42話 ゴーレム戦

ユキノの休憩と、皆の食事が済んだら行動を開始する。


洞窟を抜け、ユキノの案内の元、森を進んでいく。


そして、一時間ほどで目的地に着いた。


そこは木が1本も生えておらず、真ん中に不自然に大きな洞窟があった。


「なるほど、怪しさしかないな」


「でしょー?」


「それに、ヒリヒリしますぜ」


「わかりますわ……アルスとの決戦を思い出します」


「わたしもですぅ……猛獣がいるみたいです」


「コンッ!」


「俺を含めて、全員が同じ気持ちか」


皆、激戦をくぐり抜けた猛者達だ。

そうなると、確実に出てくるだろう。


「どうしますー?」


「敵の種類はわからないし、出たとこ勝負になりそうだ。なので、作戦はあえて立てない。とりあえず、臨機応変に対処する。前衛はアイザックにユキノ、中衛に俺とフーコ、後衛にエミリアとニールくらいか」


「まあ、それしかないっすね」


「それじゃ、行きますかー!」


このメンバーなら、作戦らしい作戦などいらない。

俺たちは木の陰から飛び出して洞窟の前に立つ。

すると、辺り一面を結界が覆う。

そして、眩い光を放った……目を開けると、そこはだだっ広い闘技場になっていた。

おそらく、東京ドームくらいは軽くある。


「異次元空間か!」


「ダンジョン前なのに豪勢ですねー」


「アルス、魔力を感じますわ! 中央に何かきます!」


次の瞬間、中央付近に魔法陣が浮かび上がり……そこから、四メートルくらいのゴーレムが現れる。

足も腕も太く、黒く大きな身体。

その両目はギラリと光り、機械的な動きを見せる。


「ゴァァァァ!」


「ちっ! よりによってゴーレムかよ!」


「兄貴! 何かまずいので!?」


「こいつらは、とにかく硬くて強い! 魔法防御、物理防御共に優れている! そして攻撃力は見ての通りだ! 魔物の一種で、一国の軍隊を壊滅させたこともある!」


さらに厄介なことに、この制限された場所だ。

見晴らしが良ければ、まだやりようはある。

遠距離からの砲弾や魔法を使って削っていけばいい。

しかし、今回は結界に閉じ込められるのでそうはいかない。


「アルス! 周りにも魔物達が!」


「だァァァ! くそったれな罠だな! これでレアじゃなかったら怒るぞ!」


ゴーレムの周りに、ゴブリンやオーク、コボルト達が現れる。

不幸中の幸いなのは、全員が下級ってところか。


「ふぁ〜!? どうしよう!?」


「ご主人様ー! 多分、雑魚は幾らでも現れる仕様かもです!」


「ああ、そうだろうな。だが、まずは数を減らさんことにはどうにもならん。フーコ! 俺のそばに来い!」


「コンッ!」


すぐに反応し、俺の前にやってくる。

その目にはやる気があり、少しも臆してない。


「はっ! いい目だっ! いいか? 風を俺の炎に合わせろ。そして、思いっきり魔力を込めろ」


「コンッ!」


「うし! すぅ……愚かなる者共、我が炎の波に焼かれよ——フレイムウェイブ」


「コーン!」


俺の炎の波を追って、風のブレスが追いかける。

そして、途中で合わさり……炎の竜巻と化す!

名付けて、フレイムストームだ。

それが、ゴーレムを中心として暴れる。


「……よし、あらかた片付いたか」


「コンッ!」


「ああ、よくやったな」


そこにはゴーレムを除いた魔物が消え去っていた。

相手が動き出す前に放ったので、一網打尽できたってわけだ。


「ふぅー! すごいですね! ただ、すぐに出てきますよ?」


「ああ、わかってる。だが、いっぺんに出てこれるわけではないだろう。ニール! 魔物が出現次第撃ち抜け! フーコはニールの護衛で雑魚を近寄らせるな!」


「は、はい〜!!」


「コンッ!」


「アイザックとユキノはゴーレムを牽制!」


「へいっ!」


「はーい!」


二人が走り出してゴーレムに迫り、攻撃を仕掛ける。

すると、ゴーレムが拳を振り下ろして反撃をしてきた。

その様子を、俺はじっくり観察する。


「ちょっと? 私は何をするのです?」


「少し待ってろ、あいつのパターンを見てる。お前も一緒にみてくれ。どうやら、近づいてくる相手を優先して攻撃するタイプか?」


「そうですわね、私達がこうして隙を晒してるのに来ませんし。そして、アイザックさんの攻撃を嫌がってる感じですわ。ユキノさんの爪は、ほとんど無視されてるかと」


「つまり、ユキノの攻撃力ではダメージが与えられない。アイザックのは与えられるってことか。そして魔法は、さっきの通り大して効かないと。お前の水魔法はどうだ?」


「ゴーレムの属性は土ですわ。味方として合わせる分には相性いいですが、敵となるとよくはないですの」


俺の刀なら切れるか? 自信はあるが、切れる保証もないか。

いや、それでも一撃では倒せない。

見たところ、アイザックがつけた傷がなくなってる。

多少だが、自動再生機能もあるってわけだ。


「全く、厄介な相手だ」


「当たり前ですわ、本来なら軍隊で戦うような相手ですもの。硬い強い、ゴーレムなので体力も無尽蔵……どうするんですの?」


「そうだなぁ……ん? ああ、あいつに御誂え向きな技があったな」


「えっ? な、なんですの?」


俺は簡単にエミリアに作戦を伝える。


「……そんなことで?」


「ああ、あいつ相手ならいけるはずだ」


「わかりましたわ、あなたの提案に乗りますの」


「んじゃ、いっちょやるとするか」


「ふふ、共闘だなんて考えられなかったですわ」


「そいつは言えてるな」


俺達は顔を見合わせ、同時に微笑む。

そして俺は、不思議な高揚感を感じていた。

こうして、幼馴染と共闘できることに。


「アイザック! ユキノ! 今から特大の炎を放つ!」


「おおっ! 了解っす!」


「もー! ようやくですかー!」


「タイミングを見て避けろよー!」


二人が頷くを確認して、俺も準備に入る。

流石に大技を繰り出すのは、大量の魔力と詠唱が必要になる。

ありったけの魔力を……あいつを燃やし尽くすほどの熱を。


「へ、平気ですの? 恐ろしいほどの魔力が集まってますわ……制御できますの?」


「も、問題ない……これしきを制御できなくては魔王の名が廃るってな」


「ふふ、それくらい言えるなら平気そうですわね。では、私も準備に入ります」


「ああ、俺が放ったらすぐに撃ってくれ」


……こうして、溜める時間があるのは幸せなことだ。

これまでは、ユキノと二人だったからそうはいかなかった。

だが、今はこうして仲間がたくさんいる……悪くない気分だ。


「よし! 二人とも!」


「「はっ!」」


すぐに察し、ゴーレムに一撃を加えて引き下がる。

周りの雑魚どもは、予定通りにニールとフーコが片している。

もはや、俺と奴の間には障害物はない。


「地獄の業火よ、我が敵を滅せ——ヘルフレイム!」


「ゴァァァァ!?」


俺の放つた火の玉がゴーレムに着弾し、爆発的に燃え上がる!

敵が燃えるまで消えないとされる技だが……やはり耐えるか。

ぷすぷすと煙を上げながらも、その傷が再生しようとする。


「ゴガ……ガ……ガ」


「エミリア!」


「わかってますわ! 私だって慣れてませんの! ふぅ……氷の槍よ、相手を打ち貫け——フリーズランサー!」


高速で発射された氷の槍がゴーレムに当たり……砕け散った。


「ちょ!? 私の魔法の方が砕けましたわよ!?」


「だァァァ!? 身体を揺らすなって! ほら! よく見てろ!」


「なにを……へっ?」


ピシピシとひび割れた音が響き渡り……ゴーレムが砕け散った。


「な、何が起きたんですの?」


「簡単な話さ。熱したモノを冷やすと、壊れやすくなる」


「ど、何処でそんな知識を?」


「さあ、何処だろうな。まあ、別にいいだろ」


そして、結界が溶けて元に戻る。


そこには、ゴーレムの残骸だけが残っていた。


前世の記憶か……そのうち、こいつらにも話しておくべきかもしれん。



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