2章『信者』

第18話

 眼前に動かなくなった騎馬兵たちが転がっている。その数、50を超えているが一人残らず倒れていた。無論、馬たちも。


 原因は俺が放った『終わらない悪夢エンドレス・ナイトメア』である。この魔法は俺が創り出した魔法で、対象の脳内にある『トラウマ』を夢の中で見せ続けるというもの。


 眠っている状態なのだが、本人たちは俺が魔法を解除しない限り起きる事はない。例外があるとすれば俺よりも魔力が強大で緻密に操れる者は自力で解除できるのだが……


 そんな神みたいな魔力の奴はいないし、そんな奴は夢よりも仮想世界に捕らわれていると思うだろう。だから、ほぼ打ち破ることは不可能だ。


 ただ、『終わらない悪夢』が俺の切り札か、と問われると答えは否だ。魔国で披露した『紫電雷』でもない。なら最強の切り札は何なのか……


 それはまた別の機会のお楽しみって事で。勇者ちゃんとの決戦とかで使えたらいいな。そこまで強くなっていてくれたら……


「グヘヘヘへ、勇者の末裔ごときが俺に逆らうなぁ」


 早く勇者ちゃんの所に向かおうとしていた足が止まる。後ろから聞こえたのは……寝言? それも、門番の声……


「まさか、俺の悪夢を見ることなく自身の好きな夢を見ているのか?」


 対象に好きな夢を見させる技に『白昼夢デイドリーム』がある。勇者ちゃんを助けたときに使った技だ。対象を放心状態にさせる技。


 実はアレの効果を正しくいうとなのだが、今回それを使った覚えはない。使ったのは、真逆の性質、対象に悪夢を見させ精神を破壊する『終わらない悪夢』だ。


 では何故、コイツは白昼夢の様な効果を受けているのか……理由は全く分からないが、面倒な奴だ。特別なスキルとかの可能性もある。とりあえず、ここで殺しておかないと後々面倒なことになりそう。


「死ね」


 俺は躊躇なく万年桜をぶっ刺す。覇気を抑えることなく放出した状態で。門のところでコイツの腕を飛ばした時は覇気を抑えていた。流石に殺人犯と思われるのは嫌だからな。


 門番の身体はみるみる桜に変わっていった。体が木になり、髪の毛は葉や花に変わる。手足が根となり立派な桜の完成。


炎獄えんごく


 最後は炎で焼いて完全に殺し切る。炎獄は魂までも燃やし尽くす技なのでこいつが生きている可能性はゼロだ。ここまでされたら流石の俺も死んでしまう。まぁ、ここまでされる事はないが。


 ただ、嫌な予感はする。こいつの優秀さといい知識といい謎の特殊能力といい……ここまで完璧な人間が簡単に死ぬのか。それは断じて否。もしかしたら仮の肉体とかかも。


「まぁ、今は勇者ちゃんのところに行こう」


 今、色々悩んでも仕方ない。とりあえず門番の問題は置いておいて、俺は勇者ちゃんが向かった村に転移する。いつかこの選択を後悔することがありませんように、と願いながら。


 ◇ ◇ ◇


 転移した先にある村は俺たちが練習していた草原とその奥にある森林の境目にある。森が近いおかげか木材加工の技術が発展している。この村を囲っている柵もきっと高度な技術で作られているんだろう。


 ちなみにこの村の周りを囲っている柵は魔獣対策だ。森には魔獣が住み着いていて、作物の被害もだが何より人が食われるらしい。この柵はある程度の効果はある、らしい。この前来たときに村人が教えてくれた。


 さてと、勇者ちゃんは……まだ着いてないのかな。俺はのんびり柵の解説をしながらも村を回って勇者ちゃんを探していたのだが、見あたらない。


 まだ着いてないのだろう。俺は転移してきたからこういう事になっても不思議じゃない。まぁ、もうすぐしたら来るだろう。


 俺はそう思い入り口に腰掛けた。なんか丁度良い大きさの切り株があったからな。


『兄上、大変だ』


 のんびり待つことにした俺をのんびりさせてくれない奴がいた。我が弟、ヴィオレッタだ。だが、珍しく焦っている。緊急事態か?


『実はな。子どもたちが魔獣と魔物と魔族の違いを教えろ、とうるさくてな』


 こいつ魔王だよな? なんかやってる事が魔王らしくないんだが……と思ったのは仕方ないと思う。俺でも子供たちと話す余裕なんてそんな無かったぞ。


『そんな事はどうでもいい。それよりお前なら違いを説明できるだろ。俺たちにとっては常識すぎて、そういうものだ、としか言いようが無いんだ』


 どうやら勉強熱心な子供がいるようだ。でも、そんなの俺にとってもそんなの常識だし……人と人間は何が違うんですか、って質問と同じ。ほぼ一緒や〜。


 強いて言うなら、魔族は知性があって人間みたいな賢い魔物。魔獣は普通の動物の突然変異種で、魔力を持っている獣。魔物はその辺に勝手に出現する雑魚。


『ほえ〜、そうなのか』


 まぁ、魔物と魔族の明確な違いなんてものはないけどな。魔国に住んでいるのは全部魔族だが、もしかしたら魔物もいるのかもしれない。もとから賢い種族もいるからな。


『まぁ一応、言ってみる。最近の子供の成長は素晴らしいよな。一番小さい軍隊でも人間の国一つくらい潰せる優秀な若手がいるぞ。まぁ、じゃあな』


 そう言ってヴィオレッタは通信を切った。けど、俺の内心は穏やかじゃない。あいつが最後にとんでもないこと言っていったからだ。国の一つ潰せる、か……いつの間にそんな戦力になってたんだろう。


「あ、ヴァイオレットさん! 先に来てたんですね」


 草原の方から懐かしい声が聞こえる。まぁ別れて数十分だけど……それでも久しぶりにあった気がする。さっきまでの憂いが吹き飛んで、懐かしさと再開できた喜びに包まれた。


「ああ。転移してきたからな……それより、大丈夫だった? 勇者ちゃん」

「はい。特に問題なくここまで来れました」


 そう言って笑う勇者ちゃんは最高に可愛い。魔王と勇者という関係を忘れてしまいそうなほどに……まぁ忘れませんけど。忘れたら旅に出た意味がない。


「まぁのんびりしようぜ。明日からまたギルドがあるとこ目指して移動すればいいだろ」


 この村にギルドはない。まぁ小さな村だしな。

 とりあえず今日はゆっくりする事にしよう。勇者ちゃんも疲れただろうし……


「ま、魔獣だー! 魔獣が出たぞぉ!!」


 そんな声が村に響き渡る……俺がのんびりしようって言ったらのんびり出来ないのが普通なのかな。


「勇者ちゃん……活躍のチャンスだよ。魔獣討伐に行こう」

「あ……はい、分かりました」


 逃げようしていた勇者ちゃんが驚いてこっちを見るのを感じながら、俺は泣く泣く魔獣の気配を探る。森の方角に意識を向けると、ソレはすぐに見つかった。魔獣の放つ魔力の気配……その数、20を超える。


「勇者ちゃん、死なないようにね」

「そんな危ないんですか!?」


 無知は罪と言うけれど、知らないことで幸せになることもあるんだなぁ、と実感する俺だった。



────────────────

久々の投稿です。待っててくれた方々には感謝しかありません。


 さて、今回は門番さんが死にました(真相は不明)。次回は誰も死にません(多分)。次回は初めてとなる勇者ちゃんの戦闘シーンがあるのでお楽しみに。ヴァイオレットさんが魔国に戻っていた理由も(多分)明かされます。


 応援とかくれると励みになります。読んでくれるだけでも励みになりますけど……。とりあえず、これからもよろしくお願いします!!

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