2章『旅立ち』

第13話

 朝目覚めると既に勇者ちゃんはいなかった。どうやら先に起きたみたいだ。食堂に行っているのかな……


 とりあえず俺は顔を洗う。やっぱり寝起きにこの冷たい水で顔を洗うのは気持ちいい。これは前世の癖でもある。


 魔国の水は質が悪くてとても洗えたもんじゃないから、水質改善を本格的に行った。今では顔を洗えるどころか飲めるようになっている。魔族に水は必要ないけど……


「あ、ヴァイオレットさん起きたんですね。おはようございます」


 顔を洗ってベッドに座ってぼーっとしてると勇者ちゃんが入ってきた。頬にソースが付いてるし、やはり食堂に行ってきたのだろう。


「え、嘘! 付いてますか?」


 俺が頷くと勇者ちゃんは洗面台の方に向かっていった。可愛いな。さてと、俺も朝飯食べに行くかー。昼と夜は一緒に食べているが、朝は別々に食べている。


 起きる時間がお互いにバラバラだから、相手を待たせる事があって申し訳ないからな。あと、朝はのんびりするのが俺のルーティーンだから。勇者ちゃんは朝に強いらしくキビキビ動いている。


「あ、ヴァイオレットさん。食事が終わったら話があるんですけど、いいですか?」


 洗面所から顔だけ出して勇者ちゃんは言う。まだソース落ちてないけど、何をしていたんだろ──と思ったけど、今は流す。


「うん、了解。なるべく早く帰ってくる」

「ありがとうございます」


 朝はのんびりするのが俺のルーティーンなんだけど……待たせるわけには行かないよなぁ。俺は早足で食堂に向かった。


 今日のメニューはご飯と卵焼きとサラダとスープだな。意外と日本の朝食に似ているが、栄養バランスを考えると似通ったものになるのかな……


「てか、あの子は何でソースを付けたんだ?」


 考えられるのは目玉焼きにソースを使った可能性。でも、ここのおばちゃん(いつも料理ニコニコで作っている人)は塩胡椒しおこしょう派だから、多分ソースは出てないはずだけど……


 勇者ちゃん七不思議だな。1つ目は寝言に俺の名前がよく出てくる。2つ目は身体能力化け物のはずなのにか弱い。そして3つ目がソースないのに頬にソースを付ける。これからも増える予定だ。


 色々考えながら料理を口に運ぶ。考えている事は魔国の事とかかなー。政治とか諸々。そういえば、魔国の貴族が本気を出せばこの世界から人間が消えることになるんだよなぁ、と思う。


 正直、勇者以外は驚異じゃない。それに俺の代になってから集団戦法ってのを学んだから過去1強い。個人の力もだが頭のキレも、俺が歴代最強と称される理由だ。


 ちなみに、勇者ちゃんが前に言っていた『魔王を倒したのに魔物は消えるどころか知性が増し強くなるばかり』ってのは俺の仕業だ。下位の魔物までも俺が戦闘術を学ばせたのだ。


 そんな事を考えていると料理が無くなっていた。取られたとかじゃなく俺が完食しただけです。ごちそうさまでした。


 そういえば、この世界には『いただきます』『ごちそうさまでした』の文化がなかった。今はこの宿の人の間に広まっている。俺が言っているのを聞いた勇者ちゃんと女将さんが言い始めてそれを真似する人が続出した。


 のんび〜り食器を返しに行く。ん? なんか忘れているような…………あ! 勇者ちゃん。


 完全に勇者ちゃんの事を忘れていた俺。さっきまで無駄にした時間を取り戻すように俺は歩く速度を上げる。他の人から変な目で見られたけど気にしない。


 食器を返すと俺は転移魔法を発動させる。急いで帰ってきた事がバレないように転移先を扉の前にして……俺は転移した。


 扉の前に転移すると俺は扉を開ける。正確に言えば、開けようとした。した、けど……俺が触れる前にドアノブが回る。俺は驚いて離れる。そしてゆっくり扉が開くと……


「何してるの、勇者ちゃん……」

「うひゃい!」


 扉から頭だけ出して周りを伺う勇者ちゃんがいた。俺とは反対側を見ていたので不意打ちみたいになってしまったが、事故だ。故意はない。


「あ、ヴァイオレットさんですか……びっくりさせないでくださいよぉ」


 だから事故なんだってば……確かに俺は勇者ちゃんが見ていた方向から帰ってくるけど、勝手に扉が開いてびっくりしたのだ。仕方ない。


「むぅ……そういう事なら仕方ないですね。さっきの声は、忘れてください」


 さっきの声って「うひゃい」ってやつ……おっと、睨まれた。無かったことにした方が良いらしい。


「とりあえず、入ってきてください。話をしましょう。安心してください、真面目な話です。」


 勇者ちゃんはそういうと顔を引っ込めた。子猫みたいだよな、勇者ちゃんって……とりあえず待たせるのも良くないし入ろう。


 部屋に入ると、勇者ちゃんはベッドに腰掛けていた。俺は床に座るのも違うような気がして勇者ちゃんの隣に座る。ちょっと間空けてたのに勇者ちゃんにが詰めてきた気がしたのは気のせいだろうか。


「その……話って?」


 何故か勇者ちゃんが喋り始めないので俺から切り出した。


「えーと……今更ですけど、ヴァイオレットさんを巻き込むのは良くない気がしてきました」


 何やらよく分からないけど、話をするのを躊躇っているらしい……別に気にする必要はないのに。俺は勇者ちゃんの仲間だ。今は、だけど……


「そうですか……分かりました。話というのはですね」

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