第16話
「うぉぉぉぉぉ!!」
前方から叫び声が聞こえる。さぁ、決戦の始まりだ。
一見無謀に見える突撃攻撃。しかし彼らを囮にして俺の背後に転移してくる奴がいる。……こいつら、さては最初から同時に攻めるつもりだったな。まさかの
まぁ、そんな事は置いておいて……魔法を発動させる時、特有の魔力の動きを感じる。これは昔側近やヴィオレッタに言ったことがあるのだが、かなりの大魔法じゃない限り分からないと言われた。はい、自慢です。
とりあえず、後ろに現れたの分かったので……
「万年桜
これは高速で回転することで俺の半径1メートルくらいに万年桜の覇気が吹き荒れる状態にする技。無論真後ろに転移した奴なんか桜と化した。
俺に転移が読まれたのが驚きだったのか、突撃部隊が一瞬足を遅めた。その一瞬を見逃す俺じゃない。
「止まらなかった事は褒めてやる。
これは万年桜とはまた別の技。桜流なのだが、使っている刀が違う。千紫万紅桜という刀で、万年桜に似た覇気を纏っている。
この刀はまだ万年桜の覇気を制御できない時に俺が愛用していたものだ。まだ万年桜では出来ない、覇気を飛ばすという技を使える。
この覇気が当たった者は桜にはならないが、体中に桜の花が咲き誇る。しかもその花の濃淡は対象によって変わるので千紫万紅桜と名付けた。
斬性桜吹雪はさっきも言った通り、覇気を飛ばす技。無数の覇気を飛ばす吹雪の様で、桜流なので斬性桜吹雪と名付けた。
さて、とりあえず突撃部隊は全員体中に桜の花を咲かせた。あの花は対象から魔力や生命力、血液を吸い取るので長時間咲かせていると確死する。まぁ、死なれたら困るので解除っと。
動けないようで、一応戦闘不能かな。さて、残ったのは……突撃部隊でもなく奇襲部隊でもなく、魔法部隊。どうやら大魔法の詠唱をしているらしい。
……待つか。
「おい、馬鹿か! 止めろよ。お前でも戦闘不能になるぞ」
ヴィオレッタが外から叫んでくる。外からの口出しは御法度なんだけど……まぁ、観客の総意かもしれない。
「そうかもな。そうなったら、あいつらの方が強かったってだけさ。折角頑張っているんだ。その成果を見てやるのも上に立つ者の役目さ」
決闘において上下関係もくそもあるか──とヴィオレッタの顔に書いてあったが知らないね。
「お待ち頂きありがとうございます。では、遠慮なく」
魔法部隊のリーダー格が律儀にお礼する。まぁ、お礼と見せかけて地面に魔法を打ったのは見逃さない。そして、超巨大な火球が放たれた。
火属性魔法
あの火球の温度は数万度を超えることがあるほど強烈な技だ。扱うのはかなりの魔力の量と精密な操作が必要で……ふむ、最近の若者もやるなぁ。
「魔族は魔力操作が得意なんだぜ。その頂点たる俺は誰よりも魔力操作に長けているに決まってんだろ」
俺は火球を形成している魔力の流れを読み解く。そして、それを断ち切るように自身の魔力を流す。イメージは水の流れを止めるように水路に木の板を置く感じ。
魔力は基本水で表せる。どんな形にもなり、勢いも自由自在に変化する水……魔力も使う者によって様々な形に変化するし威力も自在だ。
まぁ、そんな余談は置いといて……かなりの威力を誇っていた火球は一瞬にして消滅した。ついでに、地面から来た魔法も消滅させる。
「なっ……!」
「疲れすぎだろ。エネルギー効率が悪いなら実戦では使うなよ」
あいての魔法部隊は全員が息を切らしていた。魔力を使いすぎた時はかなり疲れるからなぁ。あんまり長期戦したら可哀想だし、本物の魔法を見せてやるか。
「紫電雷」
『紫電雷』は俺が持つ魔法の中で最大の威力を持つ。そもそも自然界の雷というのは人が直撃すれば間違いなく死ぬような品物だ。
この『紫電雷』はその雷を魔法で再現したものだ。紫電は、死電とかけていたりする。あと、紫の雷が出て格好いい。
威力は最小限に抑えたけど……黒焦げになってピクピクしている魔法部隊がいた。死んではなさそう……死にかけ、かな。
「えーと……勝者、魔王ヴァイオレット」
ヴィオレッタの宣言を聞きながら、俺は少しだけ思う、やりすぎたかな──と。一応全ての技の威力は最小限に抑えたんだけど……参加していた兵士たちは一人残らず戦闘不能になっていた。
さてと、事後処理はヴィオレッタに任せて早く勇者ちゃんのところに向かおう。勝負は一瞬だったが、それでもかなりの時間がかかった。てか、移動でかなりの時間がかかった。
「兄上、まさかこの惨状を俺に押し付けるつもりか!?」
ヴィオレッタが何か言っているが、そもそもこの決闘はあいつの負担を減らすために行われたようなものなのだから、別に気にしなくてもいいだろう。
自業自得ってことで。俺はこれ以上いると完全に事後処理まで手伝わされそうなので、逃げるように転移する。てか、早く勇者ちゃんに会いたい。
◇ ◇ ◇
俺は転移して宿に戻ってくる。いつもの部屋だ。日差しが窓から差し込んでいる。もう朝……いや、昼くらいか?
俺は改めて部屋の中を見回して気づく。勇者ちゃんがいない……それどころか荷物とかも全部無くなっていることに。
まさか──と思って、出る前に置いた手紙を見る。花瓶の位置が動いてないし、さては読んでないな。読んでくれていたらいなくなったりはしないだろう。
はぁ──とため息をつくと、再び転移する。勇者ちゃんが今どこにいるのかは分からないが、気配を追えばいいだけだ。2週間も一緒にいたんだ、気配くらい覚えられる。
「……って、門番のところにいるじゃねぇか」
なんと、勇者ちゃんは今門のところにいる。恐らく気配が動かないので誰かと話しているのだろう。そして、門のところで話す人物と言えば『門番』である。
俺はこの街に来た時の一件で門番の気配にも敏感になっていた。あいつはたまに巡回とかするから街中でも遭遇する可能性があるからな。そして、その気配が勇者ちゃんの気配に混じっている。
はぁ──と再びため息をつく。早く会いたいけど、門番が邪魔なんだよなぁ。あいつとは会いたくない。暫く待つか……
という訳で、待つことにしたのだが……どうやら動かねばならないらしい。というのも、勇者ちゃんの気配に敵意が混じり始めたからだ。
勇者ちゃんが誰かに敵意を持つのは珍しい。それは、昨日……もう、一昨日か。一昨日の一件で分かっている。あのチンピラにも敵意を持たなかった勇者ちゃんが敵意を持っている。まず間違いなく異常だ。
仕方ない。あの門番には会いたくないけど──と俺は気配の元に転移する。
「大人しくしろってんだッ!!」
転移した瞬間、耳元で叫ばれる。そして、明確な殺意……俺は反射的に右腕を振った、その手に瞬時に取り出した万年桜を握って。
「ッ!?」
鮮血が舞う。まるで紅い大輪の花が咲くように……
桜流
俺は、殺意を向けてきていた相手……門番の右腕を切り飛ばしていた。門番は驚きに満ちた顔でこちらを見ている。今起きた事が理解できないって顔だな。
「さてと、目撃者も多いし……話は後で聞くね、勇者ちゃん」
門番と同じく驚いた顔でこちらを見ていた勇者ちゃんを抱き寄せると俺は転移魔法を展開する。いつものだと、俺だけが転移しちゃうので今回は空間ごと転移させる。
転移魔法 空間転移
俺と勇者ちゃんの真下に魔法陣が現れる。その魔法陣から発せられた光が二人を呑み込み、何処かへ飛んでいく。音速を超えるそのスピードに大地が抉れていることなんて気にしてない俺なのであった。
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在庫切れです……昨日の夜も執筆が間に合わなくて投稿できませんでした。申し訳ございません。今日の夜も無理かな〜っと思います。
また書けたら投稿するのでその時はぜひ読んでください。応援とかコメントとかとても励みになります。これからもよろしくお願いします!
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