24話 スローライフしたいのにハプニング

……いい、これこそが求めていたものだ。


朝寝坊をして、犬もとい、狐を連れて散歩する。


「これがスローライフってやつか」


「コンッ!」


「うむうむ、可愛いやつよ」


フーコは楽しいのか、時折飛び跳ねたりしている。

尻尾も振られ、明らかにご機嫌な様子だ。

俺は魔法で周りを暖かくしつつ、領内にある畑や家々を回る。


「領主様! 今日もありがとうございます!」


「なに、気にするでない。それより、何か困ったことはないか?」


「なんとお優しいお言葉を……はい! 野菜も順調に採れてきてますし、魔獣を狩って来てくれるのでひとまずは平気です!」


「それなら良かった。それでは、他を回るとしよう」


なんというか、心なしか人に優しくなれる気がする。

これももふもふ効果というやつか。

そして、相変わらずフーコは人気者らしい。


「あぁー! フーコちゃんだっ!」


「ほんとだっ!」


「コンッ!」


子供達が寄ってたかって、フーコを撫で回している。

本人もまんざらではないようで、されるがままになっていた。

すると、それに気づいたお母さんが駆け寄ってくる。


「こ、こら! いけません! 領主様はお仕事中なのですから!」


「いや、気にしないで良い。散歩も兼ねた休憩のようなものだ。それより、寒くはないか?」


「は、はい! 領主様が魔石に込めてくださったヒート?ですか? あれがあるので、外に出ても平気ですし、寝るときも助かっております」


「そうか、足りなくなったらいうが良い」


「か、感謝いたします!」


どうやら、俺が作ったホッカイロもどきは評判らしい。

ただもうほとんど魔石が無いので、早急に用意する必要がある。

出来るだけ家や畑を回って、直で火を灯して節約はしているが。


「フーコちゃん! あれやって! 今なら暖かいし!」


「コンッ!」


「ん? なんだ? ……ほう、流石は風の申し子か」


フーコの風によって、子供達が少しだけ空に浮いている。

おそらく下から風を送り、宙に浮かせているのだろう。


「わぁーい! すごーい!」


「浮いてるー!」


「いつもこうやって遊んでくれるみたいで……子供たちの笑顔なんて久々に見ました」


「ふむ、そうなのか。まあ、子供達は領地の宝だ、元気なのは良いことだ」


「領主様……! なんという……そのような方がいたなんて」


なにせ彼らが、俺の老後を支える労働力となるのだから。

俺のスローライフのためにも、元気に成長してもらわねばなるまい。

そのためには、たくさん遊ばせて食べさせなくては。

いわゆる、先行投資というやつだ。


「ん? 待てよ? 人が浮くくらいの風が吹けるということは……」


「領主様?」


「いや、何でもない。引き続き、子育てを頑張ってくれ。こちらも出来る限り、補助はさせてもらう」


「は!はい! よろしくお願いいたします!」


俺は子供達を説得して、再びフーコを連れて歩きだす。

そして、とある考えが浮かんだ俺はドワーフのダイン殿の元に向かう。

ちょうど、外で作業をしているのを見つけたので声をかける。


「おっ、ここにいたのか」


「むっ、アルス様か。フーコもよくきたのう」


「コンッ!」


「そうかそうか、散歩させてもらって良かったのう」


フーコを撫でる姿は、好々爺といった感じだ。

普段の厳格な姿はどこにもない。

やはり、もふもふは癒しの効果があるか。


「ところで、わしに何か用だろうか?」


「ああ、今は大丈夫か?」


「うむ、ここにある建物のチェックをしておるだけだわい」


「実は頼みがあってな」


俺は先程思いついた内容を、ダイン殿に伝える。

といっても、話自体は単純なことだ。

エアコンのようなものを作れないか提案した。

フーコの風属性と、俺の火属性を合わせれば暖房ができるのではないかと。


「ふむふむ……なるほどのう。確かにそれができれば快適な生活ができるか」


「温度調整なんかもできるので、畑とかにも応用が効くはずだ」


「ほう? ……お風呂場をあっためたりもできますな」


「おっ、確かに。いや、サウナとかもできるか……」


「むむっ、サウナですかい? それは一体どういうもので?」


「えっと、サウナというのは……」


ひとまず、俺が知る限りのサウナの形を伝える。

詳しい構造はわからないが、きっと彼ならわかるはず……丸投げだ。

すると、彼がフーコを撫で回しながら考え込んでしまったので、手持ち無沙汰になる。

なので、特に何も考えずに建物の扉に手をかける。


「ここは……風呂か? ん、ということは……」


「きゃっ!? ア、アルス!? 何をしてるんですの!?」


そこには、タオルを巻いただけの姿のエミリアがいた。

その生足は水滴で艶めかしく映り、胸元には谷間が出来ている。

綺麗な金髪は肌に張り付きしっとりし、まさしく絶世の美女といっても過言ではない。


「あっ、いや、これは……いい湯だな(キリッ)」


「こんの……いい湯だなじゃありませわ!!アクアショット!!


「ギャァァァァァ!?」


巨大な水の弾を喰らい、扉の外に放り出される!

そして、すぐにドアが閉められた。


「つ、つめてぇぇぇ……!」


「アルス様、何をやってるんじゃ? まさか、覗いたのか?」


「の、覗いたつもりはなかったさ! ただ、何の建物なのかと……」


「あっ、言ってなかったわい。ここが女湯じゃよ」


「……まだ掘っ建て小屋じゃない? 中には小さい脱衣所と湯船しかなかったが?」


その小ささゆえに、俺が入った男湯と一緒の建物とは思ってなかった。


「いや、いきなりお嬢ちゃんがきて風呂に入りたいと……男湯の方を進めたら、それは無理とのことじゃった。なのでまだ完全ではないが女湯があると言ったら、入らせてくれと頼まれてのう」


「あぁー……そういうことね。いや、公爵令嬢であるエミリアなら仕方ないか。すまん、うちの連れがわがままを言ったようだ」


「いや、気にしてないわい。言い方も丁寧にじゃったし、貴族の女性なら仕方あるまい」


自分の身体を魔法で温めつつ、ダイン殿の話を聞いていると……ドアがゆっくり開く。

そこには、耳まで真っ赤になったエミリアがいた。


「み、見ましたわね?」


「いや、あれは……違うな。ああ、すまなかった」


言い訳するのは男らしくないので、潔く頭を下げる。

どんな理由があろうとも、俺が覗いたことは事実だ。


「い、いえ、話は聴こえてましたわ……それに私が無理を言って鍵ができる前に入ってしまいましたから」


「それに関してはわしもすまない。つい、アルス様の話に夢中になってしまった」


「そうか……まあ、良いものを見れたわ」


「も、もう! からかわないで!」


「いや、からかってないさ。それより、何かお詫びがしたい。何か願いがあるなら聞こう」


水魔法をくらったが、それでも俺の気が済まない。

それに、ここで貸しを作っておくと面倒だし。


「……何でも良いですの?」


「ああ、俺にできることなら」


「それじゃ……して欲しいことがありますわ」


俺はその願いを聞いて、快く了承する。


すぐに準備を済ませ、行動を開始するのだった。




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