるベンチに勇者の末裔と腰掛けていた。
勇者の末裔、というか勇者だな。勇者の末裔と呼ぶのはは失礼だろう。特にさっきの話を聞いた後もそう呼ぶのは人間として終わっている。まぁ、今は魔族だけど。
「このふぁんおいひいてしゅね」
いま現在勇者ちゃんはパンを食べている。話を聞き終えた後、俺が買ってきたパンだ。お金はちょっと魔法でその辺の裕福そうなオッサンから奪った。後でちゃんと魔法で
てか、口の中あるときに喋るなよ……
「すひまへぇん」
もはや「すみません」の原型を留めてないのよ。とりあえず話にならないから早く食べ終わってほしい。
勇者ちゃんは「ふぁい」と返事するともぐもぐ食べ始めた。一応本人も急ごうとしているらしく次々とパンを口の中に入れていく。リスみたいで可愛い。
待つこと10分とちょっと。途中からペースダウンした勇者はやっと食べ終わった。パン一個に時間かけすぎじゃない……?
「いやー、久々のご飯でした。本当にありがとうございます」
実はこの子、クエストの報酬とかも全部あのパーティメンバーに取られた上飯もまともな物を貰っていなかったらしい。それに同情して俺が軽犯罪してまでパンを買ってやったのだ。
「それで、何の話でしたっけ? パンが美味しすぎて忘れちゃいました」
ギルドの時のあの無気質な声は何処へ……
パンを買ってやった途端元気が出て声も明るくなった。こいつお菓子とかで釣られて誘拐とかされるチョロいタイプだ。
まぁ、話は一段落しているから忘れてもらっても構わないが。
「そういえば、ヴァイオレットさんは何の用でギルドに来ていたんですか?」
俺はヴァイオレットを名乗っている。本当は街の人に魔王とバレるかも知れないからリュウトと名乗ろうかと思ったがなんとビックリ、魔王は先代のままだと思われているらしく俺の名は広まってなかったのだ。
しかし、勇者を探していた目的までは言えないよなぁ。魔王って
とりあえず実家が魔物に襲われて助けを求めに来たことにしておこう。
「え? いや、あれ程の力があればギルドの人たちに助けを求めるより自分で解決した方がいいと思いますよ?」
そういえば、俺は人間離れした業を披露してたな……嘘付くの苦手なんだよなぁ。もう後先考えずぶっちゃけるか、と半分投げやりになる俺。
面倒な事はしたくない。理由は面倒だから。
「まぁ、何かしらの用があったんでしょうね。詳しくは聞きませんが」
何やら察してくれた様子。とりあえず勇者ちゃんの気遣いに救われた形だ。
勇者ちゃん、優しい。
「まぁ、助けてくれてありがとうございます。この恩は忘れません」
勇者ちゃんは立ち上がるとギルドの方に向かって歩き始める。また地道にパーティ探すんだろうか。まぁ、勇者ちゃんといつか戦う日が来ることを楽しみに待とう。
俺は勇者と会えたことに満足し魔王城に戻ろうとした。した、けど……歩いていた勇者ちゃんが立ち止まったのを見て俺も止まる。
「私、そういえばパーティ追放されてましたね。どうしましょう」
勇者ちゃんは振り返り、そう困り顔で言うのであった。
こいつ、ノープランで歩き始めてたのかよ。
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