第17話
「んで、何があったんだ?」
俺が転移した先はいつもの草原。勇者ちゃんと2週間特訓していた場所だ。
「えーと……話せば長くなりますけど……」
勇者ちゃんはそう前置きして話しだした。
「私が門から出ようとした時、あの門兵さんに声をかけられました。たしか、『君、未成年だよね。若い女の子が一人で旅とは感心しないなぁ』って感じてした。まぁ、私は15ですし子供と思われるのも仕方ありませんけど」
話の途中で申し訳ないが、初めて勇者ちゃんの年齢を知った。出会った日から結局聞く暇無くて聞けなかったんだよなぁ。
「私はその時はまだ親切な方だと思ってました。でもその後……『もしかしたら、家出かい? ならオジサンの家においでよ』と腕を掴まれたんです」
あのクソ門番、ただのエロ親父かよ……と思ったけど話の腰を折るのも良くないと思い口に出すのは止めた。てか、他にも人がいるなかでよくそんな事言えたな……
「私はもちろん断りましたよ? 私のタイプじゃないですし、そもそも知らない人に付いていくほど馬鹿じゃないです。だから、手を払ったんですけど──」
勇者ちゃんがそこで言葉を切る。僅かに手が震えている。そんなに怖いことがあったのか。話したくないなら無理に話さなくてもいいんだけどな。
「手、握ってて貰えますか。話しますので」
「あ、うん……いいよ」
生まれて初めて(前世も含む)異性と手を握った。どんくらいの強さで握ってあげればいいのか分からなくて力入れたり抜いたりしてしまう。
「フフッ。ヴァイオレットさんって、手を握るの慣れてないんですね。意外です」
勇者ちゃんにも笑われた。これでも童貞どころか年齢イコール彼女いない歴の人間ですからね。まぁ、今は人間じゃないけど!
「えーと、話を戻しまして……手を払ったらいきなり怒鳴られまして。『ちょっとは可愛いから楽しんでやろうとしたのに。この低脳勇者がッ!』って言われました。ここまでなら悲しむ程度で終わらせていたんですけど、その後に『最近、お前と一緒にいるって野郎もさぞかし馬鹿なんだろうな』ってヴァイオレットさんを侮辱し始めたのでつい私も言い返してしまい……」
びっくりした。勇者ちゃんが俺の事で怒ったのもそうだが、それよりも
「それで、門兵さんが武器を振り上げたところにヴァイオレットさんが転移してきたわけです」
なるほどね。敵意を抱いた理由は門番が原因、と。でも、やっぱり何で俺の存在がバレたんだろうな。知っているのは宿屋の人くらいで……街中でも門番とは会わないようにしてたから。
「それにしても、どこに行ってたんですか! 私、ヴァイオレットさんがいなくなったと思って一瞬死のうかと思ったんですからね!」
勇者ちゃんが頬を膨らませて怒ってくる。うん、可愛すぎる。ついでに握っている手にちょっと力込めているのも可愛い。
「俺は置き手紙置いていたんだけどね……花瓶のところ。ちゃんと、行き先も書いたし。帰ってこれないかもって、事も」
まぁ行き先は誤魔化しているけど。『魔国』なんて言えないからな。俺の言葉を聞いた勇者ちゃんは一瞬キョトンとしたあと、言葉の意味を理解したのか一気に顔を赤く染める。
「そ、そうだったんですか……すみません、部屋見ただけで勝手に決めつけてしまいました……」
すぐ反省するのもこの子の良いところだよね。思わず抱きしめたくなる。やりませんし、やる勇気もないですけど!
「これからも一緒にいてくれますか?」
「う〜ん。家庭の事情もあるから、保証は出来ないけど……勝手に居なくなったりはしないよ」
きっと、俺は最終決戦の数日くらい前までは一緒にいるんだろうな。勇者ちゃんと一緒にいたいし……
勇者ちゃんを倒したあと蘇生して一緒に旅をしようかな。一応一回倒せば『
「そういえば、ヴァイオレットさんの家庭ってどんな感じ────」
勇者ちゃんの言葉が終わる前に俺は意識を前方に向ける。前方……さっきの街がある方向だ。そっちから何か大きな気配が。
「ッ!? 勇者ちゃん、敵だ。さっきの門番たちだと思う。ここは俺が相手するから、君は逃げて」
大きな気配、では無かった。しかし塵も積もれば山となる。人間の武装集団がこっちに向かってきていた。その先頭には俺が大っ嫌いな気配がある。
「ま、待ってください! いくら何でもあの数は」
勇者ちゃんも敵影を見つけたらしい。肉眼で分かるくらい奴らは近くに来ている。騎馬兵共かよ……そりゃ早いわな。
てか、勇者ちゃんのセリフどっかで……あ、ヴィオレッタと同じこと言ってんのか。
「まぁ、安心しろって。軽く倒してくるから。この先の小さな村に行ってて。そこで会おう」
この先(街とは逆方向)に小さな村がある。練習している時に一度だけお昼を食べにいった場所だ。居酒屋しかなくて勇者ちゃんを連れて行って大丈夫なのか悩んだなぁ。
「ですが……」
「いいから行けって。大丈夫、ちゃんと会えるさ」
俺は勇者ちゃんと繋いでいた手を離す。なかなか勇者ちゃんが離してくれなかったけど、なんとか離した。
「はぁ……今回だけだよ」
俺はそう前置きすると、そっと勇者ちゃんを抱きしめる。もしかしたら嫌がられるかもだけど……手繋ぎたがっていたのだから、これくらいしても問題ないだろう。
「ほら、早く行って」
「……分かりました。絶対死なないでくださいね」
勇者ちゃんはやっと納得してくれたのか、立ち上がると街の方に向かって行った。はぁ、恥ずかしかったな。
「いたぞ! あいつだ」
「慈悲なんて存在しねぇ。己の罪を悔いて死ね。
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